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最下位の支店を3か月でエリア1位にした、新人の作戦

#創作大賞2026
#お仕事小説部門

たった3か月で、最下位から首位になった。

前回の記事では、大量に発生する初期督促(延滞60日未満くらい)を、先輩社員の分まで巻き取って支店の成績を上げた話を書きました。

でも、それだけじゃ足りなかった。

回収成績の集計対象は、月末時点で360日延滞まで(月末時点で361日以上は債権管理部へ移管)あります。つまり、初期督促を抑えることが一番大事なのは間違いないんですけど、すぐに数字を上げるには61日以上の「長期延滞のしこり」をどうにかしないといけなかったんです。

「延滞361日で貸し倒れ」というのは、簡単に言うと——

放置した借金はいつか損失として処理される、ということです。

で、その貸し倒れになる前の段階にある長期延滞の債権が、うちの支店にはゴロゴロ残っていた。初期督促を制しても、このしこりが残ったままでは支店の回収率は上がらない。そう気づいたのが、僕が羽曳野支店に来てから1ヶ月ちょっと経った頃でした。

テキトー店長を動かす

相談したのは、篠田支店長です。

篠田店長は、まあ、とにかくテキトーな人でした(前回の記事でも書きましたが)。でも逆に言えば、筋が通った話をすれば止めない人でもある。

僕はとにかく元気だけはあったので、勢いよく声をかけました。

僕「篠田店長、ちょっと相談があります!」

篠田支店長「おー佐藤君、なんや?」

僕「初期延滞は目途がついたんですけど、長期延滞をどうにかしたくて。利息を一部免除しつつ、日賦八銭(18%)で和解を積極的にやっていいですか?」

篠田店長「でも、和解したら貸し倒れが増えて成績悪くなるのはわかってるやんな?」

僕「わかってるんですけど、どっちにしろほっといたら390日で貸し倒れですから。訪問しまくって、和解提案しまくって、一気に支店の債権をきれいにしようかと思って……」

篠田店長「うーーん、そやなあ~」

僕「篠田店長って本社にも知り合いいますよね?エリアマネージャーとも仲いいし、債権管理部にも一言言っておいてもらえませんか。もちろん通常入金を最優先にしますし、ヤバい人には破産や調停も勧めます。強引なことは極力しませんので……」

篠田店長「佐藤君が来てから一気に成績良くなりそうやし、便秘薬みたいなもんやな!OK、債権管理部には同期もおるし、それで行こか!」

僕「ありがとうございます!あと、矢島さんにも店長から方針を伝えていただけますか!」

最後の一言がポイントで、僕が直接矢島さん(先輩社員)に指示することはできない。だから、店長経由でお願いしました。若手の立ち回りとして、これは割と重要な判断だったと今でも思っています。

「和解すると成績が上がる」からくり

ここで少しだけ仕組みの話をさせてください。

当時、任意和解をすると翌月に債権管理部へ移管になります。これは回収率とは別に計測される指標で、当然少ないほうがいい。

ただ、和解する時点で延滞利息を一部免除して延滞状況を「解消」するので、移管された債権は回収率の集計対象(分子)から外れるんです。

つまり、こういう流れです。

任意和解 → 債権移管 → 回収率の計算対象から外れる

うまくいけば、一気に支店の回収率を良化できる。

批判を受けるのは最初からわかっていました。「和解のおかげやん」って言われるのも想定済み。でも数字は数字。まず動かさないと始まらない、そう思ってました。

矢島さん、実はノリノリだった

篠田店長から方針が伝わりました。

「初期督促の業務量はしっかり維持しつつ、任意和解をこれまでより積極的に進めること。そのためにレンタカーを使っていいので、訪問に積極的に出ること。」

矢島さんと一緒に訪問候補の選定をしていたら、こんな言葉が出てきました。

矢島さん「車で訪問出るの久しぶりやな。実は行って話したいやついっぱいおるんやわ。こいつやとか、ほんでこいつも不義理こいたやつや!」

なんやかんやで、矢島さんもノリノリです。

ちなみに矢島さんはリーゼントヘアで、普段チャリに乗らない理由は「髪が崩れるから」だと、僕は今でもそう思っています。

レンタカー作戦・3日間

初期督促が落ち着いた2週目、とうとうレンタカーを借りて訪問に出ました。3日間、車を借りました。その期間だけは、矢島さんも残業です。

債務者と会えそうな時間帯を計算しながら動くんですが、それでも不在は多い。

そこで僕は訪問通知に、手書きでこんな一文を加えました。

「和解による解決も検討しますので、折り返しご連絡ください」

運転は当然僕。大阪市平野区、羽曳野市の端っこ、富田林市、河内長野市——普段チャリでは絶対に行けないところまで走りました。

今みたいにナビもスマホもない時代です。事前に印刷したゼンリンの住宅地図が頼りでした。

それでも、1日3件くらいは会えました。

見た目がヤクザの矢島さんも、意外と(?)丁寧に交渉していました。

和解の提案も効果的で、「5万円の遅延損害金のうち3万円を免除」みたいな話が特に響いて、3日間で3件くらいはその場で話がまとまりました。

そして——あの「訪問通知に書いた一文」が効いた。

不在で会えなかった人から、何件も折り返しの連絡が来たんです。「和解も検討する」というひと言が、相手にとっての「電話するハードル」を下げていたんだと思います。

チャリ訪問での和解も合わせると、1ヶ月で10件の任意和解が成立しました。

ベベから1位へ

規模の小さい羽曳野支店にとって、10件の和解はでかいインパクトでした。

月末の回収率——エリア1位

たった3ヶ月で、最下位から首位になりました。

他の支店の一部の社員からは「和解のおかげやん」と批判も受けました。それはまあ、事実だし、わかってやったことです。

ただ、この和解大作戦のおかげで長期延滞のしこりも減って、翌月以降は「和解は本当に必要な人だけ」「基本の初期督促をしっかり」という本来のかたちに戻せました。

結果、僕がいる間はしばらく、エリアの1位・2位を常に争うようになりました。

今回の学び

土台(初期督促)を固めた上で、大胆に動く。

順番が大事で、しこりだけを取りにいっても長続きしない。でも土台が安定したタイミングで一気に動けば、数字はひっくり返せる。

若かったから動けた部分もあると思います。でも支店長と先輩を巻き込んで、自分では動けないところを補ったのも、地味に効いていたと思っています。

次回は、回収率1位になった後にほっとする間もなく待ち受けていた、外資系の洗礼について記載したいと思います。

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