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エッセイ|独身でいるだけで、少し遅れている気がする



何かを失敗したわけじゃない。
誰かを傷つけたわけでもない。
ちゃんと働いて、ちゃんと暮らして、毎日をそれなりにやっている。

それなのに、ときどき
自分だけ何かに間に合っていないような気がする日がある。

結婚した友達の報告を見た日。
家族の何気ないひと言が残った日。
予定のない週末に、部屋の静けさだけが大きく感じた日。

独身でいる、ただそれだけのことが、
なぜか少しだけ胸に引っかかる夜がある。

昔はもっと軽かったはずなのに、と思う。
ひとりの時間も好きだったし、自由なのも悪くなかった。
でも、年齢を重ねるにつれて、
同じ「ひとり」が少しずつ違う意味を持ちはじめる。

焦っているつもりなんてなかった。
比べたくもなかった。
それでも気づけば、
誰かの近況と、自分の今を並べてしまう。

たぶんあの苦しさは、
独身でいることそのものじゃなくて、
そこに勝手に意味がついてしまうことなんだと思う。



「まだ結婚しないの?」
「いい人いないの?」
「ひとりの方が気楽でしょ?」


そういう言葉は、
言った側にそこまで深い意味がないことも多い。
雑談なのかもしれないし、
悪気なんて本当にないのかもしれない。

でも、刺さる日は刺さる。

自分でも少し気にしていることほど、
軽く触れられるだけで痛い。
笑って流したあとに、
ひとりになってからじわじわ効いてくる。

たぶん、しんどいのは
相手の言葉そのものより、
その言葉に反応してしまう自分を見てしまうことだ。

気にしてるんだな、私。
平気なふりしてたけど、ちゃんと苦しいんだな。

そうやって、自分の本音に急に追いつく夜がある。



ひとりでいること自体は、必ずしも悪いことじゃない。
静かな部屋で自由に過ごせる夜はあるし、
誰にも気をつかわなくていい気楽さも知っている。

でも苦しくなるのは、
その状態が“自分だけ止まっている証拠”みたいに見える瞬間だと思う。

周りは進んでいる。
結婚して、住む場所が決まって、家族の話をして、次の節目へ進んでいく。

その横で、自分はまだ曖昧な関係に悩んでいたり、
出会いがないことに焦ったり、
この人でいいのかどうかも決めきれなかったりする。

その差が、ただの違いじゃなくて、遅れに見えてしまう日がある。

でも本当は、人それぞれ事情も、タイミングも、欲しい形も違う。
頭では分かっている。分かっていても、夜はそういう正しいことがあまり効かない。

だからこそ、自分だけ遅れている気がしてしまう。


独身でいることに焦ると、
恋の見え方まで少し変わる。

前なら気になった違和感を、
今は「これくらい我慢した方がいいのかな」と飲み込んでしまったりする。
ほんとうは大事にされていないのに、
“誰かがいる”ことの安心にしがみついてしまったりする。

結婚したい気持ちがあるほど、「ちゃんと好きか」より「ここから進めるか」で相手を見てしまうこともある。

でも、それってかなり苦しい。

焦っているときほど、恋は救いに見える。
でも、苦しい恋がそのまま未来を安心に変えてくれるわけじゃない。

むしろ、
ひとりでいる不安から選んだ関係ほど、
あとで自分をもっと削ることがある。

だから、焦る気持ちが悪いわけじゃないけれど、
その焦りの中で選ぶものは、
少しだけ慎重に見た方がいいのだと思う。

遅れているんじゃなくて、まだ形になっていないだけかもしれない


独身でいるだけで、
少し遅れている気がする日がある。

でも、本当に遅れているんだろうか。
それともただ、
まだ自分の形になっていないだけなんだろうか。

周りの幸せが見えると、
見えない自分の未来だけが不安になる。
今手元にないものほど、
すごく遠く感じる。


けれど、まだ決まっていないことと、もう手遅れなことは違う。

進んでいないように見える時間にも、
見極めていることや、
傷つかないように整えていることや、
過去の苦しさから立て直していることがある。

それは写真にも報告にもならないけれど、
ちゃんと生きている時間だ。

今日はもし、
誰かの結婚や、自分の独身という言葉に少し傷ついたなら、
その気持ちを急いで前向きにしなくていい。

寂しかった。焦った。置いていかれる気がした。それでいいと思う。

ただ、そこから「だから私はだめなんだ」まで行かなくていい。

独身でいることが、そのまま遅れや失敗の証明になるわけじゃない。
そう思えない夜があってもいいけれど、本当はずっと、そうなんだと思う。



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