離れていても 3話
その次の日、清田は瀬尾に出会った。
「おはようございます。」
「あぁ、清田さんおはようございます。今日もお散歩ですか?」
「はい、昨日は山の神社に行ったので今日は反対側に行こうかと……。」
話していて清田は昨日の川に流れる花のことを思い出した。
「そういえば、山から流れてくる川に花が流れていたんですが、あの山は子供達の遊び場になっているんですか?」
「あの山ですか?いいえ?子供達は大体公園で遊んでいるみたいですよ。この辺りは子供も少ないから遊び場は学校か公園で十分みたいです。子供の足では山の上の神社まで行くのも時間がかかりますからね。」
笑いながら話す瀬尾に清田はあの川に流れる花のことがますます気になっていった。
瀬尾と別れた後、神社の山とは反対に進みながらも川に沿って歩いているとまた花が流れてきた。
いくつも美しい花が清田の横を通り過ぎて下流へと向かっていく。
清田はまるで花たちについて行くように追いかけてみた。
「何だか懐かしいな。」
花を追いながら子供の頃に祖母の家で笹舟を川に流して遊んでいた時のことを思い出していた。
川から流れてきた花たちは途中枝に引掛かっていたり、同じところをクルクルと回っていたりしていて、下流に行けば行くほど花がたくさん川に溜まっていた。
「こんなにたくさん…結局誰が流しているんだろう?」
追いかけても不思議さは募るばかりだった。
川に沿って歩いていくとやがて海についた。
清田が追ってきた花も河口にある赤い橋を潜って海に流れていった。
よくみると海の波打ち際にも岸に追いやられた花がいくつかあった。
清田は山の方を振り返る。
「あんなところからここまで流れてくるなんてすごいなぁ。」
ここからでは花が大量に置いてあったあの川原も神社さえも見えることはないが、今も海に花が流れていっているということは今日もあそこで誰かが花を流しているのだと思うと不思議さや疑問はもちろんあるが、何だか暖かい気持ちになった。
帰りはまた川沿いを通って帰った。
散歩を始めてからずいぶん時間が経っているのに今だに川には花が流れ続けていた。
家に帰るつもりで歩いていたが清田はやはり花を誰が流しているのかが気になって自宅を通り過ぎてそのままあの山の神社に向かった。
歩き通しで脚が重く感じたが息を切らしながらも神社まで辿り着くことができた。
清田は一礼して鳥居を潜ると神社裏の川原に静かに歩いていく。
川原の方を見ると和服を着た男が一人川原の横にしゃがみ込んで花を流していた。
階段を降りて川原の石をジャリっと踏んだ時、その男はすごい勢いで清田の方を振り返った。
心なしか睨まれている気がした清田は恐る恐る話かけてみた。
「こんにちは…。あの、昨日この村に引っ越して来たばかりの清田と申します。よろしくお願いします。」
「………。」
話かけてみたものの返事は貰えず、男は黙ったまま、また花を流し始めた。
清田は無言の男との気まずさはあったが、どうしても気になったので思い切って尋ねてみた。
「その花……あなたが流していたんですね。」
「………。」
「き、綺麗ですね。川に流しているのには何か理由があるんですか?」
「………。」
「あ、えーと……さっき、海まで花が流れているのを見たんですよ。途中で引っ掛かっているのもあったけど…。」
「本当か!?」
それまで清田の話を無視してした男は急に立ち上がると少し顔を赤らめて驚いたように大きな声で言った。
「本当ですよ。下流の方は結構引っ掛かっているのが多くて……。」
「そうじゃない!海までこの花が流れているというのは本当か!?」
「え?ああ、本当です。全部じゃないけどいくつかは海まで流れ着いて、沖の方にまで流されている花もありましたよ?」
「そうか、良かった。」
その男は清田の言葉を聞いて安心したように微笑んだ。
最初は少し怖いかもと思っていた清田だったが男の優しげな微笑みを見てもう一度聞いてみた。
「なんでこの花を流しているんですか?海に流したいんですか?」
しかしすぐに男の微笑みは消えて清田をじっと睨んだ。
「お前には関係ない。」
それだけ言うとまたしゃがみ込んで花を一つずつ丁寧に川に流していた。
「すみません……。」
清田はそれ以上何も聞けず小さな声で謝るとそそくさとその場を後にした。
山道を降りながら清田は名前くらい聞けば良かったと後悔した。
