離れていても 5話
山道を登って神社に行き裏手の川原を覗く。
するとやはり今日も男は川原にしゃがみ込み花を流していた。
初日にあった時の冷たい態度を思い出して少し尻込みしていると男は立ち上がり、清田の方を見て話かけてきた。
「やはりまた来たか。」
清田は話しかけられたことに驚いていたが今日こそ花を流している理由が聞けそうだと思って男の元に駆け寄った。
「こんにちは。『やはり』って何で俺がまた来るって思ってたんですか?」
清田の問いかけに男は当たり前かのように答えた。
「何故花を流しているのか知りたがっていただろう。お前のような質のやつは大体諦めが悪いからな。」
キッパリと言われて清田は苦笑いする。
「そういえば、あなたのお名前は?あ、俺は清田って言います。」
「知ってる、二度も言わなくていい。私は…大山…。」
口篭ってはいたものの清田は返事をしてくれたことに感動した。
「大山さん、これからよろしくお願いします!俺の名前覚えててくれたんですね!」
満面の笑みで笑いかけても大山の無表情が変わることはなかった。
「それで?花を流している理由を知りたいんだったか…。」
「そうなんです。知り合いのおばあさんに聞いたら子供の頃からだって言っていたので余計に気になってしまって……この神社の仕来りかなんかですか?」
大山はまたしゃがみ込むと川に花を流し始めた。
「いや、仕来りなどではない。…これは私の自己満足だ。」
ボソボソと小さい声だった。
「自己満足?でも千代子さんが小さい時からだから…じゃあ大山さんのお父さんとかがやってたのを大山さんが引き継いでる、とかですか?」
「…………。」
大山は答えなかった。
清田は沈黙に耐えきれずに昨日見た夢の話をした。
「そ、そういえば!昨日大山さんの夢を見たんですよ。一面鏡みたいな綺麗な水の上に立っていて、奥からたくさんの花が流れて来て花畑のように花で埋め尽くされて、それがすごく綺麗で!…それで隣を見たらいつの間にか大山さんが立っていて『海まで辿り着けるといいですね』って言ったら『着いても着かなくてもいいんだ』って。『この気持ちが変わることはない』って言っていて…」
話している途中で大山が大きなため息をついた。
そしてしゃがみ込んだまま顔だけ清田の方に振り返ると心底嫌そうな顔をした。
「だからお前みたいな奴は嫌なんだ。」
「え…」
清田は何か気に触ることを言ってしまったのかと大山に謝った。
「すみません!なんか変なこと言ってしまって…。」
大山はまた川の方を見て花を流し続けた。
「別に。お前が悪いわけじゃない、私が強すぎるせいだろうな。」
「強すぎる…まあ確かに。」
「お前、何の話かわかっていないだろう。」
大山がじっと清田を睨んだ。
大山の言う通り何もわかっていない清田はヘラヘラと笑いながら謝った。
「ははは…すみません。」
「全く、呑気な奴だな。一つ忠告しといてやる、お前あまりここへは来ない方がいい。」
真面目な顔をして言う大山に清田は少し焦った。
「何でですか?やっぱり俺なんか気に障ること言っちゃったんじゃ…」
「そうじゃない。とにかくここへは来るな。今日ももう帰れ。」
そう言うとまた黙って花を流し続ける。
大山の背中は有無を言わせないような圧迫感があって清田は何も言えずに頭だけ下げると大山の言う通り帰ることにした。
