便失禁にへこむ日々から「なぜ?」と考えられるようになるまで。グループホームでの気づき
介護において、「便失禁」はご本人にとってショックなのはもちろんのこと、サポートするご家族や私たち介護職であっても、正直なところ心が折れそうになるほど大変な出来事です。
「またか…」とため息をつきたくなったり、片付けながら無力感でいっぱいになったり。私自身も以前は、便失禁の対応に直面するたびにひどく凹んでいました。
「認知症が進んだから仕方ないのかな」「もうお年だから、トイレで排泄するのは無理なのかな」
そんな風に諦めかけていた私が、ある時から便失禁に対して「へこむ」のではなく、「なぜこうなったんだろう?」と考えられるようになりました。今回は、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)での経験を通じて得た、私なりの気づきをお話ししたいと思います。
そもそも、なぜ漏れてしまうのか?
「なぜ?」と考えるようになってから色々と調べてみて、私にとって大きな発見だったのは、便失禁は「認知症(脳の機能低下)」だけでなく、「お尻の筋肉の衰え(身体的な要因)」が大きく関わっているということでした。
排泄をコントロールする筋肉は、お尻の表面の筋肉と密接に連動しています。
加齢や活動量の低下によって、お尻の大きな筋肉(大殿筋)が痩せてくると、骨盤が後ろに倒れやすくなります。すると、下から内臓を支えている骨盤底筋群も緩んでしまい、結果的に「肛門をキュッと締める力」が物理的に弱くなってしまうのです。
そこに認知症による「便意を感じにくい」「トイレの場所がわからない」といった要素が加わることで、失禁のリスクが跳ね上がってしまう。この「身体のメカニズム」を知ったことで、私の「仕方ない」という思い込みが少しずつ外れていきました。
「ソワソワ」の裏に隠れていたもの
グループホームでケアに携わっていた時、もう一つ強く実感したことがあります。
それは、認知症の方が理由もなくソワソワと落ち着きがなくなる時、実は「便秘」であったことがとても多いという事実です。
ご本人は「お腹が苦しい」「ウンチが出そう」と言葉でうまく伝えられないため、その不快感が「落ち着きのなさ」というサインになって行動に現れていました。
実は、硬い便が腸に詰まっていて、その隙間から液状の便だけが漏れ出てしまう「溢流性(いつりゅうせい)便失禁」という症状も高齢者にはよく見られます。
「漏れているから下痢だ」と思い込んでいたら、実は頑固な便秘が隠れていた。そのことに気づいてからは、不穏な様子が見られたら、まずは直近の排便状況を確認するようになりました。
手すりスクワットと、食事への試行錯誤
「お尻の筋肉が大事」という学びと、「便秘を解消して活動量を作ろう」という思いから、グループホームで色々なことを試してみました。
その一つが、施設の手すりにつかまりながらの「スクワット」です。
リハビリというような堅苦しいものではなく、レクリエーションの延長のように、とにかく楽しくやってみました。みんなで一緒に数を数えたり、笑い合いながらお尻や足の筋肉を使う時間を作ったのです。
また、便秘解消のために食事面でも試行錯誤を繰り返しました。主食を食物繊維たっぷりの玄米ごはんに変えてみたり、飲む水をミネラル豊富な硬水にしてみたり、逆に口当たりの良い軟水に戻してみたり。
「で、そのスクワットや食事の工夫で便失禁は劇的に減ったの?」と聞かれると……正直なところ、どれがどう効果があったのかはよく覚えていません(笑)。
でも、私にとっての最大の効果はそこではありませんでした。
便失禁を前にしてただただ「へこむ」しかなかった私が、「ずっこけ座りになっていないかな?」「このソワソワは便秘のサインかも?」「じゃあ、明日は水分を変えてみよう」と、理由を探して前向きにアプローチできるようになったこと。
これが何よりの収穫でした。
終わりに
便失禁への対応は、どれだけ経験を積んでもやっぱり大変ですし、エネルギーが要ります。
でも、「もう年だから」「認知症だから」の一言で片付けず、「なぜ?」の視点を持つことで、介護する側の気持ちは少しだけ前を向けるようになります。
完璧に防ぐことはできなくても、色々と試行錯誤する過程そのものが、ご本人の尊厳を守り、自分自身の心も守ることに繋がっていくのだと思います。私のこの小さな体験談と気づきが、いま同じように便失禁のケアで心が折れそうになっている方の、ちょっとしたヒントになれば嬉しいです。

