リゾバ人間観察記④
2024年5月〜10月まで、山奥で住み込みアルバイトをした時の人間観察日記。
はんなりってこういうことなのかな
彼女は京都出身のお淑やかな女性。
京都出身と聞いて、納得してしまうぐらいに大和撫子な佇まいなのだ。
結論から言えば、彼女はすぐに姿を消した。嵐のような人と同日に入寮するも、ここの経営陣との折り合いがつかずに、1週間ほど経って退寮となった。
彼女は以前、客室清掃の仕事をしていたようで、一緒に客室清掃を受け持った時に、彼女の手捌きを見て驚いた。スピーディかつビューティフル!シワのないベッドメイキングの技術に惚れ惚れしてしまう。しかし、それに茶々を入れる人がいた。女将さんだった。
彼女もまた女将アタックを受けていたらしい。それに耐えられず、彼女は去ってしまった。
最後に彼女の方から、辞めることを告げてくれたのだが、そこで彼女は
「自分が子ども過ぎたんです。大人になれなかったから、去るんです。」
と、そう呟いた。
最後まで、彼女は大和撫子だった。その言葉の中には、彼女の弱さや繊細さと一緒に、極めて逆説的だが、どこかこう芯の通った強さみたいなものがあって、美しさを感じた。
彼女のそのさっぱりとした性格には、日本女性に受け継がれているディープな特性みたいなものが、たくさん詰まっている気がした。
本当に美しい人だったなぁ。
巨神兵…なんですか?
彼はこの職場で現れた二番目の男性リゾバ要員。年齢は33とかだった気がするから、ちょっとだけ歳上の兄貴って感じの人だった。
彼は女性一強のこの職場にどう馴染んでいくのだろうか?そんなことを考えながら、彼と初対面した。
彼は大阪出身で、バーを経営しているらしい。
そのバーを部下たちに預けて、自分はリゾバで小銭稼ぎをしているというではないか。不思議な人だな。
彼はこの女性しかいない職場先で、始めは完全にアウェイだった。男性のアルバイトは誰か通訳お願いしますのおじいちゃんだけ。2人の絆は案外深まっていたようにも思えた。
寮には大量のマンガコーナーがあった。料理長が、暇つぶしにと自腹を切って、たくさん揃えたらしい。私はその中から、『岳』と『孤高の人』を読んでいた。すると、彼も同じ漫画を同時期に読んでおり、よく二人でああでもない、こうでもないと語り合った。そして、休みの度に、日帰り登山に向かう私のことを、「孤高の人」と呼ぶようになった。
彼はかなりの長身だった。だからか、キッチンの中のありとあらゆる設計が、彼の身体に合っていない。身体を伸ばせば、頭が換気扇にあたり、鈍い音と彼の悲鳴がキッチン中に響き渡る。洗い物をしようものなら、不自然なぐらい身体を折り畳まないと、水道に手が届かない。これは、もし家を買うとなれば、オーダーメイドしないと支障をきたすレベルだ。そこから、彼の名は「巨神兵」となった。
いつかの日に、巨神兵の小指が腫れ上がり、大変な色になっていた… 長身が故の、お得意のぶつけ技で得た傷なのかと思いきや、まさかの転倒事故だった笑
寮から厨房へとつながる階段の一部が、かなり滑りやすく、私も何度か足をすくわれた。彼はその拍子に小指を壁につき、巨神兵と呼ばれるぐらいの巨体の全体重を小指で支えてしまったらしい。
「労災だ!」と言いながら、急遽休暇をもらって、山を下り、病院にかかった。すると脱臼だったらしく、骨をもとの位置に戻してもらったらしい。彼が見せてくれたレントゲン写真が、生々しくその惨状を物語っていた。無事に指が元通りになり、笑顔で帰宅した彼に、会長は「夜シフトは出られるよね?」と圧をかけ、彼は渋々出勤していた。
「あいつらなんやねん!」
ド下ネタぶっ込んできますやん。
彼女は大阪出身の50代女性。
みんなの特徴を理解できてる人で登場した、キッチンで女将アタックを受けていた人というのが、この人にあたる。
彼女は山が大好きな人の一人だ。どうやら旦那さんも山を登るらしいのだが、彼女が話す旦那さんの話が、毎回ド下ネタで、みんなを笑かせてくれた。ある時は、喫煙所の電気を消して、ろうそくとアロマを焚きながら談笑した。そんなロマンティックな雰囲気をぶち壊す勢いで、そんな話をするものだから、しっとりしていた空気感が、一気にゲラゲラ笑いに変わった。
そんな彼女は高学歴だった。風の噂で、博士号を持っているとかいないとか、まあ研究者的な立ち位置であるというようなことは聞いていた。だから、ずる賢さみたいなところがちょいちょい見え隠れしたり。
でもそんなこんなで、そのずる賢さが仇となり、女将アタックの餌食となってしまった。それから、喫煙所で宴が始まると、彼女のはっちゃけに拍車がかかった。
彼女が去ることを決断する前あたりの彼女の話は、「痔」の話で持ちきりだった。女将アタックを受けて、彼女はストレスから痔になっていたらしい。生憎、私たちのいる寮のトイレにウォシュレットは付いておらず、それが彼女を更に追い込む。
私たちの住んでいる寮はホテルに併設されており、そこからすぐのところに観光客や登山客用に公衆トイレがある。そのトイレがなんとまぁ、綺麗なのだ。こんなことを書きたくはないが、私たちが普段使う寮のトイレよりも、ハイテクで新しいのだ。もちろんウォシュレット機能も完備されている。彼女はそれから、外の公衆トイレを使うようになった。
彼女が退寮してから数日後、寮のトイレが新しくなった。以前より水漏れに悩まされていたからだ。もちろん、ハイテクで新しい、ウォシュレット機能も完備されている。
タイミングが悪すぎる。新しいトイレに行くたびに、彼女を思い出すのだった。
山にビーチ系現る!?
彼女はオーストラリアから帰国したばかりの女性だった。パリッと焼けた小麦畑で、オーガニックや自然派と呼ばれるような見た目をしている。ザ、海の女って感じだ。
彼女の好奇心というか、興味を持つポイントは、割と自分と似ていることが後に判明する。彼女も文章を書く人だ。彼女の書く文章から、あ、この人似ているかもしれない、と思うようになった。
彼女はキッチン、私はホールだったため、
私はよく彼女に【本日の癖強なお客様】の報告を逐一していた。
「今日の最後の卓は、夫婦喧嘩している!」
「父親が会社からの電話を取ったために、1時間もご飯を食べにこない!せっかくの家族での時間なのに子ども可哀想!」
「孫娘と祖父みたいな年齢差なのに、なんかカップル的な空気感なんだよな…」
とにかく私が、使用済みの食器を回収しに行く度に、聞き耳を立てては、キッチンへ入ってその関係性やら、話の内容やらを報告する。「何、それ!?面白すぎる!」と私たちはキッチンで笑い合う。そんな毎日だった。
彼女は猿追をするマネージャーの姿を、追っていた。私たちが住み込みでいる山には、野生のサルがおり、人間とサルの距離を確保するために、BB弾の鉄砲でサルを追い払う慣習がある。その役を、マネージャーが負っていた。
そのマネージャーの射撃姿が見たい!といつも口にしていた彼女。ただ、毎回キッチンメンバーが休憩に入っている間に、サルが出没することが多く、彼女はタイミングを逃していた。
結局彼女が、マネージャーの猿追姿を見られたのかは不明である。
そんな彼女はとても健康的な生活を送っていた。お酒はほぼ飲まず、常にオーガニックなものを身体に摂取させる。毎朝、日の出の頃に、ストレッチをして、身体を目覚めさせ、ホテル前の池で景色を堪能していたらしい。
途中から数人で喫煙所に集まっては、ラジオ体操に精を出した。私は眠い目を擦りながら、もう既にお目覚めぱっちりな彼女の横で、身体を動かす。
彼女の健康的な生活ぶりを少しだけ体感して気づいたこと。自然を愛し、自分の身体を労り、生活リズムを整えると、不思議とパワーが湧いてきて、いつも見ていた景色がより一層美しく感じられる。
彼女の見ている世界って美しい。
「外見だけでなくて内面から美しくあれ」とは、よく言ったものだが、彼女の生活スタイルはその先を行くものだった。
彼女のように、自然も自分も大切にして
万全の精神状態でこの美しい世界を感じていきたい。
ド天然の癒し系でも、プロフェッショナル仕事人!
彼女は元看護師。
しかし、彼女曰く、「精神科の看護師だったからハードな環境ではなかったし、あまり過信しないでください。」だそうだ。
そんなことを言っていたら、ある日彼女が怪我をした。どういう経緯だったのか忘れたが、おそらく、仕事中に頭かどこかをぶつけて、たんこぶを作ったような感じだった。そこで彼女は何を血迷ったのか、経営陣に「救急車を呼んでください」と伝えたという。
私たちも、え?救急車?と拍子抜けしてしまうような感じだ。そこから、経営陣たちから「あいつやばい」というレッテルを貼られた。
しかし、彼女の眼は純粋でキラキラしており、加えて、キレイで透き通った心を持ち合わせていた。時に、彼女のような幸の濃いの人を毛嫌いする人も多くいるが、私はそんな人が大好きだ。多分、自分もどちらかといえば、彼女と同じようなタイプだから。
彼女はよく、ホテルの中を散策していた。
「自分もこのホテルを好きになった状態で、気持ちよく働きたい。」
彼女はそう言って、厨房スタッフでありながら、私たちが働く売店やレストランにやってきて、お客目線でホテルを堪能していた。彼女の仕事観が垣間見えて、そして真っ直ぐなところが美しいと感じた。
そんな彼女は、ホテルのロビーや客室階も散策していたらしい。「ホテルの雰囲気を知りたい!」という純粋な気持ちだったと思う。それが裏目に出た。
「従業員はここに入るなと言っただろう?」
目の敵にされ、ロビーに響き渡る声で注意を受けたと言う。
そこから彼女がホテル内を散策することは無くなった。客室の廊下や、ロビーにはたくさんの写真が貼られてある。写真の中には、この山で見られる植物や春夏秋冬の色鮮やかな景色、時代を感じる白黒の風景写真や経営一族の写真などがある。
そんな写真を清掃中に見ながら、このホテルの歴史や魅力に馳せていた私は、なんだか急に彼女を気の毒に思った。たかが厨房、されど厨房。お客様と直接のやり取りはないにも関わらず、彼女の心意気はプロフェッショナルそのものだった。
写真は蝶ヶ岳から望む槍ヶ岳と穂高連峰📷
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