アナウンサーへの無謀なチャレンジ、その後の意外な結末 前編
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「いいなあ、憧れる。」
母の知人のアナウンサーと話した際、
彼女の放つ凛としたオーラに
完全に圧倒され、私の心は惹きつけられた。
私にはない彼女のかっこよさに強く憧れを感じ、
「アナウンサーになりたい」
という新たな夢が芽生えたのだ。
当時、私は大学3年生。
専攻は社会福祉学科。
入学当初は、
ソーシャルワーカーを目指していた。
しかし、親元を離れて、
自由な生活を送るうちに、
もっと自分を解放したいという欲求が
芽生え始めてきていた。
アルバイトで自由になるお金ができ、
自分の意思で
何かにチャレンジできる環境に身を置くと、
「本当にソーシャルワーカーになりたいの?」
という問いかけが湧いてくるようになっていた。
それまではボランティアサークルに所属し、
人のために手助けすることに生きがいを
感じていた。
けれど、
ずっと「人のため」を優先してきた反動か、
段々と違う世界を見てみたくなったのだと思う。
住んでいた地方都市でアナウンス教室を探すと、
学生のアルバイト代でも通えるクラスを
見つけた。
「ここなら通えそう」と入会してみることに。
講師は地元で定年までアナウンサーを勤め上げた
おばあちゃん先生だった。
「アナウンサーをされていたから
きっと優しい方なんだろうな」
と勝手に想像していたが、
実際はめったに笑わない厳格な方だった。
正直にいうと、苦手なタイプだった。
しかし、指導は流石の一言。
基礎からみっちり叩き込まれるうちに、
練習すればするほど原稿読みが
上達していくのが楽しくて仕方がなかった。
また、
一緒にそこに通っていた生徒さんたちと
会うのも楽しみの1つになった。
ほとんどが同級生。
学部も大学も違う友人ができたのも収穫だった。
私たちは、
「アナウンサーだけ」を
目指していたわけではない。
アナウンサーは元々、超難関。
その上当時は、”「超就職氷河期」”。
アナウンサーになれる確率は、
さらに低いものだった。
就職活動の時期になると、
「なれたら奇跡」というスタンスで、
それぞれ受けてみたいテレビ局に
書類を送った。
私もダメ元で3社ほど応募したところ、
なんと地元のテレビ局の書類選考に
通過したのだ。
地方の偏差値もそこまで高くない大学だと、
学歴の時点で落とされると思っていたので、
私にとってそれはまさに奇跡。
「何事もチャレンジしてみるものだ」と思った。
書類選考に通ったからには、
ちゃんと試験の準備が必要になる。
私は、良くも悪くもポジティブで、
先のことを考えずに突っ走る傾向があったので、
試験内容を確認して、
ようやく事の重大さに震え上がってしまった。
そこには、
大の苦手な「フリートーク」と「小論文」
の文字があったからだ。
いや知ってはいた。
けれど、
まさか書類選考に通過するとは
思ってなかったから。
そんな言い訳をしながらも、
できる限り準備をして挑んだ。
試験当日、
同じ大学の友人たちが
車で試験会場まで連れていってくれた。
取り巻きも含め3人。
彼女達は、
私の緊張をほぐそうと思ってくれたのか、
車内で何か面白いことをして気持ちを
盛り上げようとしてくれた。
が、緊張のあまり私は放心状態。
期待に応えるような対応もできないまま、
会場に向かった。
何をしてくれたのか、
記憶に残ってはいないのだけれど、
みんなの気持ちに応えられる余裕がなく、
微妙な空気感になったことは、
よく覚えている。
試験は、原稿読みとフリートーク、
そして質疑応答の面接。
5人1組のグループ面接だった。
原稿読みは得意。
面接もなんとか練習通りこなせた気がする。
問題は、フリートークだった。
フリートークは、その瞬間まで内容がわからない。
その場で出されたお題は、
「缶ビールの宣伝」だった。
テーブルには数種類の缶ビールが並べられ、
1本選んで5分で構成を考え、
4人の面接官の前で披露するというものだった。
もう緊張で頭が真っ白な私。
でも、参加してしまったからには
なんとか切り抜けなければいけない。
でもでも、
全然ビールの説明の言葉が思い浮かばない。
心の中は、
「ぎゃー、助けて〜!
もう逃げ出したいよー。」と半泣き状態。
でも、やるしかない。
私は数本のビールの中から、
当時新発売だった
ご当地ビール「赤のビール」を選んだ。
私の番が来るまで、
別の受験者たちが流暢に課題をこなしていく。
段々と緊張で
何を言おうとしたかもわからなくなり、
もうパニック状態。
そして、私の出番。
緊張を隠すように引き攣った笑顔だけは心がけ、
宣伝を始めた。
「今回、新発売のこのビール。
なんと赤のビールなんです!
どんな味か試してみましょう。」
震える手で缶を開けて、
ぐびぐびと飲む演技をする。
まさか、あんな一言を言ってしまうなんて、、、。
ふっと一息ついて、満面の笑みで言い放った。
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