楽しいから続けられる:「続ける思考」が変える人生と習慣ー井上新八氏
井上新八著『「やりたいこと」も「やるべきこと」も全部できる! 続ける思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023年)を拝読しました。
本書では、人が何かを継続することの難しさ、そしてその難しさを乗り越えて継続していくための具体的な方法や考え方を、著者自身の経験を交えながら紹介しています。単に「続ける」ことの重要性を説くだけではなく、なぜ人は継続が苦手なのか、そしてどうすればそれを克服できるのかを、心理学的な側面や具体的な行動指針を通じて解説しています。
「続ける」は苦行ではない
まず、本書の冒頭で強く打ち出されるのは、「続ける」ことは苦しいものでも、我慢を強いられるものでもない、という主張です。世間一般では、何かを続けることは根性や努力が必要な苦行のように捉えられがちですが、著者はそれを真っ向から否定します。著者は、「続ける」ことは本来、楽しいものであり、工夫次第で誰でも無理なく継続できるようになると説きます。この考え方は、多くの人が抱く「継続=苦痛」という固定観念を覆し、継続へのハードルを大きく下げるでしょう。
仕組み作りが継続の鍵
本書で最も重要な要素の一つが「仕組み」づくりです。著者は、「続ける」ことを目標にするのではなく、続けるための「仕組み」を作ることに焦点を当てることを強く推奨します。目標を達成することに固執するのではなく、日常の行動を習慣化するためのシステムを作り上げることが、継続を容易にする鍵だと述べています。
具体的な例として、既存の習慣に新しい習慣を組み合わせてみたり、何かをするときの「ついで」に目標の行動を組み込んだり、または何かを始める前に簡単な「前置き」を設けるなど、すぐに実践できるテクニックが紹介されています。また、行動を細分化してハードルを下げ、それを記録していくことで、「継続」をゲーム感覚で楽しめるような工夫も提案されています。
「やり抜く力」は自然と身につく
また、著者は「やり抜く力」は、無理に身につけるものではないと主張します。毎日、ほんの少しの行動を継続していく中で、自然と「やり抜く力」が身についていくと述べています。小さな成功体験を積み重ねることで、自信と達成感が生まれ、それが継続を後押しします。それにより、当初は難しかったことも、いつの間にか当たり前のようにこなせるようになるのです。
変化こそ「続ける」ことの醍醐味
「続ける」ことによって、人は変化します。それは、単に技術が向上したり、目標を達成したりするだけでなく、自身の価値観や行動パターン、ひいては人生観まで変えてしまうほどの大きな変化です。著者は、その変化こそが継続することの最大の醍醐味だと語ります。当初は何も考えずに始めた小さな行動が、時間をかけて熟成し、予想もしていなかった大きな変化につながっていく。そのプロセスこそが、継続を楽しくする原動力となります。
「好き」は自分でつくるもの
本書では、「好き」を探すことの難しさについても触れられています。「何かを好きになりたい」と思って探しても、なかなか見つからない。それは、「好き」が外部から与えられるものではなく、自分の中で時間をかけて育むものだからだと説明します。
著者は、日々の小さな行動を継続していく中で、自分だけの「好き」を発見することができると説いています。例えば、日常で何気なくしている行動を記録していくことで、その行動に対する新たな視点や価値観が生まれる。そのようにして、自分にとって本当に価値のある「好き」を見つけていくことができるのです。
具体的な行動指針と継続の秘訣
本書では、継続するための具体的な行動指針や、継続を阻む要因を克服するための考え方が、様々な角度から詳しく解説されています。
例えば、以下のようなことが考えられます。
目標を細分化し、小さなタスクから始めること
既存の習慣と組み合わせて、新たな習慣をスムーズに導入すること
「やらない」という選択肢を排除し、毎日必ず取り組むこと
「やれない」ときは、無理せず「やったフリ」でもいいと割り切ること
時間を確保するために早起きすること
「ついでの力」を利用して、目標とする行動を日常に組み込むこと
記録を活用し、達成感を可視化することでモチベーションを維持すること
「難しくてめんどうなこと」の前に「簡単な小さいこと」をセットにすること
「休むなら明日」という言葉を魔法の言葉にする
「積極的な現実逃避」で心の疲れを癒すこと
「本気」を最初から出さずに、スモールスタートすること
「できない日」を受け入れること
「小さな冒険」を日常に取り入れること
これらの具体的なアドバイスは、読者が自身の生活に継続の仕組みを取り入れ、実践していく上で大きな助けとなるでしょう。また、著者の飾らない言葉で綴られた経験談は、読者に共感と勇気を与え、継続することへの抵抗感をなくしてくれるでしょう。
「続ける」ことへの新たな視点
本書は、私たちが普段何気なく行っている「続ける」という行為に、新たな視点を与えてくれるものでした。「続ける」ことは、苦しいことでも、特別な才能が必要なことでもない。誰でも、今すぐに、そして楽しみながら始められる。そのことを、本書は読者に力強く伝えています。また、著者のように「続ける」こと自体を「好き」になることができれば、きっと人生がより豊かで実り多いものになるでしょう。
「続ける」ことを始めよう
本書を読み終わったとき、読者はきっと何かを「続けたい」という衝動に駆られるはずです。本書で紹介されている様々な考え方やテクニックを参考に、まずは小さな一歩を踏み出してみてはどうでしょうか。結局のところ、人生は小さな行動の積み重ねで出来ています。そして、その小さな行動を「続ける」ことで、人は変わっていくのです。本書は、そのシンプルな事実を教えてくれます。私もまた、「続ける」を実行してみようと思います。
「続ける思考」を企業人事の立場から考える
「続ける思考」は、単に個人の成長を促すだけではなく、組織全体の持続的な成長を支える根幹となる要素です。企業人事の立場から人材育成、組織文化、採用、組織活性化など、多岐にわたる領域で具体的な施策を展開し、企業の競争力強化に繋げることができるでしょう。
1. 人材育成と能力開発への応用:継続的な成長をデザインする
企業の人材育成において、研修や教育プログラムは重要な役割を果たしますが、その効果を持続させることは容易ではありません。研修で得た知識やスキルが、その場限りのものとなり、日常業務に生かされないという課題は多くの企業が抱えています。
研修効果の最大化に向けた「続ける」仕組み
研修後、すぐに実践に移すためのタスクを課し、行動計画を作成させる。これにより、学んだ内容が机上の空論に終わらず、実際の業務で試される機会を作ることができます。
研修内容を日々の業務に取り入れやすいように、具体的な行動目標(例:毎日15分間、研修で学んだフレームワークを使い業務改善案を考える)を設定するよう促します。
研修で学んだことを記録する習慣を推奨し、定期的に振り返る機会を設けます。これにより、知識やスキルの定着度を高め、自己成長を促進します。
自己学習を習慣化させる
オンライン学習プラットフォームや社内図書館など、社員が自己学習できる環境を整備します。
自己学習の進捗状況を記録するツールを提供し、社員が自身の成長を可視化できるようにします。
社内勉強会や知識共有会を定期的に開催し、社員同士が学び合う機会を設けます。
キャリア目標に合わせた「続ける」設計
社員が自身のキャリア目標を明確にするためのワークショップを実施し、目標達成に必要なスキルや経験を洗い出します。
目標達成に向けた行動計画を立て、定期的に進捗状況を確認する機会を設けます。
メンター制度を導入し、先輩社員が後輩社員の継続的な成長をサポートします。
2. 組織文化の醸成:変化を恐れず、挑戦を歓迎する風土へ
組織文化は、社員の行動や価値観に深く影響を与えるものです。企業が持続的に成長するためには、変化を恐れず、常に新しいことに挑戦する文化を醸成することが不可欠です。
継続的な改善活動を促進する仕組み
「改善提案制度」を導入し、社員が日々の業務の中で気づいた改善点を提案できる環境を整備します。
提案された改善案は、実行可能性を評価し、積極的に採用します。
改善活動を推進するためのチームを組織し、定期的に活動報告会を開催することで、組織全体の改善意識を高めます。
失敗を奨励する風土づくり
失敗を個人の責任に帰属させるのではなく、組織全体で共有し、学びの機会と捉える文化を醸成します。
失敗から学んだ教訓を共有する場を設け、同じ過ちを繰り返さないように努めます。
新しいことに挑戦した社員を表彰する制度を設け、失敗を恐れずに挑戦する風土を醸成します。
社員の主体性とエンゲージメントを高める
社員が自身の興味関心に基づいて、自主的なプロジェクトを立ち上げられる制度を設けます。
社員が自身の得意な分野を活かせるような、多様な業務機会を提供します。
社員の意見や提案を積極的に聞き入れ、企業運営に反映することで、エンゲージメント向上につなげます。
3. 採用と人材の見極め:成長のポテンシャルを見抜く
採用活動においては、応募者のスキルや経験だけでなく、潜在的な成長力や継続力をどのように見極めるかが、今後の企業の成長を左右すると言っても過言ではありません。
行動特性評価の導入
過去の経験から、粘り強さや自己改善能力など、継続に関連する行動特性を評価する項目を導入します。
面接では、応募者が困難を乗り越えた経験や、目標達成のために努力したエピソードを尋ねます。
採用選考において、性格適性検査などを活用し、応募者の継続的な行動特性を見抜きます。
長期的な視点でのポテンシャル評価
短期的な成果だけでなく、長期的な成長のポテンシャルを見極めるための選考プロセスを設計します。
入社後のキャリアパスを具体的に提示し、応募者の長期的な視点を評価します。
インターンシップやOJTなどを実施し、応募者の成長過程を長期的に観察します。
自己理解を深めるための機会の提供
採用選考の過程で、自己分析のワークショップを実施し、応募者の自己理解を深めます。
応募者自身が、自分の強みや弱みを理解しているかを評価します。
面接では、自身の過去の経験から、継続的に取り組んだことや、それによって得られた学びについて語ってもらいます。
4. 組織の活性化と生産性向上:持続的な成果を生み出す
組織の活性化と生産性向上は、企業が生き残るための最重要課題です。「続ける思考」を組織全体で共有し、実践していくことで、組織全体のパフォーマンスを大きく向上させることができます。
業務効率改善を習慣化させる
日々の業務を細分化し、無駄な業務を削減するためのワークショップを実施します。
業務の進捗状況を可視化するツールを導入し、効率化の進捗状況を共有します。
業務効率化に関するベストプラクティスを共有し、組織全体のレベルアップを図ります。
目標達成能力を高める
チームで目標を共有し、それぞれの役割を明確化することで、達成に向けた意識を高めます。
目標達成までのプロセスを可視化し、進捗状況を定期的に共有します。
定期的に目標達成に向けた振り返りを行い、改善点を洗い出します。
変化に柔軟に対応できる組織づくり
定期的に変化に関する情報を共有し、変化に対応する必要性を認識させます。
新しい知識やスキルの習得を奨励する制度を設け、社員の自己成長をサポートします。
変化に対応するためのチームを組織し、様々な視点から課題解決に取り組みます。
「続ける思考」を組織に浸透させるための継続的な取り組み
これらの取り組みを単発で終わらせるのではなく、継続的に行うことが重要です。人事部門は、PDCAサイクルを回しながら、組織の状況に合わせて施策を改善していくことが求められます。また、経営層も率先して「続ける思考」を実践し、組織全体で共通の価値観を醸成していくことが、企業の持続的な成長には不可欠です。
「続ける思考」が組織にもたらす未来
企業が「続ける思考」を組織に浸透させることができれば、社員一人ひとりが成長し続けるとともに、組織全体の競争力も大きく向上するでしょう。その結果、企業は持続的に成長し続け、社会に貢献する存在として、その価値を高めていくことができるのではないでしょうか。

階段を一歩ずつ上る姿や目標に向かう過程のイメージです。「続けることは楽しくポジティブなプロセスである」という本書のメッセージを伝えるものです。
