【愛縁奇縁/神代編】第一話:揺蕩う無窮の誓い
儀式が終わると、結界が静かに解けていく。
四人の身に纏っていた婚礼衣装の光は、
役目を果たしたかのように淡く消え。
「さぁ……ついて来て」
黒曜の柔らかな声に導かれ、四人は結界の外へと歩み出る。
そこには、既に屏風と仕切りが並べられ、
男女それぞれで準備が整えられていた。
白銀が男性陣へ、黒曜が女性陣へ新しい装束を手渡す。
***
黑に渡されたのは、黒い忍装束だった。
かつて、名すら与えられずに道具として育てられた孤独な忍は、
多くのモノを失いながらそれでも必死に生きた結果、
今こうしてここに立っている。
しばらく見つめてから、黑はゆっくりと袖を通した。
纏った瞬間に自然と背筋が伸びる気がする。
「……今度は、最後まで逃げん」
そして、曼殊沙華の赤が咲き誇る羽織も身に纏う。
今世で初めて、如月から贈ってくれたものだ。
たとえ新しい装束を与えられようとも、これだけは外せない。
黑にとっては、唯一無二の大切なモノだから。
履物は、黒い天狗下駄だ。持ってみると、どっしり重い。
歩けないほどではないのだが、
これで蹴られたらたまったものではないだろうなと、
想像し黑は思わず苦笑いを浮かべた。
白哉には、侍が着るような袴が渡される。
「……おぉ。なんや、武人みたいやな」
軽口を叩きながらも、鏡の前で自身の姿を一瞥すると小さく息を吐く。
***
一方で如月と志輝には、元々着ていた装束が返される。
「衣装は、そのままだけど、
私と華で加護を付与しておいたよ」
如月は紅白の巫女装束を纏う。
鮮やかな緋袴に、
黑とお揃いの曼殊沙華の刺繡が施された白衣を着れば、
彼女の表情は自然と引き締まり、強い意志を感じさせた。
志輝には、
衣装とは別にまるで天女のような羽衣が渡される。
淡く光を孕む生地は彼女の舞と呼応するようで、
青い鼻緒のぽっくり下駄は鳴らす度に鈴の音が涼やかに響く。
「……鈴まで付いとんのか。ええやん。
それやったら、どこに居《お》っても探し出せそうや」
そんな白哉の言葉に対し、
志輝は照れ隠しのように足元を軽く鳴らしてみせる。
鈴の音が澄み渡り、その場の空気を和ませた。
四人が衣を整えるのを見届け、白銀が頷いた。
「うん。よう似合ってるわ。これでもう、立派な幽世の民や」
黒曜も優しい声音で続ける。
「その装束と履物は、ただの衣ではないわ。
身を守り、心を支える縁そのものよ。……忘れないでね」
それぞれが装束を整え終えたその時。
日夊が一歩進み出て、四人を見渡した。
「では……私から、これをお渡しします」
掌に乗せて差し出されたのは、どう見ても、ただの石。
「……なんじゃこれ?」
「僕には、ただの石っころにしか見えんけど」
黑と白哉は同時に首を傾げる。
だが日夊は微笑み、静かに言葉を紡いだ。
「石は、永き時を経ても形を失わない」
そう呟くと日夊は、石を黑と白哉の手のひらに乗せた。
さらに、如月と志輝の手を取り、そっと重ねさせる。
「あなた方の愛が、この先も変わらぬことを願って……」
言葉と同時に、指を鳴らす。瞬間、石が淡く光を放ち形を変える。

輪の部分には、曼殊沙華を思わせる紋様が刻まれている。

輪の部分には、雪の結晶のような紋様が刻まれている。
「……さぁ、あなた方の愛の証です。どうぞ、お互いの指に」
日夊が促すと、四人は少し照れながらも互いの指に指輪を嵌め合う。
朱と蒼、二つの光が淡く瞬き広がった。
その光景に、白銀が笑みを浮かべる。
「愛と絆を糧にせぇ。さすればどんな困難も、越えて行ける筈や」
四人の胸に、熱いものが込み上げていく。現世への帰路は絶たれた。
けれど、その代わりに……――――共に歩む未来が、確かに手の中にある。
玄と華が前へ進み、張りつめた空気を引き戻す。
「……準備は整ったね」
「じゃあ、行こうか。敵陣へ」
まだ湯の余韻を残す体に、新たな力が確かに満ちていた。
四人は互いに視線を交わし、静かに頷く。
もう迷いはない。……――――この先に待つ戦いへ、
己が選んだ絆を胸に進むだけだ。
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