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真希の青い秋:第4章


前回は


第4章   BAD KIDS


公園に入って行くと、真希がいつものベンチから軽く手を上げた。


「ごめん、急に呼び出して」



真希は珍しく低姿勢だった。
零花は、彼の口から「ごめん」なんて言葉が出たのは初めての気がした。
自転車から降りて近づいて行き、いつもよりほんの少しだけ距離を空けて、並んで座った。



「ううん。真希の方から急な呼び出しなんて珍しいね。何かあった?」



零花が小首を傾げて言葉を促すと、彼は言いにくそうに口を開いた。

「三浦樹里のこと……彼女からもう聞いてるかも知れないけど」


「うん?  何を?」


「悪いけど、断った」


「えっ……!」


驚いて真希の顔を見ると、彼は真っ直ぐに零花を見つめ返して来た。
眉を少し寄せたその眼差しは、困惑と怒りが混ざっているように見えた。


「零花は、俺と彼女をくっつけようとしているみたいだったから、一応報告しとこうと思って」


「そっか……ごめん!  余計なことして。
樹里が真希のこと気になるって言ってたから、協力してあげようと思ってた」



真希は何も言わなかった。
曖昧に頷いただけだった。

「樹里……泣いた?」


「いや。『今のまま、友達でいよう』って言ったら納得してくれた」


「そっか。
……私、てっきり真希も樹里に気があるんだと思ってた」


「いい人だとは思うけど……恋愛対象として見たことはないな。
それに俺……遠距離恋愛なんてしたくないし」



それからしばらく二人は沈黙した。
秋の虫が静かに鳴いていた。
街灯の下、俯き加減で座っている真希の横顔を見ていると、視線に気づいた彼が零花に顔を向けた。


綺麗な目だと思った。
青い宝石みたいで。


「目が治ってよかったね!」


零花が笑うと、真希も笑い返した。



「うん。零花が呪いを解いてくれたおかげだ」



「え……?」


「あの時……百葉箱の前で零花が泣きそうな顔で祈っていた時……奏介先輩の呪いを解く『ついでに』俺のことも祈ってくれてたろう?」


「え……そうだったかな」


零花はバツが悪そうに笑いながら頬を搔いた。
真希はくすりと笑った。


「それ。零花の癖。あの時もそうやって頬を搔いてた。今日、写真撮った後も」


参考資料「零花の赤い夏:第6章」



「目が治っただけじゃないんだ。削られてた寿命も……戻ったかも知れない」

「そうなの?!」



零花は顔をパッと明るくした。


「朝起きて、鏡を見るたび思うんだ。俺の顔……なんか変わったと思わない?」


「うん、確かに!  真希ってこんなに童顔だったかな、って」


零花はからかい混じりに言ったが、その瞳は涙で潤んでいた。
真希が寿命を削った責任は自分にあると、自責の念を忘れたことはなかったから。
あの日のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。

参考資料「謎の転校生と鏡の中の少女:第13章」



童顔ベビーフェイスか……向こうでもよく言われた。ここ最近は、寿命が縮んで老けていた身体が戻って来てる気がする。俺本来の14歳の身体に」


「何言ってんの、真希!   何で14歳よ?」


大笑いした零花を、真希はキョトンとした顔で見た 。


「え?  いや、俺、14だけど……?」


「嘘だぁ!  14歳だったら中学生じゃん!」



「……先生から聞いてない?  俺、アメリカで飛び級してるんだ。だから14歳でも高2のクラスにいる」

「え……何も聞いてないけど……マジで14歳?  3つも年下のくせに、私のこと『零花』とか『お前』とか呼んでたの?  生意気じゃん!」


「Shit……!
零花……俺の歳を知った途端に子どもだと思って馬鹿にし始めた」



笑い続ける零花に、真希は憤慨した様子だった。「自分は肩抱かれたぐらいで真っ赤になってたくせに……」

プイッと顔を背ける仕草が子どもっぽく見えたが、零花は笑うのをやめた。


「それは!
……でも、そうだね。……認める。
正直……ちょっと心臓が跳ねた」



零花がまた頬を搔きながら苦笑いして言うと、彼は背けていた顔から横目で視線だけを零花に向け、それから気を取り直したように口角を上げた。




「あ……そうだ」


真希が思い出したように言う。


「明日、学校は文化祭のお疲れ休みだけど、零花、部活に出れる?」


「うん。出れるよ」


「『Cobalt Blue』の譜面バンスコが仕上がったんだ。アレンジしたやつ。部長に言ったら、明日、見せろって。それでOKだったら、すぐに練習始めて音合わしせたい」


「うん、そうだね。もう、あんまり……」



時間がない、と言うつもりの喉が不意に詰まって言えなかった。
代わりに零花の目から涙がぽろりと零れた。
『Cobalt Blue』の歌詞の「さよならがまだ言えなくて」のフレーズが今頃になって心を揺さぶった。
真希が部室で練習している時に、何度も聞いていたはずなのに。



慌てて涙を拭っていると、真希が小さく息を吐くのが聞こえた。

「俺も日本に残ってみんなと音楽を続けたい。でも……親に話したけど認められなかった。
だから、腹いせに親のアカウントを乗っ取ってやった」


「え……?」


「YouTube。親の、とは言っても、俺の『気』を注いだ音楽を配信してた。スピリチュアル音源として」


「そうだったの!?   じゃあ登録者数3万っていうのは」

「うん。『旧アカウント』が集めた数字」


真希は白い歯を見せてニヤッと笑った。


「叱られなかった?」


「元に戻せって言われたけど、上げてあった音源、全部削除した後だったから諦めたみたいだ。俺はもう、能力は無くなった、ってことにしてあるし」


「本当は……まだ、ある……?」


「うん。ビンビンにMAX状態。呪いが解けたら、それも戻った。でも、もう、親の金儲けのためには使わせない。だから零花と俺だけの秘密な」

「わかった。誰にも言わない」



零花は笑いながら頷いた。



𝙉𝙚𝙭𝙩

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