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【3つのお題に…第60回】『星空列車』【ほのぼの】

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ようこそ、皆さま!セイウチです。

今朝も波打ち際を散歩していたら、ガラスの瓶がひとつ、打ち上げられているのを見つけました。

中に入っていたのは、深い森と夜空を旅した誰かの記憶。

あたたかいコーヒーでも淹れて、アナタも一緒に読んでみませんか?

それでは、今日の漂流記をお届けします。


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「四つ葉の森」


「四つ葉の森」は、足を踏み入れてから一時間もしないうちに、その本当の姿を現した。

​どこを歩いても同じような青々とした木々が続き、踏み固められたはずの小道はいつの間にか消えていた。
焦って歩き回るうちに、林の隙間から見えていた夕焼け空は濃紺へと溶け落ち、森は完全な夜の闇に包まれてしまった。

​不気味な風の音に震えながら彷徨っていると、かすかな水の音が聞こえてきた。
辿り着いたのは、小さな川のほとりだった。

​「あ……」

​思わず声が漏れた。
対岸へ向かって、川の中をゆっくりと渡っていく生き物がいたからだ。
月光を反射して、まるで陶器のように白く輝く、大きな亀だ。


「川を渡る白い亀」

​「白い亀だ!」

​驚いて叫ぶと、亀は川の途中でぴたりと足を止め、のっそりと首をこちらへ向ける。

​「こんな森の深くに人間とは、迷子かの?」

​しわがれてはいるが、どこか穏やかな声だ。
亀は当たり前のように喋り、川の浅瀬を指し示しながら「ついておいで」と首を振る。
渡りきった対岸で追いつくと、亀は甲羅のすき間から、一枚のさくらの形をした透き通るような切符を取り出し、差し出してきた。


「花びらの切符」

​「この奥に『笑う地蔵』がおる。その切符は、あの地蔵に渡すとええ」

​理由を聞く間もなく、白い亀は深緑の草むらの中へと消えていった。


​切符を握りしめ、森のさらに奥へと進むと、暗がりの中にポツンと石のお地蔵様が立っていた。
月明かりに照らされた顔は無表情で、じっと固まっている。

​「こんばんは……」

​恐る恐る声をかけてみたが、返事はない。
思い出して、手のひらに乗せた「花びらの切符」を差し出してみた。


「山奥の笑う地蔵」

​すると、お地蔵様の石の顔が、まるで柔らかい粘土のようにぐにゃりと歪んだ。
耳まで届きそうな満面の笑みを浮かべたかと思うと、なんとその場でピョンピョンと無邪気に跳ね回り始めた。

​お地蔵様はクルリと向きを変え、先へと跳んでいく。慌てて後を追うと、森の開けた場所に、まるで星のくずを集めて作ったかのような「光輝く橋」が架かっていた。


「夜だけに光る橋」

​橋を渡りきったところで、お地蔵様が立ち止まり、振り返った。
その瞬間、どこからともなく『ぽっぽー』と優しい汽笛の音が響き渡り、空から色とりどりの花びらが撒き散らされた。

​舞い散る花びらの向こうから現れたのは、小さな蒸気機関車だった。
目の前で静かに扉が開く。
吸い込まれるようにステップを登り、車内から振り返ってお礼を言うと、お地蔵様は満足そうに大きく手を振ってくれた。


​扉が閉まると、列車は煙の代わりに、大量の鮮やかな花びらを撒き散らしながら動き出した。
線路のない夜空へ向かって、ぐんぐんと角度を上げて駆け上っていく。

​​分厚い雲を突き抜けた先には、言葉を失うほどの景色が広がっていた。
眼下に広がっていたのは、ただの白い雲ではない。
まるで甘い夢を溶かし込んだような、淡いピンクと薄藤色がやわらかく混ざり合う、幻想的な雲の海だった。


「夜空を駆ける幻想列車」

​そのパステル色の雲海の上に、手を伸ばせば指先が触れそうなほど近くに、満天の星々が眩しく輝いている。

​窓枠に手をかけ、息をのんでその景色を眺めていたが、汽笛の心地よいリズムと車内の温もりに、次第に強い眠気が襲ってきた。
瞼が重くなり、ピンクと藤色のグラデーションと星の光が交じり合って滲んでいく。
そのまま僕は、深い眠りへと落ちていった。

​◇

​「……おい、起きなさい!」

​肩を揺さぶられて目を覚ますと、そこは四つ葉の森の外、いつもの街道沿いだった。
すっかり朝になっていた。

​心配して探しに来ていた両親には、昼間から姿を消していたことをこっぴどく怒られた。
「森で亀に会って、お地蔵様と汽車に乗った」なんて言える雰囲気ではなかった。

​家へ連れ戻される道中、僕は呆然と歩きながら思い返していた。
どこまでも広がる星空と、雲の海。
あの不思議で美しい体験は、暗い森で見つめた一片の夢だったのだろうか。

​ポケットの中に、ふと違和感を覚えて手を突っ込んでみる。

​指先に触れたのは、つるりとした一枚の綺麗な花びらだった。
朝日にかざすと、それは星の光を閉じ込めたように、微かにキラリと輝いた。


(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただきありがとうございます!


「もしも森の奥で、星空へ行く切符を手に入れたら——」そんな想像から生まれた小さなショートショートです。

​忙しい毎日のふとした合間に、夜空を走る花びらの汽笛の音を感じていただけたなら嬉しく思います。

あなたのポケットにも、小さな星の光が届きますように。


【片桐 みかん】さん、素敵な企画をありがとうございます!



毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!



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