その「100万円」は誰のお金か | カードローンと行動経済学 Vol.04
その「100万円」は誰のお金か
―メンタル・アカウンティング(心の会計)の罠―
こんにちは、GeNiE株式会社代表の齊藤です。
突然ですが、みなさんのスマホアプリに「利用可能枠:100万円」と表示されていたら、どう感じるでしょうか。
「こんなに使える」「何を買おう」
そう思った瞬間、あなたの脳はある罠にハマっているかもしれません。
前回のVol.03では、キャッシュレス化によって痛みのない支払いが増え、お金を使う実感が薄れているというお話をしました。
今回は、カードローンの利用枠を、なぜか“自分のお金”と錯覚してしまう心理的メカニズムについて掘り下げてみたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
「心の財布」が計算を狂わせる
行動経済学には、“メンタル・アカウンティング(心の会計)”という考え方があります。
給料の1万円、ボーナスの1万円、貯金の1万円、そしてカードローン枠の1万円。
これらはすべて同じ1万円の価値のはずです。
ですが私たちは無意識のうちに、心の中でそれぞれを“別の財布”に分けて管理しているのです。
「利用可能枠」という名の“自分のお金”
心の中の財布が便利な時もあれば、誤解を生んでしまうこともあります。
カードローンアプリの画面に「あなたの枠」として金額が表示されると、脳はそれを「自由に使えるお金」であると誤認してしまいます。
本来、「他人から借りられる上限」であるはずの数字が、心理的に「自分が持っているお金」へとすり替わってしまうのです。

キャッシュレス化が進んだ現代では現金を手にすることが少なくなり、お金のやり取りがデジタル上の数字で完結してしまう。そうなると、自然とこの錯覚がさらに進んでいきます。
残高錯覚が進むと、何が起こるか。答えは明白です。
「つい使いすぎてしまう」。
金融サービスの美しいUIが提供する「使いやすさ」が勝ってしまい、借りている感覚が薄れてしまう。そして、結果として「いつか返せばいい」という楽観的な利用を生んでしまうのです。
「使わせない」のではなく「自覚させる」
では、こうした人間の「思考のクセ」に対して、金融サービスはどう向き合うべきなのでしょうか。
お客さまの「使いやすさ」だけを追求するのではなく、あえてユーザーに立ち止まってもらう「優しさ」をデザインに組み込むべきだと考えています。

たとえば、以下のようなデザインです。
利用可能額の表記を変える
「あなたの枠」といったような誤解を招く表現を避け、「借入可能な残高」と明示する。返済イメージを常に提示する
借入する際に、返済後の総額や返済スケジュールを提示する。
抽象的な数字を「未来の自分の負担」として実感できるように表示する。
これらはすべて、利用を制限するための機能ではなく、利用している自覚を持てるようにするための設計です。
金融UXが目指すべき「寄り添い」の形
カードローンを利用することへの心理的ハードルを下げることは、ビジネスとしては正解かもしれません。しかし、お客さまの人生に寄り添う金融サービスとしては、それだけでは不十分です。
金融の本質は、「貸すこと」ではなく、ユーザーの「お金との付き合い方を支えること」です。そのためには使いやすいだけではなく、使いすぎない設計も備えるべきです。
メンタル・アカウンティングという人間の非合理なクセを理解したうえで、どうサポートするか。
「あなたのお金」と表示するよりも、「あなたの未来に関わるお金」として伝える。そんな小さなデザインの配慮が、お客さまの行動をより健全な方向へと変えるきっかけになるのです。
次回は「ユーザーが”返したくなるデザイン”」についてお話しします。お楽しみに。
つづく
執筆者:齊藤雄一郎 (さいとう ゆういちろう)
2005年、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部に異動。
企画部門を中心に全体戦略の立案およびマーケティング業務に従事。
2016年、イノベーション部門を立ち上げ、デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発に取り組む。
2022年4月 アコム株式会社の社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。
