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人魚の涙 -3つのお題 |短編小説



はじめに…

このお話は、こちら物語の続編になります。未読の方は、是非、こちらからお読みいただけたらと思います。





「百年に一度咲く曼殊沙華ひがんばなが、浜に続く路傍ろぼうを紅く染めたなら 其方そなたの母もひとやから解かれようぞ」


そう、ばばが言うのを何度聞いたことだろうか。




人魚ははは、人を喰ろうて、獄に繋がれた。

それも、もうずいぶん昔のこと。



母が繋がれて間もなく、ここけがれ、すさみ、濁り惑い、とうとう人魚たちの逆鱗に触れた。



銀のおさが、ふつくみて人間あれらに災いを呼び、瞬く間に人間らの都を消し去ってしまった。



ほんの一時ひとときの事だった。



「____お前の母は、何もたがうてはおらなかった。」
と、婆が静かにそう言うと、娘は


「だが、皆が私を罪人の子と言うぞ」
と、応えた。



「それは、心なきものの言うことよ、
かまわぬで良い」

「そうか?」

「そうとも、かまうな」



娘は、人魚ははが残した夜光貝の貝殻でできた蒼く光る飾り櫛にそっと触れて、目を閉じた。



***



浜に満月の光が落ちはじめ、みちの脇の地面より幾本もの花茎が天をめざし背を伸ばした。


そして、放射状に蕾を広げては、花弁を風に揺らしながら一斉に花をほころばせ、一面を紅く燃え盛る炎の海のように変えた。



「婆、これが百年に一度咲く曼殊沙華ひがんばななのか?」
と、娘が問うと、婆は


「そうじゃな、月が満ちたな」
と、静かに応えた。



娘の紅い髪の夜光貝の櫛が月の光に蒼白く光を放つ。


奥の海食洞かいしょくどうから、小さな影が現れた。
その影は、櫛の光に導かれるようにこちらに向かって進んでくる。



「おお、出よったか」
と、婆が言い、目を細め潤ませる。



娘は、じっと水面みずもをとらえ、紅い尾を揺らす。
影の輪郭を光がとらえ、水の揺らぎと共にしずかに形を成してゆく。



「母様」
娘が、そう呼ぶと


「待たせたね」
と、紅く燃えるような曼殊沙華ひがんばなを背に、母が応えた。


そこには、かつての母はおらず、 曼殊沙華ひがんばなと同じ色だった母の豊かな髪は銀白髪となり、美しかった白妙の肌も衰え、髪と同じ色だった瞳も蘇芳すおう色にくすみ、光を失っていた。



「最近は、よく眼も利かぬ。
悲しいことにお前の顔がよく見えぬ」
と、母が言うと、



娘は胸が熱くなり、母のもとへ泳ぎ寄り母の胸に掻い付いた。



娘の髪を撫でる母の手は、深き皴を刻み痩せて固かった。



「元気にしておったか? 不自由はなかったか?」
と、こえを落とす。


娘は、ただただ頷き、母に取り縋る。


「そうか、そうか」
と、応えながら、婆を見る。


ここも穢れが消えて、ようなった」




婆は、静かにうなずき涙を零す。



「どうやら、時が来たようだ」
と、母が静かに言うと、娘を固くいだ




「お前のことをいつまでも愛してやまぬぞ」
と、涙を落とし





月の光を映した波に泡と消えた。






浜では、紅い曼殊沙華ひがんばなが風に揺れていた。











この作品は、短編小説で、片桐みかんさんの・【第65回】3つのお題に空想のひらめきを(お題:”3つのお題(日本むかし話)「人魚が残した貝殻」「百年に一度咲く彼岸花」「月夜に光る櫛」” )という企画に お邪魔させていただきました。


前作の「紅き人魚」は、田原にか さんの企画で書かせていただいたのですが、企画を跨いで続編を書いてしまいました。これは許されることなのかどうかは、ちょっとわかりませんが、ご感想など頂けたら、喜びます。


最後まで、おつき合いいただきありがとうございました。
皆様、良い夜を。





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