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成長は善?|急成長と運転資金

成長は善だが、そうとも言い切れない


〜 価値の本質と、工事業の経営現場での奮闘記 〜

仕事は、取れている。
以前よりも順調に取れている。

工事の予定は詰まり、現場は動く。
忙しい。手応えもある。
それなのに、口座の残高だけが、静かに減っていく。

気持ちは穏やかではない。
心臓がドキドキする。
夢の中でも資金繰り。
プレッシャーに押しつぶされそうになる。

お金がない。

正確に言えば、「いくらあっても足りない
という感覚に近い。

借入しても、入金を待っても、
気がつけばまた薄くなっている。
仕事を取れば取るほど、会社のお金が消えていく。

ハンズオンで工事業の経営に入り込んで、
最初に突きつけられたのは、この強烈な違和感だった。


会社を二人で経営している。
ひとりは、イケイケどんどんの営業型社長。
もうひとりが、管理・経理・財務・資金繰りを担う自分だ。

1期目の前年は赤字だった。
それも社長の役員報酬の分だけ。
2期目の今、社長としては後がない。
今期で立て直せなければ「終わる」という危機感がある。

だから社長は、どんどん得意な営業をかけ、
大きな案件を取りに行っている。
この判断は、経営として間違っていない。
受注がなければ始まらないし、
実際、取ってきている工事の粗利率は悪くない。


一方で、自分が見ている景色はまったく違う。

毎日、口座残高を見る。

社長がとってきた受注の予定を見る。

発注金額と支払予定を勘繰る。

口座残高が明らかに(また)足りないと気づく。

借りるために頭を下げ、
返せない説明のために、また頭を下げる。

金融機関から借りられないときは、
関係先に頼るしかない現実も引き受ける。

営業が前を向いて走っている分、
自分はずっとヒヤヒヤしている。

このまま進んで、本当に大丈夫なのか。
数字と感情の両方で、問い続ける日々だ。


この違和感は、能力不足や努力不足の話ではない。
構造の問題だ。

工事業では、材料費や外注費、
人件費といった支出が先に出ていく。
一方、入金は数か月後になる。
仕事が増えれば増えるほど、
必要な運転資金は雪だるま式に膨らんでいく。

成長している。
しかし、キャッシュフローは苦しい。

これは、失敗しているから起きているわけではない。
むしろ、真面目に仕事を取り、
真面目に現場を回しているからこそ起きている。


以前、私は「価値の本質」という記事で、
企業価値は次の三つの要素で捉えられると書いた。

① キャッシュフロー
② リスク
③ 成長


企業価値とは、
どれだけお金を生み出せるか、
その不確実性はどれほどか、
そしてそれがどれだけ拡張していくのか、
この三つの組み合わせで決まる、という整理だ。

この考え方自体は、
今も間違っていないと思っている。

ただ、現場に入り、はっきりしたことがある。

この三つは、一つ一つはシンプルで、
いつだって隣り合わせの要素でありながら、
自然には噛み合わない。


キャッシュフローを増やすために、成長させたい。
だが成長すれば、運転資金が増え、
短期的にはキャッシュフローが悪化する。

キャッシュフローを守ろうとすれば、
成長を抑えざるを得ない。
成長を抑えれば、将来の価値は細っていく。

三つの要素は互いを否定しているわけではない。
常にトレードオフに対立し続ける関係でもない。

同時にうまく噛み合う状態をつくるのは、
極端に難しい。

そして、企業は生き物。
噛み合ったと思っても、蠢くように簡単に
すぐにバランスが崩れる。


CFOの立場から見ると、
運転資金は「ペナルティ」のように
感じられる瞬間がある。

成長を選んだ結果として、
キャッシュが縛られ、
借りるために頭を下げ、
返せない説明のために、また頭を下げ続ける役割を
引き受けることになるからだ。

それは失敗への罰ではない。
成長という価値を取りに行く以上、
先に引き受けざるを得ない負担なのだと思う。

本来、株主や債権者に資金を分配すべきところ、
ずっと資金収支はマイナス。
資金提供者から資金を吸収し続ける。

せめて金利は払うが、配当はとてもできない。


ファイナンスや会計は、
この矛盾を解決してくれる魔法ではない。

ファイナンスは、
成長を選んだときに、いつ、どこで、どれだけ
キャッシュが不足するのかを静かに可視化する。

会計は、
利益が出ているのに苦しい、
そのズレに違和感を与える。

どちらも、
「進め」とも「止まれ」とも言わない。
ただ、進んだ先の地形を照らすだけだ。


営業型の社長も正しい。
財務側の自分も正しい。

これは善と悪の対立ではない。
価値の本質を構成する三要素が、
現実の時間軸の中で、
一時でも長いあいだ噛み合うよう、
もがいている状態だ。

価値の本質とは、
キャッシュフロー、リスク、成長
という三つの要素を、
どうすれば噛み合わせられるのかを、
試行錯誤し続けることなのだと思う。

正解はない。
楽な答えもない。

ただ、
何も見ずに進むのではなく、
見たうえで悩み、
見たうえで引き受け続ける。

今、自分が奮闘しているのは、
まさにその一点なのだと思っている。