ことしの映画 2024
ことしの映画鑑賞本数は延べ156本でした。興行は別として、作品としては日本映画の当たり年でした。
三宅唱監督『夜明けのすべて』(2月9日公開)は、ハンディを抱えた者同士が、それぞれできることをし合うという形で、当事者性を捨て置かずとも参画できる社会の構想を、回転という運動をモチーフに映像に落とし込んだ傑作でした。
『夜明けのすべて』が相互関係によって善への意志を育て合う物語だとすれば、山本英監督『熱のあとに』(2月2日公開)はまるで触媒のように最後まで意志を貫く女性主人公を前にして、周囲の意志が揺らいでいく物語であります。
濱口竜介監督『悪は存在しない』(4月26日公開)に至っては、自分の意志とまともに向き合おうとしない男・高橋(小坂竜士)と、果たして意志がどこにあるのかわからない男・巧(大美賀均)、そして自らの意志をきちんと制御しうる女・黛(渋谷采郁)の三者三様が絡み合う混乱の物語です。
どうも濱口は、女性の主体性に期待をしがち(あるいは男性の主体性に絶望しがち)なところがあります。黛もそういう女性であり、説明会での振る舞い等は立派です。だからなのかストーリー上も、深刻な悲劇を免れられるタイミングで物語から退出しています。
しかし濱口の影響も受けているであろう山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)はこの点において批評的です。カナ(河合優実)という女性は、単に意志を貫く女性として描かれるのではなく、社会構造によって狭められた可能性の中で、それでも意志を貫くことの不安定さを真正面から引き受ける女性像なのです。
しかも、この点だけ見れば単純な闘争の物語なのですが、後半、ストーリーの枠組みがカナのメンタルヘルスの問題へと転化されるのが、本作の理解を一筋縄ではいかないものにさせていて面白かったです。そして『悪は存在しない』で黛を演じていた渋谷が、本作ではカウンセラー役で登場しているのが興味深い。カウンセラーもまた適時適切に、患者との関係を適切に設定したうえで、適時に退出することとなる職業だからです。
さて、闘争といえば、空音央監督『HAPPYEND』(10月4日公開)も忘れてはなりません。ただもっと政治的な映画になるのかと思ったら、青春群像劇としてさわやかに見られる仕上がりになっていたのが良かったです。挫折して漂流しかかった意志が、近くに受け止めてくれる人がいるということの幸せが描かれます。
ただし、『HAPPYEND』にある社会批評のうまさを認めつつも、届かなかったかもしれない意志がちゃんと届いていることの幸せを、ショットの連なりによってきっちり描ききった点では、五十嵐耕平監督『SUPER HAPPY FOREVER』(9月27日公開)のほうが上手かなと思います。逆に、届いてほしい意志が届かない無念を描いた奥山大史監督『ぼくのお日さま』は(9月13日公開)は、その無念の背景にある社会構造を描くことについて回避しているように私には受け取られ、惜しいと思いました。
もはや意志などどこへやら、不安の中の混乱に耽溺していく人間を描かせたら右に出るものはいない巨匠・黒沢清監督の『Cloud クラウド』(9月27日公開)は最高に面白かったし、『Chime』(8月2日公開)も意志とは別のなにかに人間が動かされている様を、解放感として画面に映し出す、黒沢清の真髄がありありと発揮されました。
他に印象的な映画を列挙しておきます。
洋画では、アレックス・ガーランド監督『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)がベスト。日本にとっての絶望が災害で、そこに立ち会うのが官僚だったのだとすれば(言うまでもなく『シン・ゴジラ』のことです)、アメリカにとっての絶望は首都が戦場になることで、そこに立ち会うのはジャーナリストなのだろうなと思いました。
ルカ・グァダニーノ監督『チャレンジャーズ』(6月7日公開)では、30代に差し掛かった者たちの「いつの間にかこんなところへ来てしまった」という感覚が身につまされました。モリー・マニング・ウォーカー監督『HOW TO HAVE SEX』(7月19日公開)も、常に迫られる選択をちょっと見送っただけのことに、こんな代償があるのかと痛ましい気持ちになる映画です。
韓国映画からは全斗煥らによる粛軍クーデターを題材にした、キム・ソンス監督『ソウルの春』(8月23日公開)が一押し。再上映モノでは、クレール・ドニ監督『美しき仕事 4Kレストア版』(5月31日公開、1999年・フランス)の美しい映像と、ラストのドニ・ラヴァンのダンスに圧倒されました。
ドキュメンタリーでは日本映画から、藤野知明監督『どうすればよかったか?』(12月7日公開)を挙げたいと思います。「家族」という独特な社会をここまで長期間にわたって撮影した記録は見たことがありません。当事者として様々な感情はあっただろうところ、タイトルの問いの範囲を拡散せぬよう考え抜かれて映像をつなぎ、一つの映画にしたことが素晴らしいと思いました。
以上「ことしの映画」でした。年内のnote更新はこれが最後です。皆さんよいお年を。
