離れていても 4話
山を降りて家に帰る途中で近所に住む老婆にあった。
「千代子さん、こんにちは。」
「ああ清田さん、こんにちは。山の神社に行ってきたの?」
「ええ、昨日も行ったんですけど気になることがあって今日も行って来ました。」
「まあ、若いから元気があって良いわねぇ。」
千代子は上品に笑っていた。
「そこの小川によく花が流れているの知ってますか?」
清田は横を流れる小川を指差すとまさに花が流れていた。
千代子は小川の花を見て目を細めてにっこりと笑った。
「ええ、私が小さい時からよくこの小川には花が流れていたわね。」
「え!?千代子さんが小さい時から!?」
千代子の言葉に驚いた清田は目も口も大きく開いて思わず固まってしまった。
「小さい頃からずっとこの小川に花が流れていて、何でなのかとか誰が流しているのかとか気にならないんですか?」
にこにこ笑っている千代子に真剣な顔で尋ねた。
「んーそうねぇ…でもこんなに綺麗なんだもの、理由が何でもいいじゃない。」
そう言って笑う千代子に清田は困ったような笑顔で返した。
家に帰ってから夕飯を作りながら千代子の話を思い出していた。
「千代子さんが子供の頃からって……何十年もの間川に花が流れてるってことだよな…。普通気になると思うけど…。千代子さんが知ってるってことは他の人も知っているんだろうな。瀬尾さんも知ってるかな?明日聞いてみるか…。」
清田は考え事のせいで伸びてしまったパスタを勢いよく口に頬張った。
その日の夜、川に流れる花のことをずっと考えていたせいかその夢を見た。
チロチロと水の流れる音がする。
ふと気がつくと透き通った水の上に立っていた。
鏡のように反射していて、この水面下がどうなっているのか見ることはできない。
どこまでもそれが広がっていて、どちらが上でどちらが下なのかもわからなくなってしまいそうだった。
すると遠くの方から大量の花がゆっくりと流れてきて足元が徐々に花畑のように花で覆われていった。
「……綺麗だ。」
その景色に感動していると花はそのまま流れて過ぎ去っていき、やがて見えなくなった。
花を見送ったあと、何だか切ないような寂しいような気持ちになった。
しばらく花が流れていった方から目を離すことができなかった。
ぼんやりとその水平線を見つめていると隣に神社にいた男が立っていることに気が付いた。
急に現れた男に不思議と驚くこともなく、男の方も特に話かけてくることもなく、ただ二人で花の行き先を見守っていた。
清田は夢の中にも関わらず、男と神社で初めて会って話をした時に海の話をしたことを思い出した。
「海まで辿り着けるといいですね。」
清田は男の横顔を見つめながら優しくそう言った。
「ああ、そうだな。……でも、もうどちらでもいいんだ。辿り着こうが着くまいが、この気持ちが変わることはない。」
男は水平線を見たまま言ったがその目はとても優しく、そして強い意志を感じて清田は言い知れない魅力を感じた。
朝起きても何だか夢見心地な気分の清田は縁側でボーッとしていた。
「それにしても綺麗な夢だったな。」
空を見上げるととてもいい天気で青空が美しく、あの夢の中で見た鏡のような透き通った水面と重なる。
そしてあの男の横顔が思い浮かぶ。
流れゆく花を羨望の眼差しで見つめる男の顔が儚げで寂しげで妙に気になった。
「あー!気になる!」
どうしても気になる清田はまた神社に行くことにした。
