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熱中症対策提言シリーズ第2回 「トイレを整備しよう」

はじめに

少し季節外れに感じるかもしれませんが、来年の夏を少しでも安全に迎えるために、今年度のうちからぜひ検討していただきたいことを「熱中症対策提言シリーズ」として取り上げていきます。暑くなってからすぐに始められるものもあれば、設備やルール、作業方法など、時間をかけて見直す必要があるものもありますしね。

この記事を読んでほしい人

職場の熱中症対策に関わる方、安全衛生・総務・人事・現場管理の担当者、産業医・保健師などの産業保健職、職場のトイレや休憩設備などの環境整備に関わる方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

この記事を簡単に要約すると

熱中症対策として水分摂取を促すなら、安心して使えるトイレ環境もセットで考える必要があります。トイレが遠い、少ない、暑い、汚いといった環境は、水分摂取を控えることにつながりかねません。トイレは、水分補給を支える重要なインフラです。増設や改修には時間や予算も必要だからこそ、来年の夏に向けて今から見直してみましょう。という内容です。

第2回のテーマは、「トイレを整備しよう」です。

(第一回のテーマは「長袖・長ズボンは安全か」)


熱中症対策でトイレ?と思う方もいるかもしれませんが、トイレは「水分摂取を促す」という熱中症対策の基本を成り立たせるための超重要インフラでもあります。

水分摂取とトイレはセット

熱中症対策では、「こまめに水分をとりましょう」と繰り返し呼びかけられます。水分摂取は熱中症対策の基本です。そして、水分をしっかりとれば、当然ながらトイレに行く回数も増えます。

そこで、少し考えてみてください。

トイレまで歩いて10分かかる。トイレの数が少なく、いつも混雑している。仮設トイレが汚く、できれば使いたくない。作業を途中で抜けにくい。女性が安心して使えるトイレがない。

そんな環境で、「水分をたくさんとってください」と言われたらどうでしょうか。「トイレに行きたくなるから、あまり飲まないでおこう」と考える人がいても不思議ではありません。

実際、職場でトイレへのアクセスが制限されている労働者が、排尿を遅らせるために水分摂取を制限していることは海外の研究でも報告されています。

身近なところでは、ライブやスポーツ観戦、推し活を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。「途中でトイレに行きたくないから、開演前はあまり水を飲まないでおこう」「トイレのために場所取り・行列を離れたくない」と考えた経験がある人もいるのではないでしょうか。

熱中症の危険性を知らないから飲まないのではありません。トイレに行くことの不利益(面倒さ、時間がかかることなど)を考えた結果、水分を意識的にも無意識的にも控えるわけです。

職場でも同じことが起こり得ます。

トイレは「ある」だけでは足りない

労働安全衛生規則には、事業者が労働者のために便所を設けることなどが定められています。しかし、熱中症対策という観点から考えるなら、「法律上、トイレが設置されているか」だけでは十分ではありません。

トイレを整備するといっても、単に数を増やせばよいわけではありません。では、どんなトイレなら使いやすいのでしょうか。参考になるのが、国土交通省が建設現場への導入を進めている「快適トイレ」です。

快適トイレには、次の17項目が示されています。

〈快適トイレに求める機能〉
1. 洋式便器
2. 水洗・簡易水洗機能
3. 臭いの逆流防止
4. 容易に開かない施錠機能
5. 照明設備
6. 衣類を掛けるフックや荷物を置ける棚
〈備える付属品〉
7. 男女別の明確な表示
8. 入口が周囲から直接見えない工夫
9. サニタリーボックス
10. 鏡と手洗器
11. 便座除菌クリーナーなどの衛生用品
〈さらに推奨されるもの〉
12. 十分な便房内の広さ
13. 擬音装置
14. 着替え台
15. 臭気対策の充実
16. 室内温度を調整できる設備
17. 小物置き場

こうして並べてみると、「トイレがある」ことと「快適に安心して使えるトイレがある」ことは、かなり違うことが分かります。

特に夏場の職場という観点では、臭気対策や室内温度を調整できる設備にも注目したいところです。仮設トイレの中が猛烈に暑かったり、臭いが強かったりすれば、「できるだけトイレに行きたくない」という気持ちにつながります。

熱中症対策として考えるなら、「トイレのあるなし」だけではなく、「水分をしっかりとっても、快適に安心してトイレに行けるか」という視点で職場のトイレ環境を点検してみることが大切です。

コラム|尿の色で脱水状態をチェック
トイレは、水分を排泄するためだけの場所ではありません。尿の色は、自分の水分状態を知るための簡単な目安にもなります。水分が十分にとれていると、一般的に尿は薄い黄色になります。一方、汗をたくさんかいて体内の水分が不足すると、尿が濃縮されて色が濃くなり、尿の回数や量も減ってきます。

厚生労働省の職場における熱中症予防情報でも、「尿の回数が少ない、または尿の色が普段より濃い状態」は、体内の水分が不足している可能性があるとされています。

暑い環境で働くときには、トイレに行った際に「今日はいつもより尿が濃くないか」「回数が減っていないか」を確認してみるのもよいでしょう。

ただし、尿の色は食事やビタミン剤、薬などによっても変化します。尿の色だけで脱水の有無を判断するのではなく、水分補給を見直すための一つのサインとして活用してください。

実際に「トイレが嫌だから水分を控えていた」農園も

これは机上の話ではありません。農林水産省の「農業女子プロジェクト」では、三重県名張市の農園におけるトイレ整備の事例が紹介されています。

その農園で使われていたのは、狭く、臭いも気になる仮設トイレでした。そして、スタッフの中には、水分を控えてトイレに行かないようにしている人もいたといいます。そこで、「農園に、トイレを」を掲げてクラウドファンディングを行い、車いすでも入れる広く快適なトイレを整備しました。

農業は、夏の暑い時期にも屋外での作業が必要になる仕事です。そのような環境で、「熱中症にならないように水分をとってください」と言いながら、使いたいと思えるトイレがなければ、水分摂取を促す対策そのものが機能しなくなってしまいます。

建設現場でも「快適トイレ」の整備が進んでいる

同じような動きは建設業にもあります。国土交通省では、建設現場の環境改善の一環として「快適トイレ」の導入を進めています。

洋式便座、水洗機能、臭いを抑える機能、施錠、照明などを備えたトイレで、実際の建設現場への導入事例も多数紹介されています。

こうした取り組みは、熱中症対策だけを目的として始まったものではありません。特に大きな背景にあるのが、女性も働きやすい建設現場をつくることや、建設業の担い手を確保することです。

しかし、熱中症対策という視点から見ても重要な取り組みだと思います。

熱中症対策のためのトイレ設置事例

千葉ロッテマリーンズ

マリーンズとのコラボデザインで装飾を施したトイレや花をモチーフにした可愛らしい色使いのトイレ、小さなお子さま連れのお客さまも利用しやすい多目的トイレなど、最新鋭の仮設トイレが勢ぞろいしました。夏場に長時間お手洗いに並ばずに済む熱中症対策と、スタジアム周辺で快適に過ごせる環境整備についての取組みの一環です。ぜひ、最新の仮設トイレをご利用いただき、快適な時間をお過ごしください。

大東建託

強制換気機能とミストファンが付いたトイレを東京都内2カ所の現場に試行導入し、熱や臭いがこもるのを防ぐ効果を検証する。実際に現場で働く女性作業員は「トイレ環境が改善されて嬉しい。ここ数年で作業員の熱中症への意識は高まり、各自で休憩を呼びかけている」と明かす。

東京電力

2024年の熱中症予防対策
2023年までの予防対策に加え、体調の異変を感じたらすぐに言い出して「重症化を防ぐ」環境づくりに、作業に携わる全員で取り組みます。
また福島第一原子力発電所では、協力企業からの意見を反映した環境整備もあわせて実施していきます。
・給水車とトイレの臨時配備を1か所から3か所に増やします。
・休憩所に給水設備(水やスポーツドリンク)の設置を継続します。
・エアコン故障時に早期修理対応ができるよう、予備品や修理業者の確保等の対策を行います。

https://1f-all.jp/information/general/20240718_01/

女性の視点で、もう一度トイレを見てみる

これまで男性の多かった職場では注意が必要です。「トイレはあるから問題ない」と思っていても、女性から見ると使いにくい環境になっていることがあります。男女別になっているか。外から見えにくい場所にあるか。施錠できるか。照明はあるか。清潔に保たれているか。生理用品を処分できるかといった点です。

こうした条件によって、トイレの使いやすさは大きく変わります。農業や建設業でトイレ環境の改善が進められてきた背景にも、女性が働きやすい職場づくりがあります。

これは、女性だけの問題でもありません。高齢者、持病のある人、トイレが近い人など、働く人の身体的な条件はさまざまです。誰でも必要なときに安心してトイレに行ける環境を整えることは、結果として多くの人が働きやすい職場につながります。

そこで働く人みんなが使えるように

もう一つ確認しておきたいのが、「誰がそのトイレを使えるのか」です。

同じ敷地や現場で働いていても、子会社や協力会社、請負事業者などの従業員は、自社のトイレを使えない、女性(男性)トイレがなくて使えない、あるいは使ってよいのか分からないことがあります。その結果、遠くにある別のトイレまで移動したり、休憩時間まで我慢したりすることになれば、水分摂取を控えることにもつながりかねません。

熱中症対策は、会社の所属によって区切れるものではありません。同じ暑熱環境で働く人には、同じように水分補給と排泄の機会が必要です。

敷地内や現場にトイレが十分にあるのであれば、子会社や協力会社など、そこで働く人が必要なときに利用できるようにすることも検討してみてください。

新しくトイレを設置するだけでなく、既存のトイレについて「誰が使えるのか」を見直すことも、すぐに始められる熱中症対策の一つです。

トイレの整備は、今から考えよう

今回、あえて暑さが落ち着いた時期にトイレの話をしているのには理由があります。「水分をとりましょう」という声かけなら、明日からでもできます。

しかし、トイレの整備はそうはいきません。

どこに設置するのか。何基必要なのか。給排水をどうするのか。仮設にするのか常設にするのか。清掃をどうするのか。男女別をどう確保するのか。費用をどうするのか。場合によっては、工事や予算の確保も必要になります。

来年の夏になってから「トイレを増やそう」と思っても、すぐにはできないかもしれません。だからこそ、涼しくなった今の時期に、来年の夏を想像して職場を歩いてみてください。

熱中症対策というと、冷房、スポットクーラー、ファン付き作業服、休憩所、飲料水など、「身体を冷やす」「水分を補給する」設備に目が向きます。

そこにもう一つ、「トイレ」をぜひ加えてみてください。

コラム|災害時のためにも「トイレ」を備蓄しよう
トイレと水分摂取の関係は、災害時にも問題になります。大規模な地震などが発生すると、断水や下水道の損傷によって、建物自体は使用できてもトイレが使えなくなることがあります。すると、「トイレに行きたくないから、水を飲むのを控えよう」と考える人が出てきます。

しかし、水分摂取を控えれば脱水につながります。暑い時期であれば熱中症の危険性も高まります。また、避難生活では長時間同じ姿勢で過ごすことなどに加え、水分摂取を控えることが静脈血栓塞栓症、いわゆる「エコノミークラス症候群」のリスクを高めることも問題になります。

防災備蓄というと、飲料水や食料を思い浮かべがちです。しかし、水を備蓄するなら、その水を安心して飲めるようにトイレも備蓄する。携帯トイレや簡易トイレを十分な数確保しているか。使用後の便袋をどう保管するか。従業員が使い方を知っているか。

職場の防災対策として、一度確認してみてはいかがでしょうか。
参考:被災地における快適トイレの活用事例(参考資料)

おわりに

熱中症対策として水分摂取を促すのであれば、その水分を安心して排泄できる環境まで考える必要があります。

トイレの数は足りているか。作業場所から遠すぎないか。暑かったり汚かったりして使うのをためらう環境になっていないか。女性や協力会社の従業員も安心して使えるか。まずは、実際に働く人の立場から職場のトイレを見直してみてください。

そして、トイレの増設や改修には、設置場所の検討や予算の確保、工事などに時間がかかります。暑くなってからでは間に合わない対策だからこそ、来年の夏に向けて、今から準備を始めておきたいところです。

水分補給とトイレはセットです。今年の熱中症対策を振り返る際や、来年の熱中症対策を考える際には、「トイレ」も対策リストにぜひ加えてみてください。



熱中症対策提言シリーズ


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