「銀行口座」より先に「スマホ」を持った人たちの、鮮やかな逆転劇 | 海外事例から読み解く「日本のエンベデッド・ファイナンス」 Vol.2
皆さん、こんにちは。GeNiE代表の齊藤です。
前回の第1回(アメリカ編)では、Apple Cardを例に「金融が体験に溶け込む心地よさ」についてお話ししました。
連載第2回となる今回は、僕がいま最も熱い視線を送っているエリア、「東南アジア」にフォーカスします。
「東南アジアの金融」と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?「日本の方が進んでいるでしょ?」と思う方も多いかもしれません。
でも実は東南アジアは、日本をはるかに飛び越えて「未来」を走っている部分がとても多いのです。
配車アプリが「銀行」を超えた日
東南アジアの街を歩くと、必ず目にするのが「Grab(グラブ)」や「Gojek(ゴジェック)」のロゴです。
もともとはタクシーの配車やフードデリバリーのアプリ。緑色のヘルメットをかぶったライダーたちを街中で見かけたことがある方もいるかもしれません。
でも、彼らの真の姿は、いまや「巨大な金融プラットフォーム」です。
アプリを開けば、移動の支払いはもちろん、公共料金の支払い、友人への送金、さらには少額のローンや保険の加入まで、すべてが数タップで完結します。
日本では「金融提供側がアプリを作る」のが一般的ですよね。 しかし東南アジアでは、「生活に欠かせないアプリが、金融を丸ごと飲み込んだ」のです。これを僕たちの業界では「リープフロッグ(Leapfrog/カエル跳び)」と呼びます。
既存のインフラ(銀行の店舗やATM網など)がない国や地域が、途中の段階をすべてスキップして、一気に最先端のテクノロジーに到達してしまう。このダイナミックな逆転劇が、今まさに目の前で起きています。
なぜ東南アジアで爆速で進んだのか?
これには、この地域ならではの切実な背景と、テクノロジーの見事な掛け算がありました。
1. 「銀行に行けない」というリアルな課題
東南アジアには多くの島国があり、近くに銀行の支店がない地域も少なくありません。結果として、成人の半数以上が銀行口座を持っていないという国も珍しくないのです。
一方で、スマホだけは爆発的に普及しました。つまり、「口座はないけど、スマホはある」という状態です。
2. データが「信用」の代わりになった
口座がないということは、当然「通帳の履歴」や「過去のクレジットカードの利用実績」がありません。これでは従来の銀行は融資の審査ができません。
そこで登場したのが代替データ(オルタナティブデータ)です。「どれくらい頻繁に配車アプリを使っているか」「デリバリーで何をいくら買っているか」という日々の行動データが、その人の「信用」の証になり、少額ローンなどが組めるようになりました。
まさに、生活に根ざしたアプリだからこそできた、エンベデッド・ファイナンスの究極の形です。
完成されたインフラという「壁」
一方、僕たちの住む日本はどうでしょうか。
日本は、街を歩けば数歩ごとにコンビニがあり、ATMが稼働し、現金さえあれば何不自由なく暮らせます。これは世界に誇れる素晴らしいインフラです。
しかし、この「完成された便利さ」があるからこそ、新しい金融体験への移行がゆっくりになっているという側面もあります。いわゆる「成功の罠」ですね。
東南アジアの事例が教えてくれるのは、「金融は、困っている人を助けるための手段であるべき」という、極めてシンプルな原点です。
現在の日本でも、地方銀行の再編や、あらゆる業界でのデジタル化(DX)が大きなテーマになっています。
僕たちGeNiEがやりたいのは、単に便利な「技術」を提供することではありません。「今まで金融サービスに手が届きにくかった人や企業」に、スマホ一つで新しい選択肢を届けること。
そんな「日本版リープフロッグ」を支えるインフラになることが、僕たちの強い想いです。
おわりに
「不便」こそが、イノベーションの母。
日本の中にも、まだ光が当たっていない「ちょっとした不便」がたくさんあります。それらをエンベデッド・ファイナンスの力で、明日からの「驚きの体験」に変えていく。これが、僕の使命だと思っています。
次は、またガラリと文化が変わる「中国編」をお届けできればと思います。 どうぞお楽しみに!
執筆者:齊藤雄一郎 (さいとう ゆういちろう)
GeNiE株式会社 代表取締役。
2005年、アコム株式会社に新卒入社。経営企画やマーケティング業務での責任者を経験し、2022年アコム株式会社の社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。 エンベデッド・ファイナンスを通じて、新たな “信用のカタチ”をデザインする「マネーのランプ」を提供中。
