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お金を「借りたい」から「返したい」に変える設計 | カードローンと行動経済学 Vol.05

お金を「借りたい」から「返したい」に変える設計
ーナッジ理論で導く新しい返済UXのカタチー

こんにちは、GeNiE株式会社代表の齊藤です。

前回のVol.04では、「メンタル・アカウンティング(心の会計)」の罠によって、借入枠を自分のお金だと錯覚してしまう心理についてお話ししました。

これまでの金融サービスは、スピード審査、アプリ完結、限度額アップなど……いかに「借りやすいか」という利便性を競ってきました。
しかし、これからの時代に求められるのは、「借りやすさ」ではありません。「返しやすさ」です。
もっと踏み込んで言えば、ユーザーが「返したくなる」設計です。

今回は、行動経済学の「ナッジ理論」を応用した、新しい返済UXの形について考えてみたいと思います。


「押しつけずに、後押しする」ナッジの哲学とは

行動経済学の中核概念のひとつに、「ナッジ理論」があります。
ナッジ理論は人の行動や選択を強制的に変えるのではなく、自由を残したまま、より良い選択へ後押しする仕掛けのことを指します。

カードローンの返済においても、この哲学は非常に有効です。
多くのユーザーが「返したくない」と悪意を持っているわけではありません。
「返済日を忘れてしまう」「手続きが面倒」「返しても達成感を持てない」など。こうした単純で小さな障壁が積み重なり、結果として返済が滞ってしまうのです。

つまり、問題の本質はユーザーの「意思」ではなく、サービス側の「設計」にあるのです。

返済を「ポジティブな体験」に変える3つのデザイン

では、具体的にどのようなナッジが有効なのでしょうか。いくつかの取り組みを例に挙げてみます。

  1. 「義務」を「達成目標」に書き換える
    「返済日は〇月〇日です」という案内だけではなく、「あと2回で完済です」「現在、全体の〇%まで返済が進んでいます」など、ゴールへの進捗を知らせるUXに書き換える。こうすることで、 “返す=義務”から、“返す=目標達成への前進”という前向きなイメージを与えることができます。

  2. 即時フィードバックで「自己効力感」を高める
    返済が完了した瞬間に、「お疲れさまでした。今月も計画どおり進行中です!」といったメッセージを表示する。これにより、受動的な「やらされた返済」が、自己効力感を伴う「自分で達成した行動」へと変わります。

  3. 「デフォルト(初期設定)」の力を活用する
    人は「選択の手間」があると行動を先延ばしにしてしまう傾向があります。そのため、契約時に「自動引き落とし」をデフォルトに設定する。一方で、自分の都合に合わせて返済できるように余白を残すことで、「自分でコントロールしている」という納得感を両立させることができます。

「損失回避」を味方につける

さらに、返済UXには「損失回避」の心理も応用できます。
人は「1万円得する喜び」よりも「1万円損する痛み」に強い印象を抱く性質があります。

ただ「返済が遅れると遅延損害金が発生します」と警告するよりも、「予定どおりに返済を続ければ信用スコアが育つ」「ポイントが還元される」といった形で、本来得られるはずのメリットを逃さないという損失回避の文脈で設計する方が、ユーザーは心地よく行動を選択できるのです。

金融UXの未来 「借りやすさ」の次へ

重要なのは、「返させる仕組み」を構築することではなく、「返すのが心地いいと感じる体験」をつくることです。
UXデザインの力で、返済という行為を「重荷」から「自発的なアクション」へと変えていく。それは、金融機関がユーザーの健全な家計管理を支える「パートナー」になることを意味します。
借りやすさの次に来る時代は、“返したくなる金融”
人はすぐには変わりません。しかし、環境を変えてあげれば、行動は必ず変わることができます。
カードローンの未来は、数字を管理することではなく、人の心に寄り添う設計にあります。

「返さなければ」という義務感ではなく、「返してスッキリしたい」という自発的な喜び。
その小さな心の変化を生み出すデザインこそが、金融サービスが提供できる本当の価値ではないでしょうか。

次回はシリーズ最終回。
「“借りやすさ”の先にある、人が主役の『優しい金融』」についてです。お楽しみに。

つづく


執筆者:齊藤雄一郎 (さいとう ゆういちろう)
2005年、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部に異動。
企画部門を中心に全体戦略の立案およびマーケティング業務に従事。
2016年、イノベーション部門を立ち上げ、デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発に取り組む。
2022年4月 アコム株式会社の社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。