考えなくても成果物が出る時代に、思考体力をどこで鍛えるか
知り合いに、幼児や児童向けの将棋教室をやっている先生がいます。その人から聞いた話が、しばらく頭から離れません。
その教室で教えているのは、将棋の勝ち方ではないそうです。
目的は、自分の頭でとことん考え抜く「思考体力」をつけること。
答えを教えてもらえない状態で、長い時間、自分の頭だけで粘る。その粘り自体を鍛えていて、将棋はそのための手段だという話でした。
聞いた瞬間に、これはいまの自分の仕事の話だと思った話を書き残そうと思います。
考える回数が増えたのか、減ったのか
自分はプロダクトチームのEMをしています。Claude Codeのようなツールが入って、実装のスピードは明らかに変わりました。
一方で、気になっていることがあります。AIを入れると考える回数は増えるはずなのに、場面によっては思考を妥協して良しとしている場合もあります。
レビューで指摘されたとき返えす言葉に詰まる。そういう瞬間ないでしょうか。
それはおそらく、AIが思考を奪っているわけではありません。考えなくても成果物が出てしまう状態が、当たり前になっただけです。
考える工程を省略できるようになった分、その回数は意図して確保しないと減っていきます。
AIは思考の代わりではなく、壁打ちの回数を増やす道具
ただ、「だからAIに頼らず自分で考えよう」という話にはしたくありません。個人的には、AIの一番の価値は思考を代わりにやってくれることではないと感じています。
AIは、思考の壁打ちの回数を増やしてくれる道具です。
以前は一つの案を検証するだけでもまとまった時間がかかりました。いまは、叩き台を出して、穴を突いて、別の案と比べる、というループを何周も回せます。
将棋界も似た道を通ってきたと理解しています。2017年にソフトが名人に勝って以降、ソフトを使った研究は世代を問わず当たり前になりました。
面白いのはその先です。藤井聡太さんは、AIと見解が分かれたとき、自分が納得できたら取り入れるという趣旨のことを話していました。
強い人ほど、道具は使い倒したうえで、最後の判断だけは自分に残している。
どこに線を引くか
AIは「考えなくても進む道」と「考える回数を増やす道」を同じ手軽さで差し出してきます。しかも前者の方が、目先は速いです。
なので最近は、意識して線を引くようにしています。
任せていいと思っているもの。
選択肢の洗い出し
定型的な実装や、調査の下ごしらえ
自分の案の穴を突いてもらう役
自分で粘りたいもの。
何を解くべき問題として設定するか
なぜその判断にしたのかという理由
出てきた案を、採らないと決める判断
前者を手放すのは効率です。後者を手放すと、たぶん一番大事な思考体力が落ちます。
開発の速度は上がっているのに、判断の質は落ちていないか。ここは現場の好みではなく、事業の意思決定そのものに効いてくる話かと思っています。
仕事には、将棋教室がない
将棋教室の話が刺さったのは、教えている内容ではなく、思考体力を鍛える場を意図して用意しているという設計の部分でした。
大人には、そういう用意された場がありません。自分は面倒くさがりなので、意識してやらないとすぐ横着します。
なので、チームで一度会話してみるだけでも意識が向くと思っています。「ここは任せる」「ここは自分で粘る」を口に出して並べるだけでも、線は見えてきます。
AI時代に、思考体力をどこに残すと決めたかで、今後の意思決定や成果物の質が変わってくるのかもしれません。
我々は自分の頭で粘る場所を意識して残さないといけない、そういう時代に変わったのだと思います。
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「ナレッジ経営クラウドQast」を作っているany株式会社で取締役CTOやってます。
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