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20代新人が、見た目ヤクザの50代先輩の仕事を全部巻き取った話

#創作大賞2026
#お仕事小説部門

先輩の仕事を、勝手に全部やることにした。

前回の記事で書いた通り、羽曳野支店の回収成績が悪い原因はシンプルでした。

架電数が少なく、初期延滞の取りこぼしが多い。 電話がつながらない債務者への訪問もしていない。

要するに、単に業務量が少ないだけでした。

ただ、問題はわかっても、それを言い出すのが難しい。

20代前半の新人が、50代の先輩社員にそうそう物は言えません。 しかも矢島さん、見た目だけはほぼヤクザです。

そこで、まずは自分にできることから動くことにしました。

支店はエリア最小規模、債務者の数も少ない。 なら、初期督促の電話を全件、自分でやってしまおう。

矢島さんに声をかけてみました。

「矢島さん、お客さんの数が少なくて物足りないんで、初期督促を多めに担当させてもらっていいですか!」

あっさりOK。

優しいのか、単に怠け者なのか。たぶん後者です。

こうして、支店の初期督促のうち約8割を担当することになりました。

残りの2割についても、自然と対応することになっていきます。

矢島さんは定時になるとさっさと帰り、併設のレンタルビデオ店で『ミナミの帝王』や『ナニワ金融道』を社員特権で無料で借りてから帰る人でした。

なので、矢島さんが帰ったあと、彼の担当顧客にも電話をかけました。

貸金業法上も社内規則上も、架電記録は残す必要があります。 なので、必要最低限の記録だけ入力して対応しました。

翌朝、一応事後報告。

「矢島さん、昨日残業して自分の分全部終わったら時間余ったんで、少し電話しておきました」

「おっ、ありがとう」

特に気分を悪くされた様子もなく、それ以来これが暗黙のルーティンになりました。

さて、ここで当時の回収率の計算方法を整理しておきます。

【月末時点の回収率】 =(延滞または法的整理・和解した債権残高)÷ 支店の貸付残高

  • 延滞:月末時点で延滞日数が30日以上360日未満

  • 法的整理または和解:破産開始決定済み、調停・任意和解済みの債権

要は、延滞や焦げ付きが多いほど、回収率が悪化する仕組みです。

初期督促を本格的に回し始めると、手応えはすぐ出ました。

毎日エリア各支店の回収率がFAXで流れてくるのですが、月初は初期督促の進捗が数字に大きく影響します。

10日締め時点で、羽曳野支店はエリア2位。

やっぱり、単純に架電数が足りていなかっただけでした。

電話での対応と並行して、訪問にも動き始めました。

電話がつながらない先には早めに見切りをつけて、自転車で行ける範囲の債務者をピックアップ。 矢島さんの担当分も含めて、動ける範囲は全部回りました。

「矢島さん、今日チャリで訪問行くんですけど、〇〇さんも近いんでついでに行ってきますね」

こんな感じで報告して、さらっと対応。 (余談ですが、約半年の在籍中、矢島さんが自転車に乗ったところを一度も見たことがありません)

訪問で実際に会えるのは5件に1件あるかないか。

それでも、不在先に訪問通知を投函するだけで、入金につながるケースが少なくありません。

延滞が数日〜20日程度の債務者を中心に、自転車20分圏内はほぼ全件回りました。

  • 会えた場合:その場で最低限、利息分を回収

  • 持ち合わせがない場合:数日後の連絡を約束

  • 不在の場合:訪問通知を投函

結果、月末時点の回収率はエリア10支店中6位

最下位争いからは、何とか脱出できました。

ただし、31〜360日未満の中長期延滞のカタマリはまだ残っています。 ここを崩さない限り、上位には入れません。

理屈の上では、初期督促をしっかり継続すれば、31〜60日→61〜90日と延滞が順に減っていき、1年後には成績がかなり改善するはず。

でも、それだと時間がかかりすぎる。

というわけで、翌月からは初期督促の業務量を維持しながら、31日以上の延滞への対策に本腰を入れることにしました。(続く)

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