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ドアタマに、命をかけろ。|視聴者が離脱する「秒数」と、コンクールで勝つ冒頭の技術【脚本のイロハ』

こんにちは。だんごぶっくです。

今日は、脚本のイロハ連載のなかでも、最重要回と言ってもいいかもしれません。
テーマはひとつだけ。

ドアタマ(=脚本の冒頭)に、命をかけろ。

昔から言われてきた言葉ですが、今ほどこの言葉が重くなった時代はないと思っています。順番に説明させてください。



1. 観客は「何秒」で去っていくのか

まず、数字の話をします。

・TikTokやリール等の縦型ショート動画では、スワイプするかどうかは冒頭2〜3秒で決まると言われています
・YouTubeでは冒頭15秒以内の離脱率が最も高く、横型動画では最初の10秒で視聴者の約2割が離脱するというデータもあります
・Netflixの研究チームは、ユーザーが作品探しに費やすのは60〜90秒で、そこで興味を引くものがなければ「サービスから離脱するリスクが大幅に上がる」と明かしています

もちろん、これらは動画プラットフォームの数字であって、映画やドラマの数字そのものではありません。
でも、いま脚本を観る「観客の身体」は、この環境で作られている
ここが重要です。

倍速視聴と10秒スキップが標準装備の観客に、「最初の10分は我慢して観てください」はもう通用しない。
最初の3分を見てもらえたら御の字。
だから脚本で言えば、最初の3ページにどれだけ命をかけられるか
1ページ目からどれだけ「このまま観たい」と思わせられるかが、かつてないほど重要になっています。

2. 「序破急」ではなく「破序急」

日本の物語論には昔から「序破急」という言葉があります。
静かに立ち上げて(序)、動かして(破)、畳みかける(急)。
美しい型です。

でも最近、打ち合わせの席でよく出るのはこういう言い方です。

「今の時代は破・序・急だよね」

先に「破」。つまり、まず事件なり違和感なりの強い一撃を置いてから、あらためて「序」をやる。
起承転結の「起」をのんびりやっていたら、視聴者は飽きて次の作品へ行ってしまう。
現場の実感としてかなり本気の話です。

そしてこれは、コンクールでは昔からずっと真実だったんです。
審査員や下読みの方は、大量の脚本を読まなければいけません。
私がコンクールを目指す方にいつもお伝えしているのは、力を入れるべきは「あらすじ」「ドアタマ」「ラスト」の3点だということ。
中でもドアタマは特別です。
ここがつまらないと、続きを読む気力そのものを削いでしまう
逆に言えば、冒頭3ページで「おっ」と思わせた脚本は、そのあと多少もたついても最後まで読んでもらえます。

3. ドアタマの技術は「10の型」に分けられる

では、どうやって冒頭で掴むか。名作の冒頭を分析していくと、掴み方には共通の「型」があることが分かります。私は10に分類しています。それぞれ「どういう感じか」まで含めて紹介します。

①事件先行型|主人公が出てくる前に、脅威や事変を観客にだけ見せてしまう。
例:『リング』。女子高生が「観ると一週間後に死ぬビデオ」の噂話をした直後、語った本人が死ぬ。噂が本当だと開幕で証明されるので、以後は疑う時間ゼロで走れます。

②結果先行型|物語の中盤・終盤にある「最悪の瞬間」を先に見せてから、時間を巻き戻す。いわゆるフラッシュフォワード。
例:『鬼滅の刃』。血まみれの妹を背負って雪山を泣きながら走る少年から始まり、そこから前日の平和な家族の朝に戻る。おかげで団らんの描写が全部「失われる予定のもの」として切なく機能します。

③犯行先行型(倒叙)|犯人も手口も動機も、最初に全部見せてしまう。
例:『古畑任三郎』。毎回、誰が・なぜ・どうやって殺したかを観客は先に知らされる。興味は「誰が?」から「どうバレる?」に付け替えられ、それが同じ強さで最後まで引っ張ります。

④日常提示型|事件を起こさず、壊される前の世界と主人公の欠落を刻む。
例:『千と千尋の神隠し』。引っ越しの車の後部座席で、少女がふてくされているだけ。でもこの「不満だらけの受け身の子」が目盛りゼロ地点になるから、ラストの成長が測れるんです。異世界に行く物語ほど、ド頭は平凡でいい。

⑤人物の所作型|台詞に頼らず、動作でキャラを立てる。
例:『セブン』。老刑事が几帳面な手つきで身支度を整え、殺人現場で同僚が気にも留めない一点だけを問う。台詞ゼロの身支度で、几帳面さ・古風さ・孤独まで伝わります。

⑥小道具語り型|人物ではなく、空間と物に主題を語らせる。
例:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。無数の時計が時を刻む部屋をカメラが舐めていく。住人が登場する前に「時間に取り憑かれた発明家」の存在が立ち上がる。説明台詞を書きたくなったら、代わりに「部屋」に語らせられないか考えてみてください。

⑦伝説先行型|主人公より先に、世界を起動するプロローグや神話を置く。
例:『ONE PIECE』。処刑台の海賊王が「財宝はあの海に置いてきた」と言い放ち、その一言で大海賊時代が始まる。全人類共通の目標が先に宣言されるので、以後どのキャラが出ても動機の説明が要らなくなります。

⑧ルール提示型|遊びや制度の説明が、そのまま後の展開の予告になる。
例:『イカゲーム』。冒頭、子供の遊びのルールがモノクロ映像で無邪気に説明される。それが後の死のゲームの予告編になっている。観客は落差の設計図を、知らずに受け取っているわけです。

⑨語り出し型|一人称の声・ナレーションの「声の温度」で掴む。
例:『人間失格』。「恥の多い生涯を送って来ました」。この一行が男の全人生の要約であり、読者への降伏宣言になっている。小説は情報より先に、声で掴む。

⑩仕掛け型|内容ではなく、構造や見せ方そのもので掴む。
例:『カメラを止めるな!』。冒頭37分ワンカットの長回し。しかも妙な間や不自然な段取りが「わざと」残されていて、その違和感が全部あとで回収される。粗すら設計できるという極端な見本です。

お気づきかもしれませんが、さっきの「破序急」を一番素直に実現できるのが②結果先行型です。先に一撃(破)、それから日常(序)。観客は「なぜこうなった?」という問いを植え付けられているので、静かな立ち上がりでも前のめりで観てくれます。自分の企画の第1話が地味だなと感じたら、まずこの型を検討してみてください。

4. 名作のドアタマを2本だけ

実物を見てみましょう。

■ ジョーズ(事件先行型)
ド頭|夜の浜辺で若者たちが酒盛りをしている。抜け出した若い女が海に入り、月明かりの下を泳ぐうち、水中の何かに突然引きずり回され、悲鳴とともに姿を消す。翌朝、浜に残骸が見つかる。
分析|襲う側を一切見せず、水面の女の視点と水中からの視点の切り返しだけで恐怖を成立させている。開幕で犠牲者を一人出しておけば、以後は海が映るだけで緊張が走る。恐怖の「前例」を最初に作る設計です。

■ ブレイキング・バッド(結果先行型)
ド頭|砂漠の空にズボンが舞い、ガスマスクに下着姿の中年男が暴走する車両を運転している。車を降りた男は家族への詫びを映像に残し、拳銃を構えて迫るサイレンの方角を見据える。そこから時間は三週間前、冴えない化学教師の日常へと戻る。
分析|地味な主人公の説明を後回しにし、最悪の瞬間の異様な姿を先に見せることで「どうやってこうなった」という強い問いを植え付ける。変化の小さい主人公の企画ほど、変貌後の一瞬を頭に置く価値があります。

どちらも、最初の数分に「その作品の一番いいもの」を惜しみなく置いているのがわかると思います。


5. ただし「派手=正解」ではない。あざとく計算を

ここで大事な注意をひとつ。「インパクトがあればいいんでしょ」と言って、たとえば車20台の玉突き事故をオープニングに持ってくる。これは危険です。

なぜか。コンクールで受賞したら、その脚本は映像化を検討されるからです。そのとき制作側が最初に考えるのは「これ、いくらかかる?」。冒頭から大規模なカースタントが必要な脚本は、「面白いけど、予算的に撮れないな」でボツになることが現実にあります。

思い出してほしいのは、さっきのジョーズです。あの冒頭、鮫は一切映っていません。夜の海と、女優さん一人と、水中からのカメラ。それだけであの恐怖です。つまり、インパクトは金額ではなく設計で作るものなんです。コンクールに出す以上、「実際に制作可能な規模感か」というラインまで計算に入れて、ある種あざとく書いてください。低予算で撮れる強烈なドアタマこそ、審査員と制作側の両方を唸らせます。

6. 巨匠たちも、同じことを言っている

最後に、これが私の思いつきではない証拠を。

観客の喉首を掴んだら、二度と離すな。
——『アパートの鍵貸します』などで知られる巨匠ビリー・ワイルダー監督が、後進に遺した脚本術十箇条の、いちばん最初に置かれている言葉です(キャメロン・クロウ監督の聞き書き『ワイルダーならどうする?』より)。

最初の10ページは、脚本の中で最も重要な部分である。
——三幕構成の教科書として世界中で読まれるシド・フィールドさんも、著書で繰り返しこう強調しています。プロの読み手は最初の10ページで読む姿勢を決める、と。

ワイルダー監督の十箇条には、こんな言葉もあります。「第三幕に問題があるなら、本当の問題は第一幕にある」。ラストが決まらないのは、実は入口の設計のせい。ドアタマは、作品全体の設計図でもあるんです。

まとめ|冒頭は、全員が読んでくれる唯一の場所

脚本の中で、審査員が必ず読んでくれる場所はどこか。冒頭だけです。だからこそ、そこに作品の一番いいものを置く。

・観客が離脱を決めるのは秒単位。脚本なら最初の3ページ
・時代は「序破急」より「破序急」。先に一撃、それから序
・掴みの型は10種類。迷ったら結果先行型から検討
・インパクトは金額ではなく設計で作る。映像化可能な規模で、あざとく
・「喉首を掴んだら、二度と離すな」(ビリー・ワイルダー)

あなたの次の一本のドアタマが、下読みの手を止めますように。

もっと深く学びたい方へ

今回紹介した「掴みの型10分類」で、映画・ドラマ・アニメ・漫画・小説の名作691作品の冒頭だけを分析した辞典『名作オープニング大全』を作りました。
ジョーズやブレイキング・バッドと同じ形式の分析が691本、型から逆引きできます。ドアタマに本気で命をかけたい方はぜひ。


それでは、また次のイロハで。

だんごぶっく

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