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電子カルテ604億円の内訳 〜空欄に日程だけ入った〜

一昨日の昼に、電子カルテの数値目標について書いた。大病院向けクラウドネイティブ型製品の開発支援だけが金額のない事項要求になっている、という箇所も入れた。その日の21時36分、産経が独自記事を出した。空欄になっていた場所に、日程が入っていた。


604という数字

産経は、厚労省(厚生労働省)が中小規模の病院と診療所へのクラウドネイティブ型電子カルテの導入費支援として、令和9年度の概算要求に604億円を計上したと書いている。上限を設けたうえで導入費の半額を補助することなどを検討している、とも。

604という数字を分解してみる。クラウドネイティブ型の普及に336億円、パッケージ版の導入支援に121億円、標準型電子カルテ導入版に93億円、歯科電子カルテに54億円。足すと604億円になる。昨日の記事に並べた内訳そのものだ。

歯科の54億円については、現場に求められる機能を今年度から検討し、2026年度中に対応方針を決めるとされている。方針が固まる前に、金額のほうが先に立っている。

政策統括官(情報政策担当)の概算要求資料では、「電子カルテの普及・クラウド化の推進」は614億円+事項要求と書かれている。604億円との差は10億円で、同じ項目の中に政府の医療DXサービスとのクラウド間連携が並ぶ。昨日ふれた、必須化の起算日をつくるための基盤である。

医療DX全体の934億円から604億円を引いた330億円は、電子カルテ本体ではなく別の場所に乗っている。外部接続点の点検・適正化に132億円、セキュリティ人材に5億円、全国的な電子カルテデータ連携に128億円、医療等データ利活用基盤に65億円。電子処方箋の22億円と全国医療情報プラットフォームの100億円は、さらに別建ての137億円の中にある。

新しいのは金額ではない。上限つきで半額、という条件のほうだ。

令和8年度に走っている医療情報システムのクラウド化に伴う検討事業は、補助率4/5以内、上限1億円で組まれている。来年度要求は2分の1補助になる。上限額はまだ示されていない。半額という言葉だけでは病院がいくら出すのかは出てこないが、率だけを見れば、足元で受けられる補助より条件は下がる。

空欄に日程だけ入った

大病院向けの開発支援については、令和11年度に実証実験を行い、12年度からの導入を目指すとされた。金額のない事項要求という形は変わっていない。日程だけが出た。

続けて、大病院への導入費支援を出すかどうかは今後決める、と書かれている。

400床以上の病院は約650施設ある。中国四国医師会連合の調査では、500床以上の電子カルテ導入費は平均12億7000万円、年間のメンテナンス費用は平均1億7000万円とされる。この規模の更新費用を支えるかどうかが、まだ決まっていない。

厚労省は昨年8月の医療保険部会で、この約650施設について2030年まで毎年100前後がシステム更改の時期を迎えると説明していた。電子カルテの更改は5〜7年で一巡する。令和12年度に大病院向けの製品が出そろうまでに、大半の病院が一度は更改期を通る計算になる。支援の有無が決まらないうちにその時期が来た病院は、いま出ている製品で判断するしかない。5年後に乗り換えるとして、その費用に補助が付くかどうかも、まだ書かれていない。

令和12年に集まる

改正後の地域医療介護総合確保法は、令和12年12月31日までに普及率が約100パーセントになるよう政府に求めている。

基盤の整備が令和12年度で、大病院がクラウドネイティブ型に移れるようになるのも令和12年度で、法律の期限が令和12年12月31日で、実証実験だけがその前年度に置かれている。期限と、期限に間に合わせるための道具が、同じ年に集まっている。

しかも令和12年度は2031年3月まで続くのに対し、法律の期限は2030年12月31日で切れる。年度の途中だ。

前に置かれた期限のほうも見ておきたい。2028年度までに、療養病床等が中心の病院を除く200床以上の未導入病院で普及率100%。この年度に、大病院向けのクラウドネイティブ型製品はまだない。実証実験すら翌年度だ。2028年度の目標を満たしにいく病院は、クラウドネイティブ型ではない何かを入れることになる。

2.5億円と50万円

コストが下がるという説明の根拠として産経が挙げたのは、診療所の価格だった。オンプレミス型が300万円程度、クラウドネイティブ型なら50万〜100万円程度になると政府は見ている、という書き方になっている。

病院側は導入費の数字しか出ていない。200〜299床で平均2億5000万円。産経はこの規模の年間維持費を2300万円としているが、日医(日本医師会)が7月に公表した分で確認できるのは500床以上の1億7000万円のほうだ。クラウドに移ったときこれがいくらになるのかは、どちらにも書かれていない。診療所で6分の1になったから病院でも下がる、とは言えない。抱えている部門システムの数が違う。

調査そのものにも触れておく。2025年12月から2026年5月にかけて、中国四国9県の200床以上265施設を対象に行われ、176施設が答えた。回答率66.4%、回答施設の電子カルテ導入率84.1%。導入費は最高で65億1000万円、リプレイス費用は平均13億6000万円、最高74億円。平均だけを見ていると、上に伸びた幅が視野から落ちる。

山口県医師会長の加藤智栄氏は、アンケートについて、ベンダーを変えるときの費用が高すぎるという意見が多かったと述べている。導入は経営の負担にしかなっていない、とも。

昨日引いた日医の調査では、紙カルテの診療所の54.2%が「導入不可能」と答えていた。理由の上位は、費用が高額と操作に時間がかかるが同数の1406件、次いで導入しても数年しか使用しない1301件、ITに不慣れ1112件。50万円まで下がっても、三つ目は消えない。

比べられているものにも注意がいる。300万円も50万〜100万円も導入時の金額で、クラウド側の年間利用料は示されていない。初期費用どうしを並べれば安く見えるのは当たり前で、5年、10年の総額でどちらが軽いのかは、この二つの数字からは出せない。

認証はまだ読めない

国の標準仕様に基づくクラウドネイティブ型電子カルテの販売は、来年4月に始まる予定だという。令和9年4月。

認証制度そのものは動いている。6月26日の医療等情報利活用ワーキングで認証要綱の案が示され、その要綱を2026年9月に公開するというスケジュールも出た。ただ、厚労省の認証制度のページは9月1日の時点で「今後掲載いたします」のままだ。確定版は、まだ読めない。

要綱案の中身に、ひとつ効きそうな条件がある。ガバメントクラウドの対象となっているパブリッククラウドを利用していること。そして、デジタル庁が実施するガバメントクラウド利用の事前相談を受けていること。受けない場合は、その理由を出したうえで、申請時点で直近1年間に一定数以上の医療機関での稼働実績が必要になる。

同じ会議で、認証の申請受付は2026年12月から2027年1月あたりと想定するスケジュールが示された。日医の長島公之常任理事は、その時点で直近1年間の稼働実績を求められてもクリアは難しいのではないかと指摘している。厚労省は現場の意見を踏まえて基準を決めると答えた。

実績を積んでから認証を取りにいくより、先に乗ってしまうほうが速い。要件を一つずつ満たすより乗るほうが早い、という構図は、昨日読んだ仕様書の但し書きと同じ向きを向いている。

買う側は、出ている仕様書と、まだ確定していない認証要件の両方をにらんで発注を決めることになる。認証要綱の確定版も、大病院向けの標準仕様も、この記事を書いている時点では公表されていない。

判断する、とだけ

産経の記事は、財政支援を複数年度にわたって実施する検討にも触れている。導入や更新の初期費用を、単年度ではなく数年に分けて支えるという話だ。クラウドへ移ったあとの利用料と回線費を誰が持ち続けるのかは、今回も出てこない。

大規模病院向けにも導入費の支援を実施するかは今後、判断する。


主な出典

  • 産経新聞 2026年9月6日「<独自>全国に電子カルテ情報共有網 令和12年度にも基盤構築 普及へ費用軽減がカギ」

  • 厚生労働省 令和9年度概算要求(政策統括官(情報政策担当)関係、医政局関係)

  • 第213回 社会保障審議会医療保険部会 資料3「医療情報化推進方針案等について」(2026年8月27日)/2028年度・2030年末の目標

  • 第196回 社会保障審議会医療保険部会 資料3(2025年8月28日)/400床以上約650施設・毎年100前後の更改

  • 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1(2026年3月12日)/歯科の対応方針

  • 医療等情報利活用ワーキンググループ(2026年6月26日)/認証要綱案、申請受付スケジュール

  • 中小病院向け・医科診療所向け電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様書(基本要件)1.0版(2026年3月31日公表)

  • 日本医師会 定例記者会見(2026年7月15日)/中国四国医師会連合の実態調査、紙カルテ診療所調査

  • 日本医事新報 2026年7月17日、日経メディカル 2026年7月16日、CBnews 2026年7月15日/同調査の数値

  • 地域医療介護総合確保法 第12条の3第4項


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