【毎週ショートショート】『迎え火オペラ』【ファンタジー】
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ようこそ、皆さま!セイウチです。
波打ち際を歩いていたら、今夜もひとつ、少し不思議な瓶が流れ着いていました。
瓶の栓を抜いて中の紙を広げてみると、少し切なくも美しい夜の物語が書かれていましたよ。
温かいコーヒーでも片手に、僕が拾った『迎え火オペラ』という名の小さな漂流記を、ゆったりとお楽しみください。
アナタの心に、この物語の余韻が優しく届きますように。
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静まり返ったお盆の夜。
門口に置かれた焙烙(ほうろく)の上で、麻殻(おがら)がパチパチ、パチ……と小さな音を立てて爆ぜていた。
ご先祖の魂を迷わせぬよう灯された「迎え火」の揺らめきは、闇の底にぽっかりと浮かぶ橙色の舞台のようだ。
その熱と光に誘われるように、草むらから鳴き虫たちが姿を現した。
スズムシが涼やかな琴を奏で、コオロギが低く太い弦を鳴らす。
やがて、火の光が届く特等席へ一匹の虫がピョンピョンと跳ねて躍り出た。
火の粉を反射してその背を黄金色に輝かせながら、虫は朗々と、しかし息をのむほど透き通る大きな羽を打ち震わせ美しい歌声を響かせ始めた。
それは夜の静けさを引き裂く、至高のソロ・アリアだった。
歌声に呼応するかのように、闇の深淵から夏の虫たちが続々と集まってきた。蛾、黄金虫、羽虫たちが、歌声の旋律に合わせて火の周りをぐるぐると旋回し、狂おしく舞い踊る。
伴奏は次第に熱を帯び、合唱の渦は大きくなっていく。
曲が最高のクライマックスを迎えたその瞬間、夏の虫たちは歓喜に満ちたフィナーレを求めるかのように、次々と燃えさかる火の中へと飛び込んでいった。
虫たちの命を飲み込み、迎え火はゴォゴォ……と凄まじい音を立てて燃え盛る。
その烈火に照らされながらも、一匹の歌い手は乱れることなく、どこまでも美しく、透明な歌声を夜空へと打ち上げ続けた。
やがて、伴奏を奏でていた鳴き虫たちも、吸い寄せられるように一匹、また一匹と炎の渦へ身を投げていく。
楽器の音が一つずつ消えていき、ついに舞台の上に残されたのは、あの美しい歌い手ただ一匹となった。
歌い手は最後のフレーズを完璧に歌い上げると、そっと羽を閉じた。
そして何のためらいもなく、一際高く立ち上る橙色の炎の中へと跳び込んだ。
炎は拒むことも焼き尽くすこともなく、愛おしいものを包み込むように優しくその体を抱き寄せ迎え入れた。
重なり合った命の重みを受け止め、迎え火はパチパチ、パチ……と、満足気な余韻を残して小さく爆ぜた。
(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回のお題『迎え火オペラ』を見た瞬間に「飛んで火に入る夏の虫」が頭に浮かんでそのまま勢いで書いた作品です。
楽しんでいただけると幸いです。
【田原にか】さん素敵な企画を本当にありがとうございます!
毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!
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