真希の青い秋 :第3章
第3章 祭りのあとの祭り
2年C組の教室では、文化祭の後片付けを終えたクラスメイト達が、スマホをかざしながら西門真希を取り囲んでいた。
騒いでいるのは主に女子たちだ。
彼女たちは真希と並んで写真を撮りたがり、真希は少し当惑したような表情で、ブルーの視線を彼女たちに静かに注いでいた。
「西門。お前、可愛いツラをパンクの眼帯で隠していやがったか。俺、思わずキュンとしたぜ」
男子生徒にからかわれた真希は、苦笑いしながら小さく肩を竦め、大股で黒板に向かうと、チョークでサラサラと文字を書き始めた。
全員の目が黒板に向く。
https://youtube.com/channel/〇〇〇……

真希は書き終わると振り向いて言った。
「写真はチャンネル登録してくれた人から順番に撮ろう。拡散してくれたら肩を抱くポーズもOKだ」
「ちょっと、真希! 調子に乗りすぎ!」
零花は笑ってしまった。
その隣で、早速スマホにアドレスを打ち込んだ女子が「すごっ、登録者数3万超えてる!」と声を上げ、スマホの画面を零花に見せてきた。
「毎週金曜日ライブ配信?! リクエスト募集?! 真希、そんな事やってたの?!」
驚いた零花の大声の向こうで、真希と女子たちのツーショット撮影会が既に始まっていた。
「西門、コレ全部、自作の曲か? 知らない曲ばかりだ」
「ああ。是非、聴きに来てくれ。今日歌った曲もあとでリストに加えとく」
真希が受け答えしている合間にも、女子とのツーショット写真は次々に撮られ、男子も面白がって列に並び始めた。
(何なの……? いつもの真希と違う……)
零花は大きな違和感を感じ、その光景の前に立ち尽くしていた。
樹里が真希に関して「最近、変わった」と言っていたのを、初めて現実として捉えた。
一通り撮影を終えた真希は、ブルーの目で零花をじっと見据えながら近づいて来た。
「……零花は?」
「ん?」
「チャンネル登録してくれた?」
「あ、ごめん、これから……」
零花は慌ててブレザーのポケットの中のスマホを取り出そうとした。
と、そこへ、真希の腕が伸び肩を抱かれて、彼のスマホでパシャリ。
「え?……あっ」

「よし、これでいい」
「え……何よ、急に」

「あれ?……零花、照れてる? 肩抱くとかNGだった?」
「べ、別に! 肩ぐらい!
…………でもパパが見たらきっと卒倒する」

「あ、やべ……でも、まあ、いいや。
チャンネル登録と拡散が終わったらこの写真送るから連絡して」
真希はスマホをポケットにしまうと、鞄を掴んで教室から出て行った。
「もうっ!! ちっとも良くない! 何なのよ……」
後を追って教室を出ると、樹里と並んで歩く後ろ姿が見えた。
隣のクラスの樹里は廊下で真希を待っていたのだろう。
そういえば彼女が「文化祭が終わったら、西門くんに告白する」と言っていたことを思い出した。
「零花……箸が止まってるぞ。どうした」
夕飯の席で父の光樹に言われて、零花はふと我に返った。
「え?……あ、ううん。何でもない」
零花は自分でもわけが分からないくらい、気持ちが沈んでいた。
いや、本当は知っている。
樹里と真希のことが気になって頭から離れないのだ。
樹里からはまだ連絡がない。
あれからどうなったのか……。
心のどこかで、樹里の告白が実を結ばなければいいと思う自分が、たまらなく嫌だった。
私は矛盾している。
樹里の片思いを応援して協力していながら、一方で、そんなことを思うなんて──上辺だけの、ただの偽善だ。
「今日はライブで頑張ったから疲れたのよね。
歌も演奏もすごく良かったわ」
母の葵がお茶を淹れながらフォローするように言った。
「ああ、本当に。最高のステージだった。ママは縦ノリしてたよな」
「縦ノリなんて! あなたこそ、拳を突き上げて乗ってたじゃない」
「そうだったか? ……しかし、西門がアメリカに帰国したら寂しくなるな。クラスも軽音部も……」
両親が屋外ライブを見ていた時の様子を、零花はこの時まで知らなかったが、年代の垣根を超えて会場の雰囲気と一体となっていたようだ。
父の最後の言葉に、急に胸が詰まって、涙が滲みそうになった時、テーブルの端に置いていた零花のスマホが震えた。
「噂をすれば……西門からか」
「違う、きっと樹里よ」
急いで手に取って見ると、父の予想通り真希からだった。
『今すぐ会えるか? 公園で待ってる』とメッセージ。
今すぐ……何だろう。
『うん』と返信して立ち上がった。
「急ぎの用事みたい。ちょっと行ってくる」
「またか……あんまり遅くなるなよ」
父の声を背に、家を出て自転車で公園に向かった。
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