第111話|歩けるようになった。でも、まだ「歩ける身体」ではなかった
2026年7月30日。
手術からちょうど1か月。
事故から数えると約40日が過ぎた。
この日、歩行器を卒業した。
リハビリでは一度に約200m歩けるようになり、病棟内の移動も歩行器なしでできるようになった。リハビリ前に毎回マッサージを受けなくても、少しなら歩けるようになっていた。
数週間前には想像もできなかった変化だった。
けれど、「歩けるようになった」と「歩ける身体になった」は、まったく違うことだった。
歩き始めの数歩は、まっすぐ前へ進める。
でも、その先になると左脚へ体重を乗せるたびに身体が大きくぶれてしまう。
左脚はまだ十分に伸びず、筋力も戻りきっていない。
そのため、左脚に合わせるように右脚も自然と動きを緩めて歩いていた。
歩けるようになったというより、左右のバランスを取りながら何とか前へ進んでいる状態だった。
振り返ると、理学療法士さんが見ていたものは最初から違っていた。
7月14日。
1/3荷重が許可され、松葉杖で初めて左脚を地面につけ始めた頃。
私は「どれだけ体重を乗せられるか」「痛みはあるか」ということばかり考えていた。
でも理学療法士さんは、歩幅や姿勢、お尻の位置、骨盤の傾き、身体の使い方を細かく見ていた。
当時は、その理由がよく分からなかった。
歩けることが目標だと思っていたからだ。
歩行器を卒業した今、その意味が少し分かる。
歩くという動作は、脚だけでは完成しない。
姿勢や重心、左右の連携が少し崩れるだけで、歩き方は大きく変わってしまう。
距離は伸びた。
病院内も自分で移動できるようになった。
それでも、身体はまだ「正しい歩き方」を思い出している途中だった。
歩けるようになった日ではなく、「歩き方を取り戻すこと」が、本当のリハビリなのだと感じ始めた一日だった。
