「とんでもなく大きな目標」を掲げると、なぜ人生が変わるのかを科学的に解説してみる
少し前に
・大きな目標を立てて今日の行動を変えよう!
・達成率ではなく変化率で見よう!
という記事を書きました。
これに対して、何人かの方からこんな意見をいただきました。
「理屈はわかるが、高い目標を立てても結局3日で元に戻るんですけど…」
「何度ダイエットに失敗したことか。私の意志の弱さをナメないでいただきたい」
その気持ちとってもとってもわかります。
ただ、あえて一言言わせてください。
ここで意志の力に頼るのは悪手です。
実は、人が大きな目標に向かって動く際には、意志の強さではなく「脳の仕組み」をうまく活用する必要があります。そしてこれはクライアントの大きな目標を一緒に描き、その実現をサポートするコーチングにおいて重要なコンセプトになっています。

今日は、なぜ大きな目標(コーチングの世界でよく語られる「現状の外側のゴール」)を立てると人生が変わるのか?について、できるだけ脳の仕組みに沿って分解してみます。
※一部わかりやすさを優先するために説明を省いたり、デフォルメしている箇所があるのでご了承ください。
【本編に入る前に宣伝】
一方で「コーチングだけでは人生は変わらないよ」というお話を90分の有料級の動画としてまとめました!LINE登録いただけるとDLできますのでこちらから是非。
本題に入る前に、一つ前提を共有させてください。
ひとくちに 「コーチング」と言っても、実はいろんな流派があります。
目標達成にぐいぐい伴走するもの、感情にじっくり寄り添うもの、思考のクセそのものに働きかけるもの……。私自身、クライアントのニーズや状態に応じて、これらを使い分けています。

その中で、こと「キャリア」の領域に関して言えば、私は認知科学を用いたコーチングが特に相性が良いと感じています。キャリアの悩みの多くは、「今の延長線上に選択肢が見えない」「自分にはこれくらいが妥当だと、無意識に枠を決めてしまっている」という、まさに“ものの見え方”の問題だからです。
そして、この認知科学系のコーチングは、噛み砕くと、人間という生き物の脳の構造をベースにした極めて科学的な原理原則の話がベースになっています。「願えば叶う」みたいなスピっぽい話とは、むしろ真逆だと思って読んでください。
人間には「元に戻ろうとする力」が標準装備されている
私たちの体には、ホメオスタシス(恒常性) という機能があります。体温が上がれば汗をかいて下げ、下がれば震えて上げる。血糖値も、血液の塩分濃度も、つねに「いつもの状態」へ自動で引き戻される。意識しなくても、体が勝手にやってくれています。
100度近いサウナに入っても体温が36度のままなのは、ホメオスタシスがちゃんと働いてくれているからですね。生きるために必須の力なので、めちゃくちゃ強いパワーを持っています。
・ホメオスタシス(恒常性)=今の状態を「正常」とみなし、そこへ自動で引き戻す力
この自動で戻ろうとする「いつも通りの状態」こそが、いわゆるコンフォートゾーン(自分にとって居心地のいい範囲)の正体です。
だから、いつも夜ふかししている人が「明日から朝5時に起きるぞ」と決めても、3日目には体も心も「いつもの夜ふかし状態に戻るぞー!」と全力で引き戻しにかかる。これは意志が弱いのではなく、ホメオスタシスが正常に作動しているだけです。皮肉なことに、現状維持の力は本人が優秀で健康なほど強く働きます。
現状の「少し外」に目標を置くと、コンフォートゾーンの縁で「戻る力」と「進む力」がずっと綱引きを続けることになる。ホメオスタシスの力はめちゃくちゃ強いので、力勝負するとたいていは負けます。意志の力で恒常性に勝ち続けるのは、ほぼ無理ゲーだと思って下さい。

ホメオスタシスは生存のための超重要機能なので、意志の力で抗っても無理なのである。
ここからが核心:ホメオスタシスは「想像やイメージ」にも反応する
では戦い方を根本から変えます。ホメオスタシスと戦うのをやめて、味方につける。
そのために、まず一つ知ってほしい事実があります。
このホメオスタシス、目の前の「物理的な現実」だけでなく、頭の中の「イメージや言葉の世界」にも反応します。
ピンとこないと思うので、今その場で証明しましょう。
口の中に、大きくてとにかくすっぱーい梅干しを放り込むところを想像してみてください。 さらに黄色く熟したレモンも、丸かじりしちゃいましょう!

……どうですか。たぶん、口の中に唾液が湧いてきたはずです。
冷静に考えると、おかしな話ですよね。実際には、あなたの口の中に梅干しもレモンも一個も入っていない。 ただ頭の中でイメージしただけです。なのに、体(唾液腺)は「酸っぱいものが来た」と判断して、現実に反応してしまった。
もう一つ。
映画館を思い浮かべてください。物理空間の話をするならば、私たちはただの暗い箱の中で、布のスクリーンに光が当たっているのを座って見ているだけです。映っているのが作り話だと、頭では100%わかっている。それでも私たちは、ハラハラして手に汗を握り、心拍数は上がり、登場人物が死んでしまえば本気で涙を流します。

これも冷静に考えるとすごいことです。あなたの身には、現実には何も起きていない。なのに心拍は上がり、涙腺は緩む。体は完全に「本当の出来事」として反応しているわけです。
ここから言えることは、一つです。
脳は、「目の前の現実」と「リアルに感じている想像」を、身体反応のレベルではうまく区別できていない。
認知科学を用いたコーチングでは、この「イメージや言葉でできた世界」を情報空間と呼んだりします。そして、その情報空間にどれだけ強い臨場感(リアリティ)を持てるかが、鍵になります。
臨場感さえ十分に高ければ、脳はそれを「現実」と同じように扱い、ホメオスタシスを発動させる——梅干しの唾液や、映画の涙のように。
だから、コンフォートゾーンは「頭の中」で動かせる
ここまで来ると、戦い方が見えてきます。
コンフォートゾーンを現状の外へズラすのに、いきなり現実を変える必要はありません。「現状の外側のゴールを、ありありと臨場感を持って感じる」ことができれば、脳はそちら側を「現実」として扱い始めます。
すると、何が起きるか。
脳が「ゴールにいる自分」を新しい正常値 (=コンフォートゾーン)だと認識し直した瞬間、今度はホメオスタシスが、現状のほうを「異常」とみなして、ゴール側へ引き戻そうと働き始めます。 さっきまで自分を現状に縛りつけていた力が、ぐるっと反転して、推進力に変わる。

これがコーチングのいちばん核心の発想です。
高い目標を「気合で達成する」のではなく、ゴール側の臨場感を現状より高くして、戻ろうとする力の向きそのものを変える。精神論ではなく、脳の仕組みの操作なんです。
だからコーチングでは、ゴールを鮮明に、五感を伴ってイメージすることをしつこく重視します。
「将来フェラーリに乗りたいなら、フェラーリに試乗するところから始めてみよう。」
よく自己啓発本に書いてある内容ですが、認知科学の観点からすると、これは意識高めの胡散臭いアドバイスではなく、情報空間の臨場感を上げて、ホメオスタシスのターゲットを書き換えるという、必要な作業だったわけです。
脳は、世界を「見たいように」見ている:RASの話
ゴールが定まると、もう一つの仕組みが動き出します。RAS(網様体賦活系) です。
やっていることはシンプルで、脳には「膨大な情報のうち、何を意識に上げて、何を捨てるか」を仕分けるフィルターがあります。五感には毎秒とんでもない量の情報が入ってきますが、全部処理したら脳がパンクするので、「自分にとって重要なもの」だけを選び、残りは容赦なくカットしているんです。
身近な例で言うと——
・ロレックスを買った瞬間、街中でロレックスばかり目につくようになる
・子どもが生まれると、急に世の中の妊婦さんやベビーカーが目に入る
・雑踏の中でも自分の名前だけははっきりと聞き取れる
世界が変わったのではありません。「重要だ」と脳が認識した瞬間、フィルターを変えて今まで素通りしていた情報が見えるようになっただけです。
ここから、少し怖いけれど本質的なことが言えます。
私たちは、目の前の世界をそのまま見ているのではなく、それぞれが「自分のフィルターを通した世界」を見ている。
同じ部屋に立っても、インテリア好きには家具が、エンジニアには配線が、服屋には掛かっている服が真っ先に飛び込んでくる。同じ街を歩いても、不動産業の人は空き物件が、親は子どもの危険が、食いしん坊は新しい店ばかりが目に入る。全員、同じ場所にいて、まったく違う世界を見ている。 文字通り、誰一人として同じ世界を生きていないんです。
そして——ゴールを設定するという行為は、このフィルターを意図的に書き換える行為です。「年収を倍にする」を本気のゴールにすると、今まで素通りしていた求人、副業の話、人の何気ない一言が、急に「自分ごと」として飛び込んでくる。情報量は同じなのに、拾える世界がまるごと変わります。
(厳密にはRASは脳の覚醒や注意のゲートに関わる部位で、注意の仕組み全体はもっと多くの脳領域が関わっています。ただ「脳には重要な情報を選別するフィルターがある」という点は、確かな事実です。
見えていたのに「見えなかった」もの:スコトーマの話
このフィルターには裏の顔があります。スコトーマです。
実際に体験してみるのが早いので、この動画を見てください。
いかがでしたでしょうか?
スコトーマは、もともとは眼科の用語で、視野の中の「見えない部分(暗点)」を指します。実際、人間の目には構造上の盲点があって、誰でも視野の一部が物理的に欠けている。でも気づかないのは、脳がうまく補完しているからです。
コーチングでは、これを心理面に当てはめて使います。
・心理的スコトーマ=目の前にあるのに、「重要だと思っていない」がゆえに認識から外れているもの
RASの裏返しですね。フィルターが「重要じゃない」と判断したものは、目の前にあっても、存在しないかのように見えなくなる。「自分には独立なんて無理」と思い込んでいる人には、独立に役立つ情報やチャンスが、ずっと目の前を通り過ぎているのに見えていません。
ところが本気で「独立する」とゴールを置いた瞬間、今まで見えなかった手段や選択肢が、急に視界に現れてくる。 新しい情報が降ってきたわけではなく、もともとそこにあったものが、見えるようになっただけ。これも魔法ではなく、フィルターの仕組みの話です。
整理:なぜ「現状の外側」じゃないとダメなのか
ここまでをつなげると、前回の「変化率」の話が、脳の仕組みとしてもきれいに筋が通ります。
現状の少し延長に目標を置いた場合:
情報空間のイメージも「ほぼ今のまま」なので、臨場感の中心は現状にある。だからホメオスタシスは現状へ引き戻すまま、RASのフィルターも現状寄りのまま。見える世界も、取る行動も、ほとんど変わらない。
現状の外側にゴールを置き、それを臨場感を持って感じられた場合:
脳がゴール側を「現実」として扱い始め、ホメオスタシスが「ゴールへ戻ろう」とする推進力に変わる。RASのフィルターが書き換わり、ゴールに必要な情報が見えてくる。スコトーマが外れ、今までなかったはずの選択肢が現れる。
根性で頑張るのではなく、脳が「そっちが自然」と思い込むことで、勝手に動き出す。これが、現状の外にゴールを置く本当の意味です。
前回の記事からの繰り返しになりますが、ゴールは達成することが重要なのではありません。ゴールの力を借りてコンフォートゾーンをずらし、文字通り「新しい世界を生きる」ことで変化率を作る重要ツールなのです。

自分にとって理想のゴールを生きるために必要な眼鏡をかける必要がある。
注意点:これは「願えば叶う」ではない
念のため、大事な線引きをしておきます。
これは引き寄せの法則ではありません。ゴールの臨場感を上げれば、情報が見え、行動が変わり、選択肢が増える——ただそれだけです。見えた選択肢を実際に選び、動くのは、最後まであなた自身です。脳は世界の見え方を変えてくれますが、世界そのものを変えてはくれません。
それでも、です。意志の力だけで現状維持の引力に勝ち続けるより、脳の仕組みを味方につけるほうが、圧倒的に再現性が高い。コーチングが「精神論」ではなく「科学的にも有効な技術の一つ」だと言えるのは、こうした人間の原理原則に乗っているからです。
お恥ずかしながら、私もダイエットだけは、未来の細い自分の臨場感より目の前のラーメンの臨場感が毎回勝つので、まだまだ修行中ですが……。

さいごに
前回は「達成率より変化率」、つまりどんな旗を立てるかの話でした。 今回は、その旗が立った瞬間に脳の中で何が起きているかの話でした。
大きな変化は、強い意志から生まれるのではありません。「現状の外にゴールを置き、そこに臨場感を持つ」→「脳がそれを"現実"として扱い、見え方と引力の向きを変える」→「行動が変わる」という、誰の脳にも備わった仕組みから生まれます。
梅干しを想像して唾液が出るくらい、あなたの脳は素直で、働き者です。だったらその素直さを、ラーメンや不安にではなく、なりたい自分のほうへ向けてあげればいい。
さぁ、あなたはどんな世界を、自分の新しい「当たり前」にしますか。
また次回の記事で、お会いしましょう!
【告知】
今回の記事でコーチングに興味を持った方、ぜひコーチングを学びコーチになってみませんか?僕の会社では良いコーチをもっともっと増やすべく、コーチングスクールをやっています。コーチングだけではなく、大きな目標を描いた後、その実現に向けて必要なキャリア理論も学べる、独自のキャリアコーチングスクールになっています。
ご興味ある方は、個別説明会も実施しますので是非下記公式LINEへご登録ください!無料キャリア相談もLINEからお気軽にどうぞ。
