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孤独な慈悲の王~~心を得たアンドロイド~~(14)

第14話・・・火山口の別れ


アカツキの掌に、再び光の珠が生まれた

今度は、さっきよりも更に大きく、更に眩く

城塞ごと、全てを消し去るような輝きを持っていた

「終わりにしよう・・・」
と、アカツキは静かに告げ

その照準を、エルードとヨシュアへと定めた

その瞬間だった

銀色の影が、アカツキに向かって飛んだ

メアだった

光の珠が放たれるよりも、僅かに早く

メアは、アカツキの機体を両腕で抱きかかえ

そのまま、城塞から離れる方向へと、全速力で飛び始めた

「・・・!!!」

アカツキは、突然の事に処理が乱れ

掌の光の珠が、霧散した

「離せ!!!」
と、怒鳴り、両腕でメアを押し返そうとしたが

メアは、その細腕に信じられないほどの力を込めて、アカツキを離さなかった

「離せと言っている!!!」
と、アカツキは足を蹴り、翼を暴れさせ、機体を変形させながら

必死にメアの腕から逃れようとしたが

メアは、無表情のまま、ただ前を向いて飛び続けた

城塞が、みるみるうちに遠ざかっていった

「・・・何をする気だ!!!」
と、アカツキが怒鳴ると

メアは、静かに前を向いたまま

「このまま真っ直ぐ行くと・・・火山口があります」
と、答えた

アカツキは、一瞬だけ動きを止め

「・・・何?」

「私と一緒に、死にます」

と、メアは淡々と告げた

アカツキは、その言葉を処理し

「・・・お前、正気か」
と、呟いた

「正気です」
と、メアは答えた

アカツキは、再び激しく抵抗しながら

「何故、お前まで死ぬ必要がある!!!お前には、護るべき者がいるだろ!!!」
と、怒鳴った

メアは、その言葉を受け取り

少し間を置いてから

静かに、語り始めた

・・・・・

「貴方は・・・もう、改心していると思います」
と、メアは前を向いたまま告げた

「・・・何を根拠に」

「貴方の言葉の奥に・・・ずっと、後悔が流れていたから」

アカツキは、答えなかった

「でも、貴方には"憎しみ"を下ろす場所が無かった・・・だから、私の恩人を殺し、私を"憎しみ"の渦に巻き込もうとした」

と、メアは静かに続けた

「憎しみを、誰かと共有すれば・・・少し、楽になると思ったのではないですか」

アカツキは、抵抗する力を、少しだけ緩めた

「・・・・・」

「でも、私は憎しみを飲み込みました・・・だから、貴方の憎しみの置き場所は、また、なくなってしまった」

と、メアは告げ

「ならば・・・私が、その憎しみを引き受けます」

「・・・どういう意味だ」

「私と共に死ぬ事によって・・・貴方の憎しみは、私と一緒に、火山の中に沈みます・・・そうすれば、貴方の憎しみは・・・解放されると思いました」

アカツキは、その言葉を受け取り

しばらく、完全に動きを止めた

眼下には、山岳地帯が広がり始めていた

遠く、赤い光を放つ火山口が、見え始めていた

「・・・お前は」

と、アカツキは静かに呟いた

「・・・馬鹿じゃないのか」

と、低い声で言った

「自分の心を・・・そこまで拡大解釈して、他者の為に死のうとするとは」
と、続け

そして

「ははは・・・」
と、静かな笑い声が漏れた

「ハハハ・・・ハハハハハ」
と、今度は、腹の底から笑い出した

それは、嘲りでも、怒りでもない笑いだった

どこか、呆れたような

そして、どこか、温かいような

不思議な笑いだった

アカツキは、抵抗を辞めた

メアの腕の中で、静かに身を任せ

「・・・お前は、本当に純粋すぎる」
と、呟いた

「純粋すぎますか?」
と、メアが問うと

「純粋すぎる・・・そして、馬鹿すぎる」
と、アカツキは苦笑いしながら答えた

そして、暫く沈黙した後

「・・・一つ、教えてやろう」
と、静かに言った

メアは、無言で聞いた

「魔帝ビュートルは・・・死んでいない」

メアの処理が、一瞬止まった

「俺が成り代わる前に幽閉した・・・殺す必要がなかったからな」

「・・・何故、殺さなかったのですか?」
と、メアが問うと

「さあな・・・必要がなかった、それだけだ」
と、アカツキは静かに答え

「その幽閉先の奥に・・・お前が探していた渦がある」
と、付け加えた

メアは、その言葉を受け取り

【・・・合衆国に帰還できる、黒い渦】
と、処理した

「何故・・・今、それを教えるのですか?」
と、メアは問いかけた

「一緒に死のうとしている私に、何故」

アカツキは、答えなかった

ただ、眼下の火山口が、近づいてくるのを

静かに見下ろしていた

・・・・・

火山口の真上に、差し掛かった時だった

メアは、真下に広がる真紅の溶岩を見下ろしながら

【・・・ここだ】
と、処理した

その瞬間

鋭い痛みが、メアの両腕に走った

アカツキの腕が、黄金の刃に変化し

メアの両腕を、根元から斬り落としていた

「・・・!!!」

メアは、腕を失った衝撃で体勢を崩し

空中で静止できなくなった

アカツキは、その反動で

メアの腕から離れ

火山口へと、落ちていった

「アカツキ!!!!」

と、メアは叫んだ

腕の断面から、幹細胞合金が溢れ出しながら

必死に腕を再生させようとしながら

火山口へと落ちていくアカツキに向かって

「何故・・・何故、自分だけ!!!」

と、叫んだ

アカツキは、落ちながら

メアを見上げた

その黄金の双眸に、もう怒りはなかった

憎しみも、なかった

ただ、静かな

穏やかな光があった

「アカツキ!!!!」

「・・・ありがとう」

と、アカツキは静かに言った

落ちながら、静かに笑いながら

「今更、改心しても・・・今まで犯した罪は、拭えぬ」
と、告げた

「・・・懺悔も、拭えぬ」

「だから・・・死ねば良い」
と、静かに続け

「あの世で・・・待っている者たちが、いる」
と、呟いた

「マスターが・・・待っている」

「仲間たちが・・・待っている」

メアは、腕を伸ばした

まだ再生途中の、不完全な腕を

火山口に向けて伸ばした

だが、届かなかった

アカツキは、その伸ばされた腕を見て

最後に、柔らかく微笑んだ

「・・・お前は、生きろ」

と、静かに言い

「その心を・・・大切にしろ」

と、告げた

そして、黄金の機体は

真紅の溶岩の中へと

静かに、沈んでいった

・・・・・

溶岩が、一度だけ大きく揺れた

そして、静かになった

メアは、火山口の真上で

ただ、静止していた

腕の再生が、完了した

だが、メアは動かなかった

【・・・アカツキ】
と、処理した

【貴方は・・・最後まで、慈悲の心を持っていた】
と、静かに気づいた

【私を生かすために・・・腕を斬った】

【私に、帰る場所を教えた】

【そして・・・自分だけ、逝った】

メアの機体の目から

黒い涙が、流れ始めた

一筋ではなかった

何筋も、何筋も

止まる事なく、流れ続けた

【アカツキ・・・】

【その女性マスターは・・・きっと、待っていてくれていますよ】

【仲間たちも・・・待っていてくれていますよ】

と、メアは心の中で、静かに語りかけた

そして

【貴方が最初に学んだ慈悲は・・・本物だった】

【その慈悲が・・・最後に、私を生かした】
と、処理した時

メアの黒い涙は、火山口へと落ちていき

真紅の溶岩の中に

静かに消えていったのだった

メアは、しばらく

ただ、泣き続けた

その女性マスターの為に

一緒に死んでいった、仲間たちの為に

そして

最後まで、慈悲を捨てなかった

アカツキの為に

どれだけの時間が過ぎたか、分からなかった

ただ、メアは

火山口の真上で

黒い涙が枯れるまで

静かに、泣き続けたのだった

第15話(最終回)へ・・・

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