【氷川神社】スサノオだけじゃない!?龍神伝説が残る武蔵国一宮
日本一長い参道に挑む
長野の諏訪大社、そして上高地の穂高神社奥宮。あの峻険な道を歩き抜いた旅から戻って、わずか中一日のことだ。
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「どれくらい歩くの?」
隣で露骨に眉をひそめる奥さんの心の声が聞こえる。無理もない。今回向かう大宮・氷川神社の参道は、「日本一の長さ」で知られる約2キロの欅の並木道だ。駅から換算すれば片道40分弱。
「参道」を通る事は参拝の心の準備に必要な物理的な時間を生む事でもあり、「氷川神社」の神威を体感するのに私は必要だと思った。
この一の鳥居から三の鳥居まで続く聖域のグラデーションを感じたい。だが、氷川神社公式HPにも電車のアクセスとして最寄駅は大宮駅か北大宮駅とはっきり書いてある。
なんでわざわざ、手前のさいたま新都心駅から行く必要があるのか。目的地に最短距離で着きたい「直線的」で「現代的」な彼女には意外と理解してもらいずらい。余計な火種を抱えるようなものだ。
そこで私は、最近お世話になっているレンタサイクル「Hello cycling」を提案した。
この折衷案が功を奏し、私たちはさいたま新都心駅から、参道の脇を漕ぎ出した。

ところで、「参道」の定義とは何だろう?
氷川神社の場合は一の鳥居から三の鳥居までの道としている。
ペダルを回しながら、私の頭は「参道の定義」について回転し始める。
氷川神社が「日本一」を冠する一方で、鹿島神宮の水上鳥居(2.2キロ)や、伊勢神宮の桑名の一の鳥居、あるいは富士山頂の浅間大社奥宮(八合目から5キロ)など、距離だけで言えば上回る候補は存在する。
だが、検証の結果、氷川のそれは「別格」だと思い至った。
多くの大きい神社で鳥居が街の中に点在し「参宮道」として分断されているのに対し、氷川は中山道の分かれ目から境内まで、一筋の欅並木道が街の開発に負けず保存されている。
鉄道開拓で街の発展に協力する中で、きっとこの聖域の「線」の誇りも培われたのではないか。
大宮の人々と神社の意志。誰がみても文句なしの「参道」がそこにはあった。

結果、このサイクリングは大正解。ところどころ、自転車を止めて写真を撮ったり、参道の雰囲気を味わっていると、奥さんは、鳥居の前でランナーから写真撮影を頼まれたりしていた。
撮影好きな奥さんはいつも通り、親切に応えている。
上機嫌で新緑に沿って脇道を駆け抜けていく。奥さんの笑顔を見て、ほっとして楽しくなった。
武蔵国一宮氷川神社
令和5年5月上旬
二の鳥居を過ぎたあたりのステーションで自転車を返却予定だったが、返す間際にその近くの「氷川だんご屋」が賑わっていたのが見えた。
奥さんのアンテナが反応して、自転車を返すや否や気づいたら、引き返して店に吸い込まれていた。
私も追って店に近づくと、
「お昼前にお腹が空きすぎると困るから」と
揚げまんじゅうを買って出てきた奥さん。
ちょうど午前10時頃。
軽い運動で小腹が空いていた私たちは、揚げまんじゅうを食べて一息つく。
想像以上にあっさりしてて美味かったー。

奉納の酒樽「フロンティア精神」

いよいよ三の鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れると、圧倒的な数の酒樽が目に飛び込んでくる。
埼玉県は全国4位の清酒出荷量を誇る隠れた酒どころだ。32もの蔵元が並ぶ中で、ひときわ異彩を放つのが『金紋世界鷹』の文字。氷川神社の御神酒として奉納されている、文化5(1808)年創業の老舗「小山本家酒造」の銘柄だ。

この日本酒の銘柄にして国際的な印象な「世界鷹」という名には、歴史の地層が積み重なっている。
かつて氷川神社の周辺は徳川将軍家の「御鷹場」であり、神域に舞う鷹は権威の象徴だった。そこに、兵庫の灘・伏見で修行を積んだ初代・小山又兵衛が、江戸という新天地に賭けて関東で創業したチャレンジ精神が合流した。
氷川の地下を流れる荒川水系の伏流水。その同じ水で醸された酒を、氷川神社のルーツである太古の昔に出雲からこの地へやってきてこの地を開拓した「出雲族」のフロンティア精神に重ね合わせる。
「埼玉は清酒出荷量が全国4位だって。酒蔵もこんなに多いんだ」
そう言うと、たまに味見で一口くらいしか飲まない奥さんも一瞬、興味深げに樽を眺めた。


「氷川大明神」と消えた見沼の龍神

御祭神は
須佐之男命
稲田姫命
大己貴命
拝殿を前にして、私はふと思う。
今でこそ祭神はスサノオだが、江戸時代までは
「氷川大明神」として親しまれていた。明治以降の記紀神話による再定義に惑わされてはいけない。この神社の本質は、かつて西側に広がっていた巨大な湖沼「見沼」にある。
見沼は、江戸時代の享保の改革によって消滅した。干拓を強行した井沢弥惣兵衛の前に、住処を追われた龍神が女の姿で現れ、工事の中止を訴えたという伝説が残っている。
結局、沼は田んぼへと姿を変えたが、龍神の怒りを鎮めるための「龍神灯」は今も近くの寺に灯り続けている。
境内の奥にある「蛇の池」は、その見沼の名残であり、氷川祭祀の源流だ。今もコンコンと湧き出す水は、かつての広大な水世界の鼓動を伝えている。

摂末社めぐり

「摂末社めぐり」のスタンプを押し進めたが、なぜか「蛇の池」だけを押し損ねてしまった。
見落としたのか。
なんとなく分かったようで分からない氷川神社の核心なのか。あるいは「また来いよ」という龍神からのメッセージかも知れない。
御朱印

頂いた御朱印は、まさに氷川の水を思わせるような流麗な達筆。八雲の神紋が、遠い出雲の記憶を静かに主張している……気がする!
帰りの電車で、隣に座る彼女に聞いてみた。
「氷川神社、どうだった?」
「人がたくさんいた割には、広いからか落ち着いてる雰囲気が印象的」
日本一長い参道を越え、龍神の記憶に触れた私の熱量とは対照的な、涼やかな一言。
でも、その「落ち着き」こそが、数千年の時を超えてこの地が守り抜いてきた聖域の本質なのだと、妙に納得してしまった。
基本情報
所在地:埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1−407
授与時間:9時頃〜16時頃
※最新情報は公式HPをご確認ください
参拝所要時間:60分くらい。
※摂末社巡りをすると90分くらいか。
Googleマップ
次回予告
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帰宅困難というアクシデントを逆手に取った、奇跡の参拝。
次回はあの、京都「伏見稲荷大社」です。
いよいよ京都に足を踏み入れてしまいます。
お楽しみに。
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