大阪 天見温泉 その2 ~「波乱万丈の建築物語 よくぞ残ってくれました」 ~ 辰野金吾設計の宿「南天苑」歴泊記 2026.2.19-20 ~「文化財に泊まりたい。」ファイルNo.16
その1のつづき
富田林寺内町の散策を終えて14時半。天見温泉「南天苑」に向かう。
南天苑があるのは河内長野。富田林の隣の街だ。
ちょっと道(曲がり角)を間違えたりしたが、概ね予定通り15時半ちょっと前に到着。

さて、南天苑はあの辰野金吾の設計した宿として有名だ。
ちなみに辰野金吾は東京駅や日銀本店など主に西洋建築を設計した日本を代表する建築家。現存の和風建築は3例のみで希少。特に奈良ホテルが有名だが南天苑もその一つ。
南天苑の現在までの歩みはちょっと複雑。
元は堺の温浴施設「潮湯(うしおゆ)別館 家族湯」として辰野金吾が本館(大浴場)と一体的に設計したものらしい。下の写真を見ると建物の外観と位置関係がわかる。

潮湯本館(中央)と別館家族湯(右)
本館は左右シンメトリーの洋風で、これぞ辰野建築って意匠。カッコいい。そしてその右側。正面から見ると本館にちょっと被るように和風の別館(今の南天苑)が配置されている。
それにしても「個々にはそれぞれカッコいい建物だけど、全く趣の異なる洋風と和風の建物を、被るほど近くに並べた彼の真意や如何に」と思わなくもない感じだけどね。
それは置いておいて、当時はこの一帯には「潮湯」の他にも水族館もあり、南海電鉄の肝煎りの一大レジャーランドだったらしい。ところがあの室戸台風に被災して本館も別館も倒壊してしまった。

南海電鉄の「大浜汐湯堺水族館」案内図
左側が潮湯、右が水族館
その後、天見を温泉郷に仕立てる計画をした南海電鉄が「潮湯別館」の部材を回収し、この地に温泉旅館として移築改修。「松虫花壇別館」の名で開業したがやがて戦争の影響で閉業を余儀なくされた。それとともに、この建物の経歴も忘れ去られていった。
(なお、本館は倒壊後さらに戦禍で完全に焼失したらしい。その意味では別館は戦禍を免れたというわけだ。)
しばらくの空白期間ののち、現店主の先代が、建物の経緯や事情は全く知らぬまま譲り受けて開業したのが「南天苑」。先代はそんな貴重な建物とは思わぬゆえに古めかしく見える内装を部分的に改装してしまったのだ。
そうした経緯が専門家の調査により判明したのは現店主と女将(二代目)が先代から引き継いだ後のこと。まさに青天の霹靂だった。
幸い先代による改装は古い壁などを化粧板などで覆い隠す簡易なものであったため、専門家と相談し、なんとか復元し現在に至る。
以上、波乱万丈、なかなか大変な経歴を持つ建物なのである。「よく残って(残して)くれました」って感慨無量なのだ。

我は現女将さん出演のTV番組のビデオが宿のHPに添付されていたのでそれを見て知った。女将さん大奮闘だったようだ(笑)。
という訳で、現在の建物の内部(内装)は南海電鉄が元家族風呂(複数の個室風呂)であったものを、旅館の客室に改修しているが、外観や躯体は辰野金吾の設計意匠が元に近い姿で復元されている(と文化庁が認めている)。
内装については元(風呂のころ)の意匠がどの程度残っているのか不明だが、風呂から旅館への転用の事例としてそれはそれで面白そうだ。

さて、駐車場から赤い橋を渡って玄関に向かう。
落ち着いた趣がある構えで、期待できそう。
早速チェックインだ。

玄関でスリッパに履き替え、囲炉裏の部屋の前から廊下を左奥に数メートル進む。 仲居さんに案内されたのは1階「東雲(しののめ)」。

正面の暖簾までが本館で文化財だ。
暖簾の奥には移設後に増築された共同洗面・
トイレ・大浴場などがある。
「東雲」や「六歌仙」にはトイレや洗面は
付いていないので近くてありがたい。
「東雲」の部屋に一度入ったものの、「あれッ。電話で六歌仙が第一希望みたいな話しなかったけ?」。
そんな我のトボケタ問いに「お客さんは建築が趣味とのことでしたので、数寄屋の意匠のイイ方の部屋にしました。」と、まるで用意していたように仲居さんが間髪ナシに返答してくれた。
後から女将さんにも話を伺ったが、辰野金吾の建築好きの客も多く、基本的にそういう客にはそういう対応をしてくれているらしい。建築オタクに優しい宿だ。
ちなみに今回はお得な「お一人様用プラン」で宿のHPから予約。部屋は本館1階の洗面・トイレなしの6畳間。3,4室ある部屋のどれかで、指定はできないことになっている。どの部屋になっても文化財の建物の部屋だし、お得な分、希望がかなわなくても文句は言えないのだ。
ネット予約を入れたら、直後に宿から確認の電話をいただいたので、その折にダメモトで、文化財の建築が趣味なことと、ネットで見た限り良さげな六歌仙か東雲が希望といったことを伝えてあったというわけだ。
宿の対応を疑うようで恐縮だが、そこはオタク根性。実際に六歌仙の部屋がどうなのか気になる。案内の仲居さんに、向かいの「六歌仙」を見せてもらえるか聞いたところ、今ならOKとのこと。ということで、「六歌仙」をチラリと覗かせていただいた。


なるほど、ナットク。こっちも悪くはないけど、さっきちょっと入って見ただけだが、「東雲」の方が造作がイイ感じなのは確かだ。宿の対応に偽りナシ。我の趣味を理解していただき感謝。


ダイレクトに本間じゃないのはイイ



この向こうは廊下。
実は廊下側には仕掛けがあるのだが
それは後のお楽しみ
室内をキョロキョロしてたら若い仲居のお姉さんに「お茶を淹れますから座ってくださいね」と窘められてしまった(笑)

みたいな感じ よくわからん(笑)
仲居さんが食事やお風呂の口上し終えて退室したら室内キョロキョロ再開だ。


材も凝っていて趣あり


部屋は広くはないけど、広縁と次の間もあるので狭さも感じない。 何と言っても庭に出られる広縁がある。
しかも、この庭は塀で隣りと仕切られてる。「東雲」専用。 プライベートガーデンなのだ。この部屋に入ってから知った、うれしいサプライズ !

クローゼットはなく、右の洋服掛けを利用。
角部屋だから開口部(窓)は2か所。でもこっちからの眺めは風呂の壁のみ。しゃあない。
風呂と言えば、昔の家族風呂の様子と現在の建物とを比較する面白い資料があったので拝借する。

家族風呂だったころの中の様子が伺える

赤丸が「東雲」の部屋(嬉)。
矢印は玄関。緑がフロント。青は広間だ。
我の泊まっている部屋「東雲」などを分かりやすく記してみた。元は何かの冊子の複写のようで、かすれて見にくいが、間取りや雰囲気は伝わってくる。
「東雲」クラスの部屋が標準で、それより広い部屋がデラックスといったところだろうか。広間は当時は遊技場(ビリヤード⁉)だったことも分かる。
図の左上の一コマは、広い浴槽に大人数で入っている感じなので、本館(大浴場)の中の様子なのかもしれない。
ひとまず、これにて「東雲」の観察は終わり。
続いて、明るいうちに外に出て辰野金吾作「南天苑」外観の鑑賞&撮影会だ。



なかなかカッコいい構図


枝はシャアナイ

近い特徴的な大屋根







写真は撮っていないが、
背後の方向に離れの「清流亭」がある




破風がカッコいい



外観鑑賞&撮影会は暗くなるまでいったん中断。ここからは中に入って館内探索に移行 だ。





下りるとフロントへ付近。
この壁(左)の装飾も引き継いだ当初は
化粧板で覆ってあったらしい

階段がもう一つ(3つ目)
竹を上手く使った意匠。
この階段を下りて1階広間の前に出る 。

以上で館内探索は終了 。ちょっと淡泊な探索のようだけど、このあと2階のお部屋拝見の時間を別枠でとってあるのだ(笑)。ということで、いったん東雲の部屋に戻る 。






ワレが完全に独占 (嬉)

向こうからも見えてる。 でも 満足。

時刻は16時半。身体も冷やしてしまったし、そろそろ温泉行こうかな。
次の間で浴衣に着替えていざ風呂へ。その前にスマホを持って、いつもの撮り忘れ防止のパシャリ癖。


廊下へ出て暖簾をくぐって男湯へ 。



先客が2人いたけど、ほどなく退出。

喉の調子も音響もヨシ

気分爽快で東雲に戻る。

ここは、とりあえずビールってところだが、本日は缶酎ハイ。天見に来る途中のセブンに寄ったのだが、お気に入りビールがなくて缶チューハイに変更した次第。
チューハイ飲んでのんびりしていると、若いお兄さんが来て、空いている2階の部屋を案内してくれるそう。実は、チェックインのときにお願いしていたのだ。
お兄さんに続いて2階へ。





「東雲」の方がイイかも。
本当は2階の8畳くらいで、意匠がそこそこ良くてトイレ洗面付きの部屋が良かったんだけど、この宿の料金体系では一人で泊る場合でも2人として予約(2人分の料金)が必要になるそう。
さすがに料理代が無駄になるのでやめた次第。でも、正直あまり期待していなかった「東雲」がイイ部屋だったので結果オーライだ(喜)。

この部屋だけは2階で唯一、お一人様でも一人分の(東雲と同じ)料金で泊れる。なぜなら本間4.5畳。ちょっと狭いのだ。

意外に快適かも。
余計なお世話だけど、布団敷ける⁉
続いて真逆の広さの「四方山」。本間12畳と次の間4.5畳でトイレ・洗面付き。

この部屋は角部屋で眺めも良くていいんだけど、我的には意匠が淡泊なので広さが際立ってしまう。実際、一見したところ広縁との間には仕切れる障子も襖もないようだから、合わせてなんと15畳の広さだ。


定員は6人となっているから、グループ客が適度にワイワイやるにはいい感じの部屋だ。宿の紹介では四季折々の窓からのパノラマ、特に桜の時期が推しらしい。さもあらん。

以上、2階のお部屋拝見は終了。お兄さん、ありがとうございました。
ちなみに8畳くらいでトイレ洗面付きの部屋は満室で見学できなかった。でも翌朝、女将さんがこの宿一番人気の部屋「泉灘」を案内してくれた(嬉)。その件はまた後で。
さて、時刻は17時半を回ったところ。そろそろ薄暮の時間。再度外に出て外観を楽しむことにする。
まだ、ちょっと明るいけど趣は悪くない。今回も反時計回りで パシャリしていく。













ちなみに正面手前の窓際テーブルが
明日の朝食の我の席。
でもこの時点では知らないよ(笑)

最後の ナイス パシャリ
以上、薄暮の散策終わり。
もうすぐ18時。夕食の時間。夕食はおひとり様の部屋食だーッ! よーし! 飲むぞー! 食べるぞーッ!
その3につづく
※画像の引用は本文に記載の通り
その他の画像は滞在時に撮影
