フランス人が外国人にも、フランス語で話しかける理由
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
フランスに旅行に行く、出張に行くとなると、よく言われることがあります。
それは、「フランスでは英語が通用しないよ」というものです。皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう。
この話を聞いて、「フランス人は冷たい」「フランス人はプライドが高い」「フランス人は自分たちには関心があるが、他人には関心がない」など、さまざまな憶測やイメージを持っている人もいるかもしれません。
では、なぜフランス人は、外国人にもフランス語で話しかけるのか? そこにはどんな意図や理由があるのか?
その理由について教えてくれるのは、在仏14年超、8人の子を育てる日本人、トレオレル美智子さんです。その理由は、私たちが持っている憶測やイメージとはどうやらちょっと違うようです。
トレオレル美智子さんは、7月21日に発売予定の新刊『フランス人の気楽な働き方、全力の休み方』で、その違いと真意について詳しく解説しています。
そこで今回は、同書発売に先立ち、このnoteで特別に、その該当箇所を一部編集して公開します。

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「フランス人は、英語を受け付けない」の真相
あなたも一度は、耳にしたことがあるだろう。フランスへ旅行する人への、定番となっているアドバイス。
「フランス人は、フランスが世界一だと思っているから、フランス語しか話さないんだよ」
「フランスは、英語で話すと良い顔されないから、気をつけて」
果たしてこれは、嘘か本当か?
これに関してはもちろん、フランス人にもいろんな人がいるし、時代の変化と共にも変わってきているので、一概には言えない。
ただ私の経験上、確かにフランスでは、英語が通じない。時代と共に変わった点は、最近パリなどの観光地では、英語を話す店員さんも増えてきたこと。
だが、それ以外の場所では、今でも話される言語は、英語ではなくフランス語。英語は、まるで存在しないかのようだ。
それもまだ、フランス人がフランス人同士、フランス語で話しているというのなら、わかる。だが明らかに、フランス語を話さないであろう外国人に対しても、フランス語で話しかけてくるというのは、何だろうか? フランスも日本と同じように、義務教育により学校で英語を学んでいるのだから、片言であっても、ある程度のコミュニケーションが取れる人は多いはず。
それなのに、どうしてフランス人は、外国人に対しても、フランス語で話そうとしてくるのか。私はフランスに来た当初、この理解できなかった文化によって、何度も苦い思いをした。
フランス語に囲まれて、ツラかったパーティー
フランスに来て、数カ月が経った頃。私は、あるパーティーに招待された。
主催者は、30代後半の女性、マエヴァ。背が高く、ウェーヴがかった茶髪のロングヘアー。大きな瞳で歯を見せながら大きく笑う、ハグが大好きな明るい人気者だ。
そんな彼女の旦那さんは、彼女より頭一つ分背の高い、スラリとした脚長体型。某ファッションブランドの会社に勤めていることもあって、夫婦揃って超がつくオシャレ。洋服はもちろん、家全体も、南国風インテリアで洗練されている。
多くの友人に囲まれて愛される、まさに「絵にかいたような理想のカップル」だ。
パーティーは、夕方から始まる。マエヴァ夫婦の自宅の庭と広いリビングが開放されている。空が暗くなるにつれて、ミラーボールが音楽のリズムに合わせて、動き出す。カラフルなライトが、どんどん派手になっていく。
お酒を片手に、輪になって話している人、カップルで踊っている人、一人で心地よさそうに踊っている人など、それぞれがその場の雰囲気を楽しんでいる。
私は日本では、友人で集まってパーティーをしたことも、ディスコに行ったこともなかった。そのため、私はこの雰囲気に戸惑い、居場所がわからないでいた。
だが幸い、優しく社交的なマエヴァの友人たちは、日本から来たばかりの珍しい存在である私に、積極的に話しかけてきてくれた。
これぞ、海外暮らしの醍醐味。フランス人たちのパーティーに、参加できるなんて!
と言いたくなる場面だ。だが、この楽しいはずのパーティーで私は、大量のストレスとトラウマと怒りを抱えて帰宅することとなる。
彼らは、私を会話の輪の中に入れてくれた。いや、もう少し正確に言うと、私を、会話に参加している人の位置に招いてくれた。そこから私のまわりにいる人たちが次々に、リズム良く発言している。友人同士盛り上がり、笑ったり、からかったり、時には手を叩いて大ウケしたり。お酒も入って、日頃のストレスも何もかも吹っ飛ぶような、楽しい時間。
しかし私は、そこで一緒に笑うことができない。なぜなら、その会話は完全にフランス語だったからだ。しかも、そのフランス語は、フランス人同士の盛り上がった会話の速度で話されるフランス語。フランス語超初心者向けにと、ゆっくり話されるわけではなく、いつもどおりのフランス人の友人同士で話すフランス語だから、私にはひと言も理解ができない。
私を含んだ輪になって、大盛り上がりしているフランス人たち。私もその輪の中に立っている以上、ムスッとしているわけにはいかず、適当に愛想笑いを保ったまま、時間が過ぎるのを待つしかなかった。
日本では、日本語が話せない外国人に親切にするのは当たり前なのに……
フランス人たちは私を輪の中に入れてくれ、楽しい時間を共有してくれている。しかし、フランス語がわからない外国人の私にとっては、ただの苦痛な時間にしかなっていない。フランス人は、外国人の気持ちを考えたことがないのだろうか。
フランス人の楽しい会話の輪の中で、一人愛想笑いや、空っぽの相槌を打ち続けていた私は、だんだん虚しさを感じていた。海外で暮らして、胸がぎゅっと締め付けられたり、落ち込んだりしたときに思い出すのは、いつも日本のことだ。私はこのフランス人たちの対応を見ながら、「もしもこれが日本人だったらどうするだろう」 と考えた。
例えば日本で、日本人5、6人の中に1人、日本語があまりわからない外国人がいて会話をしているとしよう。そんな状況なら、きっと日本人たちが全員、簡単な日本語のみでゆっくりと話したり、もしくは、できるだけ共通言語である英語を使って話したりするだろう。
このように日本では、この「日本語がわからない人」が会話の内容を理解できているかどうかを気にしながら、その人を優先した対応を取る人が多い。
この日本で日本人がよく取る対応から考えると、今このパーティーで、フランス人が私に取っている対応には納得がいかない。
言いたいことは、たくさんある。今私のまわりにいるフランス人たちはみんな、私が日本から来たばかりであることを知っているではないか。その上、フランス語が話せないこと、だけど英語なら話せることも知っている。それなのに誰一人として、ゆっくり話そうとしたり、英語で話そうとする人はいない。
私はこのとき、フランス人とはなんて冷たい、ひどい人たちなのだろうと、深く傷つきながら帰宅した。
優しく話してくれたフランス人に、怒りを覚えた日
それからも外に出ては、フランス語が話せないことによって、何度もツラい思いをした。フランス語で話しかけられても、応えることができないので、外に出ることも、人と会うことも、嫌になった。すると、ますますフランス語が話せるようになる日は遠ざかった。私はこうして10年以上、フランス語が話せるようにはならなかった。
まわりで飛び交う言語が理解できない。目にする言葉も、何が書かれているのかわからない。耳も目も言葉を理解できない世界は、まるで真っ暗闇の中に一人ポツンと立ち続けているような気がした。
10年以上、住んでいる国の言葉が話せない。孤独と悔しさともどかしさ。そこに、もう一つの感情が生まれた出来事が起きた。
ある日、スーパーでの買い物中のこと。いつもならレジで会計して、カードをかざして払えば済むだけなのだが、その日は、レジの機械トラブルにより、会計でエラーが出てしまった。日本なら、お店側で対処してくれるだろうし、そもそも機械が壊れるなんてことはめったにないだろうが、フランスでは、ままあること。しかも、トラブルは完全に店側の責任であっても、客が動かなければいけなくなる。
このとき私は、レシートを持って総合受付に行くようにと言われた。会計が正式に完了していないのだから、そのまま帰宅するわけにはいかない。私は仕方なく、スーパーの総合受付へ向かった。
そこにいたお姉さんに、「ボンジュール」とだけ挨拶し、それからトラブルとなったレシートを見せた。トラブルの内容を説明するわけでもなく、ただレシートを見せるだけの私を見て、お姉さんは、私がフランス語を話せないとわかった。
すると彼女は、私の前でひと呼吸おいた。それから、目を大きく見開きながら、ゆっくり、まるで赤ちゃんに言葉を教えるときのように、口を大きく動かしながら、文ではなく、主要な単語だけを一つずつ、丁寧に発音して聞かせてくれた。
私は、彼女が私に取った対応を目の当たりにしたとき、頭の中でプツンと何かが切れたのを感じた。今まで毎日、頭と心の中をいっぱいにし続けてきた「フランス語ができない苦しみ」が、サーッと引いていった。そしてその代わりに、すごい勢いで強い怒りが湧き起こった。
「私は、赤ちゃんじゃない。一人の大人なんだよ」
バカにするのも、いい加減にしろ。フランス語が話せなくても、対等に話せなくても、ちゃんとした意見も持っているし、常識もある、考えもある、大人なんだ。フランス語レベルからしたら、一人の人として扱えないほどに、バカに見えるかもしれない。だけど私は、フランス語以外は、あなたたちと同じレベルを兼ね備えた大人なんだよ。
私はメラメラと湧き起こる怒りをどう扱えばいいのかわからないまま、混乱状態で、ただ軽く「メルシー」とだけお礼を言って、静かに去った。
「特別扱いしない」という、相手への尊重心
車に戻り席に着くと、先ほどの怒りの反動なのか、今度は、悲しくてツラくてたまらなくなった。
そんな中、私は、あのフランスに来たばかりの頃に招待されたパーティーでの出来事を思い出していた。あのとき、彼らは、フランス語が話せない私を、友人たちの会話の輪の中に入れてくれた。私がフランス語を話せないにもかかわらず、特別扱いすることなく他のフランス人たちと同じように、会話のリズムも空気もそのまま、その場に混ぜてくれていた。 もしかすると、あれは、私を一人の大人として、「あなたも私たちと同じだよ」と、私を尊重してくれての態度だったのではないだろうか?
当時はツラく思った経験を、今では恋しく思っている。
一方、当時してほしいと思った、特別ゆっくり話してもらうという対応をされたことで、今、怒りと悲しみを覚えている。昔と今では、求めていることも、感じることも、逆になっている。
良いこと、悪いことは、こちら側の捉え方次第!?
フランス人が、外国人に対して特別扱いをしないこと。
日本人が、外国人に対して特別扱いをすること。
この二つは、真逆である。しかし私は、この両方を、良いと思ったり、悪いと思ったりしている。つまり、どんなことも「良いこと」にも「悪いこと」にもなるのだ。
人は、そのときの状況と感情で、捉え方が変わる。 同じことを、「良いこと」だと捉えたり、「悪いこと」だと捉えたりする。
だからもしかすると、今あなたに起こっている「悪いこと」は、実は違う視点から見たり、別のときに考えたりしてみると、「良いこと」なのかもしれない。
「あの人は、どうして私をこんなに不快な思いにさせるのだろう」と思っていることは実は、相手の優しさかもしれない。
「どうしてこんなにうまくいかないのだろう」と感じていることは、別の方向から見ると、とてもうまくいっていることがあるのかもしれない。
今の私は、あのパーティーで私を会話の輪に入れてくれたフランス人たちや、スーパーの受付で私を気遣って一生懸命に理解させようとしてくれたお姉さんに、お礼を言いたい気分だ。
とは言っても、当時の私は、どちらも思いっきり泣いた。それくらい 「悪いこと」だと感じることは、結局「良いこと」なのだ。 日本とフランスは真逆の対応をするけれど、どちらも良いことなんだな。
〈著者プロフィール〉
トレオレル美智子
フランス在住14年の8人子育てワーキングマザー。
1986年滋賀県生まれ。一度目の結婚で二児を設けるが、良き妻、良き母でいようと尽くした結果、夫がモラハラDV化し、親族らにより強制離婚。東京でシングルマザー生活を送る。後にフランス人と再婚して渡仏。5人を出産し、7人の母として暮らしていたところ、フランス語が話せないまま突然またもやシングルマザーとなる。職なし、貯金ゼロ、公共料金の払い方も知らないところから、日仏辞書を片手に訪ね歩き生活を立て直す。子どもには不自由な思いをさせないようにと、働きながらも家事の手を抜かず、自分のことを後回しにしていたが、それを知ったフランス人マダムから「どうして自分の人生を楽しまないの!」と怒られる。「休む」ことを目的に働くのではなく、「楽しむ」ことを目的に一日中行動するようになる。その結果、仕事もプライベートもペースを崩すことなく両方が充実し、フランス人と三度目の結婚。その中で出会ったフランス人たちの些細な一言や行動に対してインタビューを重ね、「フランス人の楽に幸せに成功し続ける生き方」をメソッド化。オンライン・リアル(日本)での講演やセミナーを多数実施している。
【著者の壮絶な半生を描いた記事はこちら】(文春オンライン)
https://bunshun.jp/articles/-/89388
https://bunshun.jp/articles/-/89389
https://bunshun.jp/articles/-/89390
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いかがですか?
フランス人は、たとえ、仕事で失敗しても、失敗したのは「仕事」というコスチュームを着た「私」が失敗しただけ。まるで作品を訂正したり改良するかのように、手を加えればいい。プライベートの「私」とは何のつながりがない――。
そう考えるので、仕事の失敗をプライベートにひきずることはなく、ストレスも溜めません。
休日の過ごし方も、日本人のようにダラダラしたりせず、早起きして、夜遅くまでパーティーを楽しみます。
なぜなら、自分の人生を楽しむ、過去でも未来でもなく、「今」を楽しむことを大切にしているから。
「仕事もプライベートも、自分の人生を楽しむためにある」
そんなフランス人の人生哲学を解説した新刊『フランス人の気楽な働き方、全力の休み方』(トレオレル美智子・著)は、7月21日からネット書店および全国書店で順次発売されます。興味のある方はチェックしてみてください。



▼新刊『フランス人の気楽な働き方、全力の休み方』の「はじめに」「目次」を全文公開中
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