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お金の使っている感が消えるとき | カードローンと行動経済学 Vol.03

お金の使っている感が消えるとき
― 支払いの痛みとキャッシュレスの罠 ─

こんにちは、GeNiE株式会社代表の齊藤です。

突然ですが、みなさんはコンビニでコーヒーを買うとき、そこに「痛み」を感じていますか?
「大げさだ」と思うかもしれません。

ですが、実は行動経済学の世界では、お金を支払うという行為には文字どおり“痛み”が伴うとされているのです。

前回のVol.02では、人間がいかに「今」を優先し、未来の自分を楽観視してしまうかという「現在バイアス」についてお話ししました。

今回は、キャッシュレス化によって見えにくくなった「支払いの実感」と、それをどうデザインで解決していくかについて掘り下げたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。


なぜ財布から現金が減ると「痛い」のか?

財布から現金の紙幣を取り出し、相手に手渡す。
その瞬間、私たちの脳は「手元にある大切な何かを失った」と認識します。

これを行動経済学では「支払いの痛み(Pain of Paying)」と呼びます。
このとき脳内では、物理的な痛みを感じる時と同じ部位が反応しているという研究結果もあります。

私たちは本能的に、支払いを「痛み」として処理することで、無意識に浪費にブレーキをかけているのです。

ところが、最近の支払い方法はスマホをかざすだけ、ワンタッチで決済完了。 便利さと引き換えに、この「支払いの痛み」は麻痺しています。

キャッシュレスがもたらす「抽象化」の罠

数字だけが画面上で動いているとき、お金はもはや「物質」ではなく「記号」に変わります。
支払いの痛みが薄れると、人はどうなるでしょうか。
答えはシンプルです。つい、使いすぎてしまう。

これは個人の意志が弱くなっているということではなく、脳に備わっていた「浪費を防ぐセンサー」が作動しにくくなっているという、環境の変化によるものなのです。

カードローンにおいても同様です。
実際にお札を手にしているわけではないため、“借りる”という行為が抽象化され、心理的なハードルが大きく下がります。 “返す”という行為もまた、単なる数字の移動に感じられ、その重みが薄れてしまうリスクを孕んでいるのです。

支払いを「達成感」に変えるUXデザイン

ここに、UXデザイナーや金融に携わる者が向き合うべき大きなテーマがあります。 便利さを損なわず、いかにして「お金を使っている実感」を正しく取り戻せるか。

たとえば、以下のようなアプローチが考えられます。

  • 借入や返済のたびに、「現在の残高」や「これまでに返済した総額」を可視化する。

  • グラフやアニメーションを用い、残高が減っていく様子を「完済というゴールへ前進している」感覚として提示する。

  • 返済完了時に「〇回の支払い完了」とフィードバックし、支払いに対して“達成感”を強調する。

こうした仕掛けは、ユーザーを制限するためのものではありません。 
心理的なフィードバックを再設計することで、ユーザーが自分の行動をリアルに実感し、より健全にお金と向き合えるようにするための「伴走」のデザインなのです。

ユーザーに寄り添う、新しい「支払いのカタチ」

行動経済学の観点から見れば、「支払いの痛み」は決して悪ではありません。
なぜなら、それは、私たちが自分を守るために持っている、大切なセンサーだからです。

これからの金融は、そのセンサーを活かしながら、ユーザーが「今、自分は価値あるものにお金を使っている」と感じられる仕掛けを持つべきだと考えています。

「痛みのない支払い」が当たり前になった時代だからこそ、“お金を感じられる設計”が金融の信頼性を左右します
「借りること」「返すこと」「支払うこと」を、「見える」「感じる」「前向きに捉えられる」体験に変えていく。 支払いを「痛み」ではなく「気づき」に変えていく。
その転換点にこそ、行動経済学の知恵があり、それを実装するのが私たちの役割です。

人に寄り添う金融UXは、お金をしっかりと“感じられる”ところから始まると信じています。

次回は「“自分のお金”と錯覚するカードローンの心理」についてお話しします。お楽しみに。


つづく


執筆者:齊藤雄一郎 (さいとう ゆういちろう)
2005年、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部に異動。
企画部門を中心に全体戦略の立案およびマーケティング業務に従事。
2016年、イノベーション部門を立ち上げ、デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発に取り組む。
2022年4月 アコム株式会社の社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。