**あきた野ワイナリー物語** 第十話 「綺麗な景色が、美味しいワインを造る?」🍇
秋田で、地域づくりやワイナリーのお手伝いをしながら暮らしているJack Kate Yeohです。
はじめに
本シリーズ「あきた野ワイナリー物語」は、あきた野ワイナリーでの実際の体験をもとに綴るドキュメンタリー・エッセイです。
登場する人物や出来事、会話については、事実を大切にしながら、読みやすさを考慮して構成・再現・要約している部分があります。
商品や作業内容などの情報は、執筆時点の内容に基づいています。
9月に入りました。
少しずつ、秋の気配が感じられるようになった……と言いたいところですが、今年の秋田は、まだまだ暑い日があります。
そんな中、ブドウ畑では品種によって、いよいよ収穫が始まりました。
そして明日9月19日(土曜日)からは、本格的な収穫シーズン。
ボランティアの皆さんも加わり、これまでよりずっと多くの人が畑に集まる日が増えていきます。
いよいよ、ワイナリーにとって一年の大きな仕事が始まります。
そんな畑を眺めていて、ふと思い出しました。
私が、初めてこの場所を訪れたときのことです。
「……綺麗だな」
これが、最初の印象でした。
もちろん、ワイナリーです。
だから私は、最初は当然、
「ブドウ畑があって、建物があって、ワインを造っている場所」
くらいに思っていました。
ところが、実際に来てみると、少し違う。
いや、
かなり違う。
私には、ワイナリーというより、
どこか海外の名門ゴルフ場に来たような感覚がありました。
ブドウ畑に入るまでの芝生。
ガーデン。
花壇。
高木。
低木。
そして、その向こうに広がるブドウ畑。
何気なく見ていると、自然そのものに見えます。
でも、よく見ると、
「何気なく見えるように、ものすごく手を入れている」
ことが分かります。
例えば、ブドウ畑へ入るまでの芝生。
これが、きれいなんです。
聞けば、丈正さんが一週間に一度くらいのペースで芝を刈っている。
一週間に一度。
言葉にすると、それだけです。
でも、実際にやるとなると、
「一週間に一度」というのは、かなりの仕事です。
ブドウを育てるだけでも大変なのに、
芝まで。
「そこまでやるんですか?」
と、私は何度思ったことか。
そして、もう一つ。
ガーデンです。
こちらは千代さんの仕事。
ガーデンコーディネーターでもある千代さんが、細かなところまで手を入れています。
自然の美しさをそのまま生かしながら、
花壇はシンメトリーに。
高い木と低い木を組み合わせ、
平らな庭ではなく、奥行きと高さを感じられるように。
上から見ても、
横から見ても、
歩きながら見ても、
景色が変わる。
「庭」というより、
ひとつの作品を見ているような気持ちになります。
まさに、イングリッシュガーデン。
私は、そんな景色を眺めながら、
また一つ疑問が生まれました。
「これって、ワインに必要なの?」
ブドウは、きちんと育てればいい。
収穫したブドウを、
きちんと醸造すればいい。
そして、
美味しいワインができれば、それでいい。
最初の私は、そんなふうに考えていました。
ところが、丈正さんと千代さんを見ていると、
どうも、それだけではないらしい。
丈正さんには、ゴルフ場の設計経験があります。
その話を聞いていると、私には、
「なるほどな」
と思うところがあります。
おそらく二人は、
物事を平面的に見ていない。
上から見たらどう見えるか。
下から見たらどう見えるか。
遠くから見たらどう見えるか。
近くまで歩いてきたら、何が見えるか。
そんなふうに、
景色を立体的に見ているのではないでしょうか。
ブドウ畑だけを見るのではなく、
その畑を取り囲む景色まで見る。
ガーデンだけを見るのではなく、
その先にある畑まで見る。
そして、
そこを訪れる人が、どこを歩き、何を見て、何を感じるのか。
もしかすると、
二人にはそんなところまで見えているのかもしれません。
そう考えると、
ブドウの栽培も、
醸造も、
ガーデンも、
芝生も、
全部がつながっているように見えてきます。
気象を知る。
土を知る。
ブドウを知る。
病気を知る。
醸造を知る。
そして、
ワイナリーという場所そのものを知る。
ワイナリーを立ち上げるまでに、
二人はきっと、私が想像する以上にたくさんのことを勉強してきたのでしょう。
それなのに、
今でも勉強しています。
「もう十分じゃないですか?」
と思ってしまうくらい、
まだまだ勉強している。
私はというと、
その二人の背中を追いかけるだけで精一杯。
今のところ、
追いつける気がしません(笑)。
でも、
その背中を見ていると、
少しずつ分かってきたことがあります。
二人にとって、
ワインを造るということは、
単純に「美味しいワインを造る」ということだけではないのかもしれません。
そのワインが生まれる場所。
その場所を訪れる人。
その人が見る景色。
畑に吹く風。
季節の変化。
そして、
そこに関わる人たち。
全部ひっくるめて、
「あきた野ワイナリー」というものをつくっている。
そう考えると、
以前は、
「景観美が必要なの?」
と思っていた私の疑問も、
少しずつ変わってきました。
「綺麗な景色が、美味しいワインを造る」
最初は、
正直よく分かりませんでした。
景色が綺麗だからといって、
ブドウの糖度が上がるわけでもない。
酸が整うわけでもない。
醸造技術が上がるわけでもない。
だから私は、
「美味しいワインができれば、それでいいのでは?」
と思っていたのです。
でも、
ここで過ごすようになって、
少しだけ分かってきました。
綺麗な景色をつくることは、
単に見た目を綺麗にすることではない。
毎日、畑を見ている。
芝を見る。
木を見る。
花を見る。
ブドウを見る。
そうやって、
「この場所をどうしたいのか」
を考え続けること。
その積み重ねが、
ブドウにも、
ワインにも、
そして、
この場所に来る人にも、
どこかでつながっている。
そんな気がしています。
9月19日から、
いよいよ多くの人が畑に入ります。
たくさんの人の手で、
一房、一房、
ブドウが収穫されていきます。
きっと畑は、
今まで以上に賑やかになります。
私はその中で、
いろいろなことを教えてもらうのでしょう。
ブドウのこと。
ワインのこと。
農業のこと。
そして、
ものをつくるということ。
そして、もしかすると、
「綺麗な景色が美味しいワインを造る」
という言葉の意味も、
もう少し深く分かる日が来るのかもしれません。
今の私には、
まだ完全には分かりません。
だからこそ、
もう少し、この場所にいたい。
もう少し、
二人の背中を追いかけてみたい。
そしていつか、
この疑問に自分なりの答えを出せたらと思います。
さて、
次回はいよいよ収穫の現場へ。
今年のブドウは、
どんな表情をしているのでしょうか。



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