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【地方創生 第12弾・呉越同舟】「ちいき叶い塾」凌ぎを削る競合5社の協同人材育成の物語

◆ かりゆし塾とは、別の物語

第37期かりゆし塾が始まって、約3ヶ月。

実は私はこの塾とは別に、もう一つの地域課題解決型研修に携わってきました。

2023年から2025年の3年間、本土資本の県内大手小売業が主催し、私が勤務する日経教育グループの研修会社「HRD labo OKINAWA」が受託運営した、「ちいき叶い塾」(※)です。

※ちいき叶い塾は、主催企業の40代半ばの常務さんの発案で、当時の会長さんの後押しで実現した事業でした。前例のない取り組みで、競合企業への営業はこの常務の方が行いました。彼の心意気と熱意に感心し協力させて頂きました。一期生(2023年)は6社18名のスタートでした。日頃しのぎを削り合う県内大手小売が、人材育成という一点で手を組む、県内でも初めての試みでした。


◆ なぜ、今このタイミングでお伝えするのか

8月12日、かりゆし塾の7つの班が、それぞれの地域と地域資源を決定しました。

塾生たちはこれから、10月のレポート前半部分の合格に向けて、地域住民や事業者との地味で骨のおれる「仕込み」のフェーズへと突入していきます。

「美しいプランを作っても、現場の信頼関係がなければ、地域は1ミリも動かない」

私が繰り返し伝えてきた、この答えのない問い。今、その渦中でもがく塾生たち、そして貴重なお時間を使い、私のマガジン「地域を創る:ゼロイチの戦士たちに贈る180日の記録!」を読んで頂いている皆様に、一つの「鮮烈なゴールイメージ」(私がめざすところ)を共有して頂きたいと思ったからです。

今回は、かいほう総研様から特別な許可をいただき、同社の経済情報誌『かいぎんエコマガ』2026年8月号(P12-13・「津口」コンサルスペース)に私が執筆した、「ちいき叶い塾」に関する掲載記事をベースに、大人が本気で化ける瞬間のドキュメンタリーを、1話完結でお届けします。

◆ 完璧なロジックを、生身の現実が拒絶した日

「正直、はじめは『この人とは無理だ。我々のような小売業を信用していない』という印象の出会いでした」

これは、昨年の研修現場から届いた、生々しくも苦い述懐です。

舞台は、本土資本の県内小売大手企業が主催する地域課題解決型人材育成研修「ちいき叶い塾」。

「OJTだけでは視野が広がらない」

「座学研修は業務に戻ると忘れられる」

企業が人材育成に抱える悩みの根本には、「研修では答えが準備された問いを解かせている」という根本構造があります。

その死角を打ち破るべく立ち上がったのが、県内小売業5社(2025年度)から選抜された12名の精鋭たちでした。彼らは2チームに分かれ、フィールドワークを通じて地域の課題解決プランを策定し、12月の成果発表会で審査を受けることになります。

この研修の何が凄まじいか。それは、普段は激しくシェアを競い合う同業他社の社員が、同じチームで動くという仕掛けにあります。

「地域活性化に関する知識・経験がまったくない中、今までにない発想が必要で、まだまだ頭が『?』だらけです」

開講初日のアンケートに並んだ、不安と期待の入り混じる言葉。しかし、そんな大人たちの「仕事の経験という鎧」は、現場の土の上に立った瞬間、あっけなく剥ぎ取られることになります。


◆ 農家との初対面。言葉の端々に滲む「拒絶の空気」

2チームのうち、B班が地域資源に選んだのは、南風原(はえばる)町の「ヘチマ」でした。農家の高齢化や若年層の認知不足といった課題を抱えつつも、琉球王国時代から沖縄の食文化に根ざすその可能性に目をつけたのです。

2025年6月、彼らは意気揚々とヘチマ農家を初めて訪問しました。しかし、そこで待っていたのは、温かい歓迎ではありませんでした。

「なぜヘチマなのか」

「県からの依頼か」

「以前にも似た話があったが、途中で来なくなった」

冷ややかな視線と、言葉の端々に滲む、過去に期待を裏切られた経験の数々。

「我々のようなよそ者を、相手は全く信用していない」。優秀なビジネスパーソンとして社内で活躍してきた彼らにとって、それは理不尽とも言える現実の洗礼でした。

AIが3秒で弾き出す表面的な回答や、快適な会議室で描いた美しい企画書など、現場の厳しい目の前では一切通用しないのです。


◆ 言葉の対話から「現場を共に歩む関係」への転換

しかし、彼らは諦めませんでした。

自分たちが調べてきた内容、活動の目的、そして地域への想いを崩さず、泥臭く対話を重ねていきました。

毎週のように畑へ足を運び、真摯に耳を傾け続ける姿勢に、農家の方々も少しずつ口を開き始めました。台湾まで自費で市場調査に赴いたこと、在来品種を掛け合わせた新品種「美ら(ちゅら)ヘチマ」の開発経緯、そして「色の変わらないヘチマを作りたい」という強い想い。

そこにあったのは、教科書には絶対に載っていない、生産者の誇りと情熱そのものでした。

9月、チームは大きな行動に出ます。JAや町役場の担当者も巻き込み、農家の畑。まさに「土の上」で直接話を聞く場をセッティングしたのです。

それは、単なる言葉のコミュニケーションから、「現場の痛みを共にする関係」へと転換した瞬間でした。

10月には、農家から提供されたヘチマを使った「ヘチマ餃子」の試食会を開催。当時の議事録には、普段のビジネス文書にはない、こんなエモーショナルな一文が刻まれていました。

「今できることを成功させていきましょう(☆。☆)関わった方に餃子を食べてもらいたいです」

理屈の枠を超え、チームの方向性への確信が、青い炎となって燃え上がった瞬間の記録です。

さらに南風原町在住の料理研究家を巻き込んで「若い世代へのアプローチ」という大義を合致させ、地域の子どもたちとの収穫体験・調理実習では、満点近い満足度を叩き出しました。

6月、不信感と拒絶から始まった面会は、11月には農家、JA、食品製造業者、町役場が一堂に会し、「ヘチマの仕入れ価格を正式に合意する場」へと、奇跡的な大変化を遂げていたのです。


◆ 発表の日。そして3月に届いた一本の電話

12月12日、成果発表会。

会場には、各社の役員クラスの審査員や同僚、そして9ヶ月間を共に歩み、泥をかぶってきた農家の方々の姿もありました。

B班は試食を交えた圧巻のプレゼンテーションを行い、高い評価を獲得。翌日の地元紙・経済面には「地域課題 共に解決」の文字が躍りました。

発表後のアンケートに、あの初日に「頭が?だらけ」と書いていたメンバーが、こう残していました。

「活動や対話を重ねていくうちに、地域の人たちに受け入れて頂けるようになりました。お世話になった皆さん方は、今では絶対に裏切りたくない、期待に応えたいと思える存在です」

効率や要領の良さを重視していたビジネスパーソンが、地域の人との出会いによってアンラーニングされ、「この人たちのために」という内発的な動機に突き動かされる人間へと変貌を遂げたのです。

研修が終わり、沖縄にも春が訪れた頃。本研修のゲスト講師の一人から、私のもとに一本の電話が入りました。

「内の会社から派遣したあの塾生、変わったよ。一皮むけた。社内会議での発言も日頃の行動にも変化が起きているよ。私の知っている彼とは別人だ。良い研修をありがとう」


◆ ゼロイチの経験が、人を創る

もう一方のA班も、規格外野菜を使ったレトルトカレーを地域の祭りで2日間400食完売させ、翌年1月からの実店舗販売をこじ開けるという、勝利を積み重ねていました。

成果発表会の満足度は91.7%。しかし、数字以上に価値があるのは、彼らの日常の仕事観そのものが変わったという事実です。

「フラットな組織でも、目標を共有すればそれぞれが動き出すことを実感した」

「人として成長させてもらった」

人材育成の本質は、答えのない問いの中にあると、私は思っています。

拒絶されながらも誠実に対話を続け、試作品の味に手応えを感じ、仲間と目の前の課題を一つひとつ越えていく。その泥臭いゼロイチのプロセスの積み重ねこそが、座学では絶対に育たない、当事者としての覚悟を引き出すのです。


◆ なぜ、この研修は人を「脱皮」させるのか

私はこれまで数多くの研修プログラムに携わってきましたが、この地域課題解決型のアプローチが育てるものは、単なるチームビルディングにとどまりません。
「正解を探す人」から「自分の頭で正解を作る人」への脱皮。
それこそが、この研修が持つ最大の価値だと確信しています。

理由は、シンプルです。

地域の課題解決というリアルな挑戦を通じて、参加者は「解決策を自分たちで創造するプロセス」そのものを、体験として学ぶことになるからです。

答えを教わるのではなく、拒絶され、迷い、対話を重ね、自分たちの足で答えにたどり着く。この過程でしか、自分の頭で正解を作る力は育ちません。

読者の皆様の職場では今、若手や中堅社員に、どのような「ゼロイチ」の経験をさせているでしょうか。

37期かりゆし塾の戦士たちも今、まさにこの答えのない問いの真っ只中にいます。

まだ、7つのチームの誰も、この物語のゴールにはたどり着いていません。

しかし、この「ちいき叶い塾」の9ヶ月が証明しているように、拒絶から始まった関係は、必ずどこかで変わり始めます。

かりゆし塾の彼らにも、いつかこのような瞬間が訪れることを、私も楽しみに見届けたいと思います。

本日もお読みいただきありがとうございます。

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