第115話|競技復帰への第一歩は、身体との再会だった
8月初め、リハビリでエアロバイクを始めた。
もちろん、ロードバイクとはまったく違う。
上半身を起こしたまま椅子に座り、足を回すだけ。体幹から脚へ力を伝えるわけでもない。ロードバイクに乗っていた頃の感覚とは、まだ遠い。
それでも、ペダルを動かしてみる。
左膝の裏には手術痕があり、皮膚が固くなっている。その部分に違和感はある。
それでも、回る。
足首が動く。
膝が動く。
股関節が動く。
手術から1か月あまり。
少し前までは、左足に体重をかけることさえ怖かった。歩行器を使い、歩くことそのものを練習していた。
そんな脚で、今はペダルを回している。
入院中に10分間までエアロバイクを漕ぐことができた。
「自転車に乗れた」と言うには、まだ早い。
ロードバイクのように走れるわけでもない。競技に戻れるわけでもない。
ただ、自分の身体の中で、もう一度「回す」という動きができた。
それだけで十分だった。
今回のエアロバイクは、トレーニングというより、身体との再会に近かった。
以前は、脚が動くことを当たり前だと思っていた。
今は、足首が動くこと、膝が曲がること、股関節が回ること、その一つひとつを確認するようになった。
競技復帰への道は、まだ長い。
でも、その道の最初にあるのは、速く走ることではなく、自分の身体がもう一度動いてくれることを知ることなのかもしれない。
