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​配達員ろること2号 第8話 『ハートウォッシュ』


第8話 『ハートウォッシュ』

​洗濯機が壊れた。

​「うわー、洗濯物溜まってるのに最悪!」

​ろるこは洗濯機の前で頭を抱えた。

​スタートボタンを押す。

​ピッ。

​反応はする。

​だが、それだけだった。

​もう一度押す。

​ピッ。

​洗濯槽は沈黙したまま動かない。

​「お願いだから回ってよぉ……」

​蓋を開ける。

​閉める。

​コンセントを抜く。

​差す。

​スマホで検索する。

​『洗濯機 動かない』

​『洗濯機 エラー』

​『洗濯機 叩いたら直る』

​最後だけ少し試した。

​もちろん直らなかった。

​「終わった……」

​部屋の隅には洗濯物の山。

​連日の稼働で汗を吸ったインナー。

​お気に入りのピンクのパーカー。

​レインウェア。

​タオル。

​靴下。

​今週はまだクエストも残っている.

​雨予報も出ている。

​着る物がなくなるのは普通に困る。

​ろるこは大きなビニール袋へ洗濯物を詰め込んだ。

​「コインランドリーかぁ……」

​正直面倒だった。

​だが背に腹は代えられない。

​自転車の荷台に袋を括り付けると、近所のコインランドリーへ向かった。

​◇

​ガラガラ。

​自動ドアが開く。

​湿気と洗剤の匂いが混ざった独特の空気が流れてきた。

​大型洗濯機が並び、乾燥機が低い音を立てながら回っている。

​ろるこは店内を見回した。

​そして。

​「あれ?」

​見覚えのある大きな背中を見つけた。

​長椅子に座り、スマホを弄っている男。

​黒い服。

​大きな配達バッグ。

​ぽっちゃりした体格。

​「2号さん?」

​男がゆっくり顔を上げる。

​「ん」

​「2号さん!?」

​「なんや」

​「なんでいるんですか!?」

​「洗濯」

​ろるこは思わず吹き出した。

​「いや、それは見たら分かります!」

​「そうか…」

​相変わらずだった。

​ろるこは洗濯物の袋を床へ下ろした。

​「洗濯機壊れたんですよ」

​「……」

​「脱水で死にました」

​「……寿命やな」

​「まだ分かんないです!」

​「修理いくらや」

​「知らないです」

​「三万超えたら買い替えやな」

​夢も希望もなかった。

​「もうちょっと励ましてくださいよ……」

​「洗濯機に感情移入しても直らん」

​「そういう話じゃないんです」

​2号は答えない。また視線をスマホの画面に戻し、熱心に指を動かしている。

​ろるこもつられて乾燥機を見る。

​黒いTシャツ。

​黒いパーカー。

​黒い靴下。

​黒いタオル。

​見事なくらい黒かった。

​「黒ばっかりですね」

​「楽やからな」

​「夢がない……」

​「服に夢いるか」

​ろるこは返答に困った。

​たぶんいらない。

​でもそういうことじゃない。

​「2号さんも洗濯するんですね」

​「せんと思っとったんか」

​「いや、なんか……」

​ろるこは言葉に詰まった。

​なんと言えばいいのだろう。

​2号はいつも公園にいる。

​いつも配達している。

​いつもスマホを弄っている。

​それ以外の時間を想像したことがなかった。

​「2号さんって、家で何してるんですか?」

​「寝とる」

​「絶対それだけじゃないですよね」

​「風呂」

​「……風呂」

​不意に出てきた単語に、ろるこは少しだけドキリとした。当たり前のことなのに、2号の口からプライベートな言葉が出ると、急に生身の人間なんだという実感が湧いてくる。

​「それだけですか?」

​「ん」

​「趣味とかないんですか?」

​「ない」

​「嘘だぁ」

​2号は画面から目を離さない。

​「絶対ありますって」

​少しだけ考えて、2号は、

​「寝ることや」

​とだけ言って、スマホに視線を戻した。

​ろるこは吹き出した。

​本当にそうなのだろうか。

​家に帰って。

​お風呂に入って。

​洗濯して。

​寝る。

​そんな当たり前のことをしている2号は、なんだか少しだけ不思議だった。

​公園のベンチに生えている人だと思っていた。

​「失礼なこと考えとるやろ」

​「考えてないです」

​「考えとる顔や」

​「考えてないですって」

​「公園に住んどるとか思っとったやろ」

​ろるこは思わず吹き出した。

​図星だった。

​その時。

​ふと視線がバッグへ向く。

​ころるっくるが小さく揺れていた。

​自分があげたお守り。それをつけて、いつも2号はこの街を走っている。

​ろるこは少しだけ笑う。

​2号は何も言わない。

​ろるこも何も言わない。

​ただ、ころるっくるだけが静かに揺れていた。


あとがき

お待たせしました!

約1年ぶりの『配達員ろること2号』本編です!

お前どんだけ待たせんねんってね(笑)

今回はシロクマ文芸部のお題「洗濯機」に参加させていただきました。

最初は普通に短編を書こうと思っていたんですが、洗濯機といえば配達員しかないでしょ!

まあ普通の人も毎日洗濯してると思うんですが、とにかく配達員は洗濯物が多い!

なんせ僕なんか、私生活ずっと洗濯してるんじゃないかってくらい毎日洗濯してます(笑)

雨の日に稼働して帰って洗濯。

翌日も稼働して帰って洗濯。

また雨が降って洗濯(笑)

もうそうなると配達員の話しか出てこなくて(笑)

なら『配達員ろること2号』にしちゃえ!ということで書いてみました。

ちなみに今回のタイトルは『ハートウォッシュ』にしました。

コインランドリーで洗濯物と一緒に、二人の心の距離もちょっとだけ洗い流されてスッキリした感じになればいいなと。

まあ、2号本人は相変わらず夢も希望もないことしか言ってないんですけどね(笑)

実はこの話、ベースになる話はだいぶ前に書いていました。

洗濯機が壊れる話ではなくて、お風呂が使えなくなって銭湯へ行く話です。

そこでのテーマが「ろるこが配達以外の2号を見る」だったんですよね。

今回はそれをコインランドリーに置き換えてみました。

さて、ものすごく久しぶりの更新になったので、いつものように言い訳をさせてください(笑)

実を言うと、小説にイラストを入れるのがものすごくめんどくさかったんです(笑)

小説自体は数時間で書けるんですが、挿絵を作るのにそれこそ丸2日とかかかってたんですよね(笑)

夜通しChatGPTに、

「そうじゃない!」

「違うんだよ!」

と言いながら(笑)

そして、そうこうしているうちに時代はChatGPTからGeminiへ!

Geminiになってイラスト作りはだいぶ楽になったんですが、なんとなくトラウマが残っていて、ずっと腰が重かったんです(笑)

そして1年経った今、時代はまたChatGPTへ!

今のChatGPTはかなり高精度なイラストを描き出してくれます。

でもちょっと不安があったんですよね。

ChatGPTが進化しすぎて、昔のろるにごのイラストを再現できるのか!?

昔のろるにごのイラストって少し古臭いような、あの独特な味のあるイラストじゃないですか。

でも今のChatGPTってソシャゲのイラストっぽいというか、なんか無駄にキラキラしていて、ものすごく装飾されたイラストになりがちで……。

注文をつけながら、

「いや、そうじゃない」

「もっと泥臭くしてくれ!」

と心の中でずっと突っ込んでました(笑)

まあ、意外と昔のろるにごっぽい雰囲気は再現できてるかな?

少しキレイすぎるところもあるけど(笑)

じゃあイラスト制作は楽になったのかと言うと……

そうでもない(笑)

結局今回も何枚もイラストを出してるんですよね(笑)

昔よりはだいぶ枚数は減ったけど(笑)

過去作のイラスト制作の苦労は制作ノートを見てもらえると分かると思います。

言い訳タイムはこの辺にして。

今は『配達員はクジラの夢を見るか?』も連載中なので、そんなに頻繁には出せないかもしれませんが、ろるにご本編もこれからちょこちょこ書いていきたいなと思っています。

期待せずに待っていていただけると嬉しいです(笑)


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​最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

​もし今回の「ろるにご」のやり取りにクスッとしたり、ラストの余韻をいいなと思ってもらえたら、画面下のハートマークを「スキ」とポチッと押してもらえると、次の執筆の大きな原動力になります。

​あなたの家の洗濯機が今日も元気に回ることを祈りつつ、次の気まぐれな更新を見逃さないために、ぜひアカウントのフォローもよろしくお願いします。

​ちなみに、あなたなら洗濯機が突然壊れたらすぐに買い替えますか?それとも修理してギリギリまで粘りますか?

そんな些細なことでも、今回の感想でも、コインランドリーの思い出でも、何でも気軽にコメント欄へ書き込んでいってくださいね。

​今回の「ハートウォッシュ」はのんびりした日常回でしたが、現在連載中のスピンオフ『配達員はクジラの夢を見るか?』では、テイストの違うヒリヒリした夜の戦いを描いています。

今回ののどかなコインランドリーとの凄まじいギャップを楽しみに、ぜひそちらの連載も覗いてみてもらえると嬉しいです。

​普段の僕のXでは、日々のごく普通の生存報告をはじめ、ChatGPT相手に夜通し格闘して生み出したAIイラスト、あとは本編のボツ案やちょっとした裏設定なんかを気の向くままに垂れ流しています。

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※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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