AI導入で失敗しない。AIで1円も作れない会社に欠けている事業開発(0→1)の鉄則『怪獣8号』
【この記事の要約】
・対象: AIツールや市場調査に頼り、新規事業の検証や収益化が進まない担当者・経営層
・課題: AIが作るデータや「正解」に拘り、顧客が抱える本当の課題を掴めていない
・対策: 『怪獣8号』カフカの「現場で培った泥臭い観察眼」をヒントに、仮説を持って社外に飛び出す実践手順
私が支援した、「失敗も成功もしていない案件」の正体
「社内でもっとやることが分かったので、確度が高まってから改めてご相談します」
そう言って私の提案を見送った企業がありました。その後、彼らはAIを使ってアイデアの壁打ちから市場規模やビジネスモデルの評価を行い、売り上げ予測までやり切ったそうです。そして1年後、再び私の元へ届いたメールを見て、私は言葉を失いました。
「色々と検討を重ねてきましたが、事業として立ち上がる絵が見えません。アイデアが悪い気がするので、ワークショップのファシリテーションをお願いできませんか」
1年間AIと向き合い続けてきた彼らが求めてきたのは、地道で泥臭い仮説検証の伴走ではなく、会議室で行う勉強会でした。
一方で、同じ時期に別の企業から受けた相談は、真逆の経過を辿っていました。
「アイデアが柔らかい状態で恐縮ですが、この後の進め方が分からないので、ご支援いただくことは可能ですか」
机上の調査はそこそこに、企画段階から一緒に現場に飛び込み、仮説検証を繰り返した結果、最初のアイデアとは全く異なるビジネスに辿り着き、1年後には売上規模がMRR数百万円のシード事業へと育っていました。
1年で投資したコストを回収し月に数百万円の売り上げを生み出している会社と、数万円のAI利用料を使い1円も作れなかった会社。この残酷な差は、一体どこで生まれたのでしょうか。
資料作成とアライアンス交渉で1年を溶かした私の反省
AIや座学に逃げ続ける担当者の気持ちは痛いほど分かります。私もかつて、新規事業チームで同じ泥沼に嵌っていたからです。
新しく事業を作る意気込みで既存事業チームから異動したものの、毎日やっていたのは市場調査とレポート作成、ピッチ資料や事業計画書の精査だけでした。モックアップすら作らず、事業化の気配は全くありませんでした。
私は市場調査をする中で見つけた他社の取り組みを真似て、パートナープログラムを新設し、パートナーの開拓やアライアンスの協議を何十件も行いました。しかし、どれだけ提携の話を進めても、売上は1円も生まれませんでした。
「自分は何を目的にした部署にいるのだろう」と、強い不安と虚しさに襲われ、転職も考えていたことを覚えています。
転機が訪れたのは、異動から1年後の組織再編でした。企画職が中心だった新規事業チームに元営業や元開発のメンバーがアサインされ、新たな事業で売上を作るというミッションが課されました。新しいメンバーと一緒に現場に直接飛び込んでいく経験をする中で、私は自分の愚かさを突きつけられました。
どれだけ机上調査を重ねて資料を精査しても、売上は絶対に作れません。外に出て人に会い、「そこに本当にお金を払う顧客がいるのか」を確かめない限り、事業の種すら掴めないと痛感しました。
個人的に資料作成のスキルは上がりましたが、社会に対して新たな価値を何も生み出せないまま貴重な1年のキャリアを棒に振ったあの時の不甲斐なさは、今も私の胸に強く焼き付いています。
『怪獣8号』 著者: 松本直也 / 出版社: 集英社 / 発売日: 2020年12月 / カテゴリ: 少年漫画・アクション / 評価スコア: Amazon ★4.7 / 5.0(読者レビュー) / 概要: 怪獣が日常を脅かす日本。防衛隊の夢を諦め解体業者として働く32歳の日比野カフカは、謎の小型怪獣に侵食され「怪獣8号」となる。圧倒的な力を手に入れ、正体を隠して再び防衛隊を目指すが……。
視覚だけに頼る新人と、五感を総動員できる32歳
本書は、綺麗な分析データに逃げて現場を動かせない病理を見事に撃ち抜いています。
カフカが圧倒的な戦果を挙げる理由は、単に怪獣のパワーを得たからではありません。32歳になるまで、怪獣の清掃・解体業者として現場で泥と内臓の匂いにまみれ続けてきた「五感を伴う解像度」を持っているからです。
防衛隊の若手エリートたちが最新スーツのシンクロ率という画面上の数字を競い合う中、カフカは全く別の視点で戦います。
モニターの数値ではなく現場の生の異変を見る
仕様書に書かれたスペックではなく、解体現場で自分の手で触ってきた部位の配置や筋肉の収縮から、怪獣の弱点を一瞬で見抜く。積み上げた現場の違和感に最新機能を掛け合わせる
スーツの出力が低くても、長年現場で被ってきた泥の経験を最新武器に乗せることで、巨大な怪獣の核を粉砕する。
生成AIという最新スーツを新人が使っても、画面が吐き出す「きれいな答え」に踊らされ、顧客のいない空虚な市場に向かって空振りを続けるだけです。泥を啜ってきた玄人がAIを使った時、膨大なデータの中から「現場で感じた違和感」と重なる真の急所を一瞬で見抜き、実務へ落とし込むことができます。
画面の中の正解探しを、今すぐ捨てられるか
とはいえ、社内政治を生き抜くために、完璧な資料という防具を身に纏いたくなるのは当然です。
「社内調整や上層部の承認を得るには、市場規模や競合比較をまとめた綺麗なレポートが必要だ」
「未完成のアイデアを社外に出したら、信用を失ったり盗まれたりするのではないか」
しかし、経営陣を納得させるための調査データは、社内を通すためのポーズにはなっても、「市場に金を払う顧客が存在する」ことの証明には1ミリもなりません。アイデアの完成度に拘って外に出ないのは、プロとしての慎重さではなく、顧客から拒絶されて傷つくのが怖いだけではないでしょうか。
AIと壁打ちしてどれだけ他社事例やアイデアを分析しても、「そこに顧客がいるか」は絶対に分かりません。「確度が高まってから」「予算はあるから利益が出る正解を教えてくれ」と願いながら、お勉強に逃げ込んでいるなら、今すぐそのPCを閉じるべきです。
ここから先は、未完成な仮説を抱えたまま泥の中に飛び込み、自ら全責任を背負う覚悟があるあなただけにお届けします。
「正解」と「責任」を、AIや外部人材に求めていませんか
新規事業の立ち上げにおいて、「この不確実性に突っ込むか」「顧客に拒絶された時に次はどうするか」という判断は、AIにも外部人材にも買い求めることはできません。
外部にお金を払って「確実に利益が出る正解や安全な進め方を教えてもらう」ことは、自分は安全な客席から腕を組んで指示を出す側へ逃げることになります。当事者自身が腹を括り、「自分たちの仮説をブラッシュアップし、一緒に現場へぶつけに行くガイド」として外部を活用しない限り、どんなに優れたAIや著名な起業家を揃えても事業が立ち上がることはありません。
オフィスから外に出るタイミングを知るためのチェックリスト
どれだけ画面と向かい合っても、AIは正解を教えてくれませんし、顧客を連れて来てはくれません。以下のシグナルが1つでも出たら、今すぐPCを閉じて現場へ出てください。
同じ評価や結論を繰り返すようになった
プロンプトを変えてもAIから似たようなリスクが返ってくるのは、過去のデータから得られる考察が打ち止めになった証拠です。競合比較表を見て具体的な顧客の顔が浮かばない
スペック比較に時間をかけても、どこの誰がいつどんな時のためにお金を払うのか見えないなら、その調査はただの暇つぶしです。社内資料の修正に3日以上費やしている
事業の確度を高めているのではなく、外に出て顧客に断られる恐怖から逃げるためにスライドを捏ね回しています。
AIとのチャットを辞めて外に出る時に持って行くもの
最初に顧客の元へ飛び出す際に必要なのは、ピッチ資料でも試作品でもありません。「課題の有無」を確かめる3つの道具だけです。
【最初に持っていくもの(課題特定フェーズ)】
ペラ1の仮説シート(1分で伝わる紙1枚)
AIを使わず、装飾なしのA4用紙1枚に「想定課題」「解決策の簡易イメージ」「想定価格(月額〇万円)」だけを書く。ヒアリングシート(過去の事実確認リスト)
「この機能を欲しいか?」という質問を捨て、「過去1ヶ月でこの問題解決にいくら時間と費用をかけたか」という事実だけを聞く。ボトルネック特定シート(真因の解剖フォーマット)
顧客が「いらない」と答えた際、「現在の業務手順」「かかっているコスト」「代替手段」を深掘りし、「いる」に至らない真因を特定する。
【最初はいらないもの(課題特定後に持ち出すもの)】
プロトタイプ(画面遷移や操作感が分かるもの)
テスト用LP(課題仮説と問い合わせボタンを設置した需要測定サイト)
シャドーイングメモ(実際の現場で行動観察する時のメモ)
「お金を払ってでも解消したい課題」が特定できていない段階でプロトタイプやLPを見せても、顧客は綺麗な画面に流されて本音を話してくれません。これらは課題の熱量が確認できた後、解決策の検証段階で持ち出すべき第2陣の武器です。
それでも不安があるなら、現場の歩き方を知るガイドを頼ればいい
新規事業にアサインされ、経験が浅い中で「間違えたらどうしよう」と足踏みしてしまうのは当然の感情です。仮説を抱えて顧客の元へ飛び出す不安を、1人で抱え込む必要はありません。
外部人材の正しい使い方は、正解を教えてもらう「先生」として雇うことではなく、現場で泥を被った経験のある「ガイド」として横に立ってもらうことです。
ヒアリングの進め方や仮説の作り方に不安があるなら、その道のプロを頼ればいいのです。そして、自分は「顧客の生の反応を一緒に聞きに行く」という決定的な1歩を踏み出し、現場の打席数を増やすことだけに集中すれば、新規事業は着実に前に向かって進み始めます。
もし、この思考の跡があなたの「武器」や「盾」の一助となったなら、「スキ」をいただけると幸いです。
画面の向こうに、同じ景色を見ている誰かがいる。それだけで、明日もまた現場に立てる気がします。
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