新規事業は「勝率」ではなく、「負け額」をコントロールするゲームだ
新規事業が上手い人は、たくさん試す人
新規事業が上手い人は、未来を当てるのが上手い人ではありません。
たくさん試す人です。
もちろん、無闇に数を打てばいい、という話ではありません。
負けたときは小さく、勝ったときは大きい。
そういう勝負を選び続ける。
これが、新規事業を「運任せ」から遠ざける方法なのではないかと思っています。
期待値は、「次に勝てるか」を教えてくれない
期待値という言葉があります。
起こりうる結果に、その結果が起きる確率を掛け、それを全部足したものです。
たとえば、50%の確率で100万円儲かり、50%の確率で100万円失うなら、期待値はゼロです。
一方、50%の確率で500万円儲かり、50%の確率で100万円失うなら、期待値はプラスになります。
ここで重要なのは、期待値は「次の一回」を予言するものではない、ということです。
上記のように期待値がプラスの勝負でも、次の1回は普通に負けたりします。それどころか理不尽にも、9回連続で負けることもあります。
それでも、同じ条件の勝負を何度も続ければ、結果は徐々に期待値へ近づいていく。
期待値とは、そういうものです。
理論上そうなんですが、人間は目の前の勝負に続けて負けると、その理不尽さに耐えられません。
だから本当は、期待値だけを見ても足りません。
もう一つ重要なのは、
その勝負を何回続けられるか。
です。
ギャンブルで本当に強いのは、一回勝つ人ではない
この話は、ギャンブルで考えると分かりやすいです。
カジノは、毎回勝つわけではありません。
客が大勝ちする夜もあります。
それでもカジノが長期では勝つ。
理由は単純で、胴元側に期待値がある状態で、何千回、何万回と勝負を繰り返せるからです。
逆に、プレイヤー側が仮に期待値プラスの勝負を見つけたとしても、全財産を一回に賭ければ話は別です。
一度外せば終わる。
次の勝負ができません。
つまり、期待値がプラスであることと、実際に最後まで勝てることは同じではない。
ここで出てくるのが、分散と破産リスクです。
どれだけ有利な勝負でも、途中で資金が尽きたら終わりです。
だからギャンブルでは、「どこに賭けるか」と同じくらい、「いくら賭けるか」が重要になります。
投資も、結局は全部当てなくていい
この考え方は、そのまま投資にあてはまります。
投資では、どうしても「どの銘柄が上がるか」に目が向きます。
でも、どれだけ調べても外れます。
業績予想が外れる。
新規競合が出てくる。
経営者が変わる。
不祥事が起きる。
景気が変わる。
投資したすべての銘柄が、思った通りにいくことはありません。
だから、期待値がプラスだと思う銘柄を複数持つ。
一部は外れてもいい。
全体で勝てばいい。
分散投資というと、なんとなく「怖いからいろいろ持っておく」という守りの思想に見えます。
でも、本質は少し違います。
期待値がプラスの勝負を、何度も続けられる状態をつくる。
そのための仕組みです。
しかも、投資の場合、50%下落した資産が元に戻るには、100%上昇しなければなりません。
大きな一回の損失は、次の勝負に使える元本まで奪います。
だから、長期投資では「一番儲かる銘柄を当てること」より、「退場しないこと」のほうが重要です。
あえて乱暴に言うならば、良い銘柄に分散投資し、長期間にわたって市場に残り続けていれば、多くの場合、勝っている、のです。
長期と分散が大切なのは、そのためです。
実は、新規事業も同じゲームをしている
では、新規事業はどうでしょうか。
会社ではよく、
「この事業は成功するのか」
と聞かれます。
でも、新規事業なのだから、本当のところは分かりません。
分からないから新規事業です。
そこで、成功確率を上げようとします。
市場調査をする。
企画書を作る。
会議をする。
また修正する。
もちろん必要です。
ただ、それを突き詰めても未来を完全に当てることはできません。
それよりも、別の設計を考えたほうがいい。
それは
外れても退場しないで済む勝負にする、
ということです。
新規事業の本質は、下振れを限定することにある
事業で狙うべきは、
「負けたときは小さく、勝ったときは大きい」勝負
です。
たとえば、失敗しても損失が100万円で済む。
一方、成功すれば500万円、1000万円、その先は継続収益になる。
しかも成功確率がそこまで低くない。
こういう勝負なら、
期待値 = 成功確率 × 上振れ利益 − 失敗確率 × 下振れ損失
がプラスになりやすい。
ここで重要なのは、成功確率だけではありません。
初期投資がいかに抑えられるか、です。
たとえ成功確率が高くても、失敗したら1億円失うなら、簡単には打てません。
逆に、成功確率がそこまで高くなくても、最大損失が100万円で、当たれば1000万円以上の利益につながるなら、勝負としてはかなり魅力的になります。
「初期投資が少ない」だけでは、まだ足りない
そして、もう一つ重要なのが、
いつでも撤退できること
です。
初期投資が100万円でも、一度始めたら毎月100万円を追加投入し続けなければならないなら、実際の下振れは100万円ではありません。
人を大量に採用する。
長期の賃貸借契約を結ぶ。
購入した不動産に毎年高額の固定資産税がかかる。
こういう事業は、失敗が分かったあとも出金が止まりません。
「これは違うな」と気づいてからも、そう簡単には止められない。
逆に、小さく始められて、途中で違うと分かった瞬間に止められる事業は、下振れをかなり限定できます。
だから
「始めるのにいくら必要か」
に加えて、
「間違いだと分かったとき、いくらで止められるか」
が重要なのです。
下振れを小さくすると、数を打てる
そして、ここが面白いところです。
失敗時の下振れ幅が限定されると、
数を打てるようになります。
一回外したら1000万円なくなる勝負なら、同じ会社が10回試すのは難しい。
でも、一回の最大損失が50万円なら、同じ1000万円でも20回の実験ができます。
こうして、
下振れを限定する。
→退場しにくくなる。
→試行回数を増やせる。
→プラスの期待値に近づいていく
こういう構造になります。
だから、「小さく始める」というのは、単なる慎重論ではありません。
攻めるための設計です。
一回の勝負を小さくすることで、勝負の回数を増やしている。
そして、事業は単純なくじ引きではありません。
一度の失敗から顧客理解やノウハウを得られるため、試行を重ねるほど勝ち筋が見えやすくなることも多いです。
だからこそ、失敗を「損失」だけでなく、「次の判断材料を得るための経験値を買った」と認識することが重要です。
小さく負けて大きく勝つ
一方で、下振れだけ小さくても意味がありません。
失敗したら100万円。
成功しても120万円。
それでは、何度やっても大きくは勝てません。
理想は、
負けたときの損失は限定されている。
でも、当たったらそこそこ大きく伸びる。
顧客が増えても追加コストがあまり増えない。
他店舗にも横展開できる。
他地域へ広げられる。
既存顧客へ別商品を売れる。
継続課金になる。
一度作った仕組みが何度も売上を生む。
こういう事業は、上振れ余地があります。
つまり、新規事業で考えるべきなのは、
ダウンサイドは限定的に(初期投資、撤退コスト)。
アップサイドは上振れ幅がある(市場規模、水平展開)。
この非対称性です。
「成功するか?」という問いを、少し変えてみる
ここまで考えると、新規事業を見るときの問いも変わります。
「この事業は成功するか?」
を議論しているのは筋が悪い。
新規事業では、成功確率を上げようとすると、時間と金が消えていきます。重要なのは、完璧な事業計画を作ることよりも、低コストで市場に触れ、撤退条件を守り、手応えがあるものにだけ追加投資することです。
まず、
外したら、いくら失うのか。
外れだと分かったら、すぐ止められるか。
同じ資金で、何回試せるのか。
当たったら、どこまで伸びるのか。
この四つを見る。
成功確率は、そのあと。
なぜなら、成功確率を完全に読むことは難しいけれど、損失額や撤退条件は、ある程度こちらで設計できるからです。
未来はコントロールできません。
でも、負け方はコントロールできます。
新規事業が上手い人は、未来を当てているわけではない
新規事業を連続して成功させている人を見ると、
「あの人は先見性がある」と思います。
もちろん、それもあるでしょう。
でも、それだけではない気がします。
外したときの傷を小さくしている。
早く試している。
ダメならすぐ止めている。
(多くの場合、成功事例よりも多くの失敗事例を経験しています)
当たったものには資金を追加している。
そして、また次を試す。
一つの大当たりを見つけた人ではなく、
大外れで退場しないようにしながら、何度もくじを引ける人。
そう考えたほうが、新規事業の実態に近いのではないでしょうか。
新規事業の本質は、
成功確率100%の案件を探すことではない。
成功確率が10%(はずれ9回、あたり1回)でも、当たればいい。
全部を当てようとしない。
いくつかは外れる。それでもいい。
最後に全体の金額が増えていたら勝ち。
だから、
下振れを限定する。
上振れ幅がそこそこ大きい勝負を選ぶ。
それを何度も試せる状態をつくる。
新規事業が上手いというのは、未来を当てる能力ではなく、
「当たりが出るまで、退場せずに試し続けられる」設計をする力
なのだと思います。
追記:
この設計を邪魔するのは、多くの場合、経営者の見栄なのではないか?と思っています。詳しくは下記の記事に書きました。
