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健診医が最初に覚えておきたい6つの基本

― 健診は「診断する場」より「振り分ける場」―

はじめまして。健診業務に従事して6年目になる医師です。

人間ドックや健康診断の仕事をしていると、意外と迷うことが多い。

「この血圧なら受診を勧める?」

「尿蛋白が出ているけど、何科?」

「心雑音を聞いたけど、本人にどう説明する?」

「治療中の人ならどうする?」

「要精査と言ったら不安にさせすぎないか?」

高血圧、糖尿病、脂質異常症、心電図、胸部X線、腹部エコー……と、必要な知識もかなり幅広い。

本来なら、それぞれのガイドラインをすべて確認するのが理想だと思う。

ただ、健診業務に入るために各分野のガイドラインを片っ端から読み込むのは、なかなか大変である。

このシリーズでは、健診業務に入るハードルを少しでも下げ、健診医による判断や説明のばらつきを減らすことを目標に、現場で最低限知っておきたいことを整理していきたい。

まず最初に、私が健診で大切だと思っている基本を6つ挙げる。


1.健診は「診断する場」より「振り分ける場」

健診ですべての病気を診断する必要はない。

まず考えるのは、

問題なし

生活指導

再検査

医療機関受診

緊急対応

のどこに振り分けるか。

健診医として重要なのは、

「見逃してはいけない人を拾って、必要な医療につなぐ」

ことだと思う。


2.まず、治療中か未治療かを確認する

健診結果を判断するときは、原則として、その病気について現在治療中なのか、未治療なのかを確認する。

まず問診票の既往歴・治療歴を確認し、不明な場合は本人にも確認する。

未治療の場合

結果に応じて、

生活指導・再検査・受診勧奨

を考える。

治療中の場合

基本は、

「今回の健診結果を、かかりつけの先生に見せてください」

でよいことが多い。

血圧、糖尿病、脂質異常症など、かなり多くの項目で使える考え方である。

もちろん、明らかな緊急性がある場合は別であるが。


3.「今回の値」だけでなく「去年の値」も見る

健診の強みの一つが、経年変化を見られることだと思う。

例えば、

  • Hb 13 → 10

  • eGFR 70 → 50

  • 体重が1年で大きく増加

  • 昨年までなかった心電図変化

など。

単発では軽度異常でも、急激に変化していること自体が重要な場合がある。

逆に、以前から同じ所見があり、すでに精査されているケースもある。

「数字を見る。去年も見る。」

くらいは習慣にしておきたい。


4.症状や緊急性は、健診判定より優先する

健診の判定区分だけを見てはいけない。

例えば、

  • 胸痛

  • 呼吸困難

  • 意識障害

  • 麻痺

  • 強い腹痛

  • 肉眼的血尿

などがあれば、単なるA・B・C・D判定とは別に考える。

健診の基準値は、目の前の受診者の緊急性を否定するものではない。

急変時には健診判定から離れて、通常の医学的な緊急対応を行う。


5.「受診してください」だけで終わらせない

できれば、「何科を受診すればいいか」まで伝える。

例えば、

  • 血圧 → 内科

  • 心電図異常 → 循環器内科

  • 蛋白尿・腎機能低下 → 内科・腎臓内科

  • 肉眼的血尿 → 泌尿器科

など。

さらに、自分自身は、「受診したら、そのあと何をするのか」を大まかに知っておく。

受診者に全部説明する必要はない。

でも、

「病院ではまずもう一度検査して、本当に異常が続いているか確認します」

など、その先を少し説明できるだけでも説得力が違う。


6.必要以上に怖がらせない。でも、必要な受診はきちんと勧める

健診で異常が見つかったからといって、病気が確定したわけではない。

例えば身体診察で少し気になる所見があった場合、

「病気があります」

ではなく、

「少し気になる所見があります。詳しく調べても問題がないこともありますが、一度確認してもらうと安心です」

くらいの説明がよいことも多い。

一方で、本当に精査が必要な所見を、

「まあ念のためです」

と軽く説明しすぎるのもよくない。

私が意識したいのは、

不安を必要以上に与えない。
でも、必要な行動はきちんと促す。

というバランスである。


もう一つ覚えておきたいこと

「検査は多ければ多いほどよい」とは限らない

これは人間ドックに関わるなら、頭の片隅に置いておきたい。

スクリーニングには利益だけでなく、

  • 偽陽性

  • 偽陰性

  • 過剰診断

  • 偶発所見

  • 精密検査による負担や偶発症

といった不利益もある。

国立がん研究センターも、がん検診の主な利益を死亡の減少としつつ、偽陽性・偽陰性・過剰診断・偶発症などの不利益があることを明示している。

つまり、

「たくさん病気を見つける検査」=「よい健診」

とは限らない。

大切なのは、

「その検査を行うことで、最終的に受診者の健康に利益があるのか」

という視点だと思う。

この点については今後、がん検診、PSA、腫瘍マーカー、頭部MRI、頸動脈エコーなどを取り上げながら整理していきたい。


まとめ

健診医が最初からすべての疾患に詳しい必要はない。

まずは、

どう判断するか。
どう動くか。
どう説明するか。
どこにつなぐか。

この4つができればいい。

私自身、このシリーズを通じて目指したいのは、

見逃さない。
紹介しすぎない。
怖がらせすぎない。
必要な人を、必要な医療につなぐ。

そんな健診を、なるべく誰でも実践できるようにすることである。

今後、血圧、脂質異常症、糖尿病、腎機能、心電図、胸部X線などについて、「最低限ここだけ覚えておけば現場で使える」という形で一つずつまとめていく。

「次の記事:高血圧|覚える数字は『140・160・180』」

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