不正・不祥事が起こりやすい組織から考える(2)
前回は、月刊誌「致知」8月号の対談記事「企業の盛衰はリーダーにあり」(100年プランニング代表 田村 潤氏と商工組合中央金庫社長 関根 正裕氏による対談)をテーマにしました。
1.衆知を集め、現場が考える組織にする、2.多様性を活かして、同質性と情報の閉鎖性を乗り越える、について考えました。
3.結果目標ではなく成果目標に焦点を当てる
今回の記事で繰り返し登場する言葉のひとつが、「お客さまのお役に立つ」です。
田村氏は、高知支店で「売上を上げる」「シェアを上げる」という数字そのものではなく、「高知の人を幸せにする」ということに仕事の拠りどころを変えたことが伺えます。関根氏も商工中金でノルマを廃止し、「どうすればお客様のお役に立てるのか」を各営業店が考える形へと変えていきました。
ここで考えたいのが、「結果目標」と「成果目標」の違いです。
売上、利益、件数、シェアなどは重要な経営指標です。経営としても個人としても重く見る必要があります。そのうえで、これらは組織活動の「結果」です。
一方で、お客さまが求めていること、社員が追求していくべきことの本質は、「お客さまの不便を減らす」「お客さまの事業を成長させる」「地域をよりよくする」といった、社会や顧客に対して生み出す付加価値です。そして、付加価値づくりが実現した、あるいは実現につながる具体的な取り組みが進んだ場合は、それらを「成果」と認識できます。
結果目標だけを強く追わせると、社員の視線はお客さまから社内へ向きはじめます。「お客さまにとって何がよいか」より、「自分の数字をどう達成するか」「上司からどう評価されるか」が優先されていくわけです。これが過度になれば、無理な販売や数字合わせ、場合によっては不正につながります。関根氏が挙げる「不正・不祥事が起こりやすい4つのうちの4つ目、業績至上主義」の怖さです。
もちろん、数値目標が不要なわけではありません。数字は経営に欠かせません。しかし、大切なのは、物事が起こっていく順番であり、何に焦点を当てるかです。
「何件いくらで売るか」の前に、「誰にどのような価値を届けるのか」があります。その成果を積み重ねれば、結果として売上や利益が生まれるはずです。
数字を目的にするのではなく、目的を実現できているかを確かめるために数字を使う。この違いは大きいと、同対談からは改めて感じます。
4.社員個人の職業生活の目的と企業の目的をつなぐ
商工中金がノルマを廃止した際、「ノルマをなくしてどうやって業績を上げるのか」「ノルマがあるほうがやる気が出る」という声があがったとあります。このことは、多くの組織で出てくる疑問でしょう。「人は目標数字がなければ働かない。管理しなければ動かない。だからノルマが必要だ」と、私たちは一般的に考えます。
同記事をテーマにした読書会でも、「ノルマと目標はどう違うのか」という点が話題になりました。両者の違いについて、決まったひとつの定義や答えはないのかもしれませんが、読書会では次のような意見があがりました。
・ノルマは与えられたもの。命令。目標は自分で作ったもの。命令なき管理
・ノルマ:上から与えらえる+未達の場合に上から罰が下る
・目標:主体性+責任。責任を持つから権限を与えられる。上司と部下のやり取りの中で、どこまでぎりぎり責任と主体性を持てるかが大切。それを壊すとノルマとなる
・良い目標とは、ギリギリ背伸びしたら届く目標。うちの会社では、背伸びからジャンプしたら届くものと言っている。上司は、そういう目標を本人が立てようと思える環境づくりが大切。部下に勝手に任せていればできるというものでもない
どれも本質的な見解だと感じます。そして、通底していると思うのは、経営学者ドラッカー氏が提唱していたMBO (Management By Objectives and Self-Control)の「and Self-Control」の大切さです。MBOが日本では「目標管理」と訳されましたが、実際には「目標による管理と自己統制」と直訳できます。
そこにあるのは、個々の社員が自分で能動的に目標を設定し、その進捗や実行管理を各人が自主的に行うという考え方です。本人の自主性を基軸にし、それが発揮されて成果につながるという人間観が見てとれます。このことは、組織や上司による「ノルマ管理」とは正反対の考え方だと感じられます。
読書会では、どうやったら田村氏や関根氏のような勇気が持てるのだろうかという点も話題になりました。このことも、決まった正解というのはないと思われる問いですが、ひとつの手がかり要素として「マイパーパスあるいはマイミッション(個人の目的)」が挙げられるのではないかと考えます。
同記事でも、「マイパーパス」による取り組みが紹介されています。(以下、同記事から一部抜粋)
関根 商工中金の存在意義を示すパーパス「企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。」をつくりました。
ただ、それだけだと自分事として捉えにくいという声もあり、もう一度皆で議論し、「自分はどうやってお客様、地域に貢献するのか」という観点で、それぞれが自身の価値観に基づく「マイパーパス」をつくっていきました。
私も議論の中で、社員を育てたい、社会に貢献したいといった思いを話していたところ、ある社員に「お父さんみたいですね」と言われまして(笑)、「全ての社員の良き父となる」というマイパーパスをつくりました。マイパーパスは見直す社員もいますが、私はずっと同じパーパスを掲げています。
個人のパーパスの先に会社のパーパスがある。個人と会社の価値観を繋げることができたのはすごくよかったと感じています。
こうした様々な改革を続けていく中で、社員の意識や組織風土が変わっていきましたし、コロナ禍の危機対応融資もしっかりやり遂げることができました。また、お客様に新たな価値を提供するビジネスモデルにも挑戦していきました。その結果、第三者委員会からも評価していただき、冒頭に申し上げた民営化の流れに繋がっていったのだと思います。
田村 高知支店や関根社長の改革が証明しているように、経営理念、お客様のためにという道徳と会社の業績、利益は両立するんですよ。人は自分のため、数字のためではなく、誰かのためにという思い、使命を自覚した時、無限大の力を発揮するんです。
ですから、組織を発展させていくリーダーに最も必要なのは、周りの意見に右往左往せず、経営理念・お客様の幸せの実現という使命、本質に向かって〝一歩踏み出す勇気〟なんですね。
「個人のパーパスの先に会社のパーパスがある」という言葉が印象的です。
会社には会社の存在目的があります。一方、働く一人ひとりにも本来、「何のために働くのか」「仕事を通してどのような人間になりたいのか」「誰にどんな価値を提供したいのか」といった職業生活上の目的があるはずです。
この2つがつながった時に、仕事は「会社からやらされるもの」から「自分が意味を感じて取り組むもの」に変わるものと考えます。この状態になれば、ノルマがなくても人は動けるはずです。逆に、数字だけで人を動かそうとすると、数字がなくなった瞬間に動けなくなります。
「やらなければ怒られるから働く」のか、「この仕事を通して誰かの役に立ちたいから働く」のか。長期的に強い組織をつくるのは、後者の力のはずです。
田村氏は、「人は自分のため、数字のためではなく、誰かのためにという思い、使命を自覚した時、無限大の力を発揮する」と語っています。
リーダーの仕事とは、人を数字で追い立てることではない。衆知を集め、多様な意見を生かし、お客さまへの価値提供という目的を共有し、さらにその目的と一人ひとりの働く意味をつないでいく。そして、自分自身もその理念を信じて、一歩踏み出す。同記事はそのように示唆しています。
5.二項対立を超えて最適解を見出していく
加えて、前回の投稿から引き続き今回をまとめながら感じたのは、何事も二項対立で思考停止せず、両者の落としどころを見出していくことの意義、大切さです。
「上意下達(トップダウン)かボトムアップか」「同質性か多様性か」「数値目標ありかなしか」のどちらだけに答えがあるというわけではないと思います。
全社方針を力強く推進するにはトップダウンは必要ですし、「自社の理念に強く共感する」という点の同質さは必要です。数値目標は結果のチェック、すなわち組織と個人が目指す成果がお客さまに対して出せているのかという確認のためには必要です。逆にボトムアップ、多様性などが必要なのも、これまで見て来た通りです。白か黒かではっきりさせようとするのはわかりやすいですが、白か黒のみで片づけられるほど、何事も単純なわけではありません。これらの落としどころを見出していくのが、リーダーの役割のひとつだろうと思います。
「企業の盛衰はリーダーにあり」というタイトルの同記事は、制度や戦略以前に、リーダーが人間をどう捉え、何に向かって組織を動かすのか。そのあり方が、組織の盛衰を大きく左右するのだと感じさせてくれる対談でした。
<まとめ>
個人の目的と会社の目的を合わせる
