関係人口の失敗例〜20の想定から学ぶ舵取りのコツ〜
この文章は、自治体から内閣府に出向している筆者が、日々国の施策と向き合う中で、「関係人口」という考え方を少しでも分かりやすく伝えたいと思い、主に公務員向けとして綴ったものです。
文中に登場するエピソードはすべてフィクション(作り話)ですが、自治体職員なら思わず「あるある」と感じるような事例を想定しています。失敗例や勘違いのストーリーを通じて、関係人口の取り組みを進める上でのヒントやノウハウを、あえて逆説的な形で詰め込みました。
関係人口は、どこか分かりにくく、つかみどころのない言葉だと言われることがあります。このテキストを読み終わるころには、その輪郭が少し見え、あなたにとって今よりも身近なものになっていればうれしく思います。少々長いですが、ぜひお付き合いください。
※ここで述べる内容は、所属する組織の見解ではなく、あくまで筆者個人の考えによるものです。また、特定の自治体を示すものでもありません。
第一部 思い込み編
―誤解を抱えたまま迷走するー
1 ふわっと捉えている
「関係人口って聞いたことあるけどよく知らない。担当は一応います、わたしは関係ありません。」
「自分には関係ないし、別の人の仕事だ」といった、いかにも行政的な振りが生じがち。でも、実は関係人口の考え方は、多くの部署に関連のあること。言葉のもつ余白に騙されてぼんやりする前に、その中身をしっかりと見つめてみよう。
2 移住の赤ちゃんと思っている
「関係人口は移住の手前です、図にも書いてある。」
「交流人口→関係人口→定住人口」という図解がある。しかし誤解を恐れずに言うと、全ての関係人口にこのフローがあてはまるわけではない。「旅行に来て、関わりを持つきっかけがあり、移住します」といった流れは理想的かつ美しいが、そんなにうまくハマるだろうか。移住を意識しすぎるよりも、多様なフックと関わり方を用意することが大事。住民票を移さなくとも、まちと深く関わることは充分にできる。
3 無駄な投資でしかないと思い込む
「住んでいない人にお金をかけるなんて無駄、理解されない。」
伝わらないというのは上司か、幹部か、それとも議員さんだろうか。「まちに住んでいないひと(非住民)」がまちで活躍するというイメージを持てなければ、うまく説明できないだろう。まちには、日々様々な人が行き交っている。仕事をしに来る人も、遊びに来る人も。住所を置いている・置いていないにかかわらず、様々な関係性が、そこにはある。
4 まちの人口減少から目を背ける
「人口減っても関係人口増えれば大丈夫、まちの継続性を担保できる。」
「まちの継続性を保つには関係人口しかない」と言うのは簡単だけど、それを現実にできるかどうかは、あなたの舵取り次第かもしれない。また、人口を増やすための努力ができるのであれば、それも諦めるべきではない。
5 パイの奪い合いではないと信じる
「関係人口は、移住と違って取り合いではありません。」
関係人口は複数の地域と関わる人がいるため、重複してカウントされることもある。ただ、多くの地域と同時に関わり続けることには限界がある。結果として魅力のある地域に人材がどんどん集まっていくのではないか。選ばれる地域となるために、「どのような人と関わりたいのか」「どんな人に来てほしいのか」といったターゲットをしっかり持っておくことが大事。
第二部 戦略迷子編
―やっているのに成果が出ないー
6 謎の数字を足し上げてKPI達成
「県人会の人数とイベントの参加者数、移住相談の実績に、ふるさと納税の寄付者数も足して、ほら、今年も無事、目標達成。」
関係人口を測る指標は様々考えられる。関わりの濃淡を気にしなければ、手近な数字を積み重ねることもできる。しかし、それ自体に意味があるだろうか。目標設定は工夫したい。
7 メルマガ送ると登録者減る
「メルマガは若手担当で。少なくとも月イチ、あたり障りのないことで構いません。」
手軽にできる情報発信といえばメールマガジン。BCCで一斉送信。でも、てきとうなメルマガってすぐ要らないと思われがち。どんな内容だったら受け入れやすいか、誰向けのメッセージなのか、やり方はしっかり考えないといけない。
8 とりあえず新規予算
「新しい事業立てましょう、人気講師の想定で参考見積もりを。」
今までにないことだから、新しい事業をつくらなきゃいけない。近隣の自治体を真似して、あの講師を呼ぶとして。でも関係人口の取り組みは実は、既存の事業の延長線上にあったりする。てきとうにイベントをつくるのではなく、そこには過去の取り組みやターゲットを踏まえた戦略があるべき。
9 よその事例コピペ事案
「〇〇市が注目を集めてるからそれを参考に。とりあえずセミナー聞いてみよう。」
情報収集はよいこと。でも、それをそのままやればいいわけではない。成功に見えるものは裏に失敗もあるし、真似が正解とも限らない。もし同じ仕組みを取り入れるとしても、それが自身のまちにふさわしいかどうか考えなくては。
10 金が切れた瞬間止まる
「交付金を充当して、補助金を活用して。」
予算確保が難しいから交付金でやるというのは一つの選択肢だが、それだけでは継続性の視点が欠けてしまう。事業の意義をしっかり捉えつつ、根差した取り組みを検討していくべき。

第三部 組織崩壊編
―行政の中で孤立するー
11 担当者ひとりぼっち
「担当がお休みでわかりません、後日折り返します。」
担当者が一人で抱えている。問い合わせても担当しか分からない。関係人口担当のまわりに無関係な人物がいるのはすごくさみしい。果たしてその仕事はしっかりと引き継がれていくのだろうか。
12 協力隊に全任せ
「関係人口は協力隊のミッションです。」
地域おこし協力隊に全振りする。割り切りはよいが、協力隊だって元々よそから来た人だ。地域での人間関係が構築しきれていない弱さも当然ある。もしその運用でいくのであれば、地元民がしっかりサポートに入らないとうまくいかないだろう。
13 NPOに丸投げ
「地元のNPOに委託しています、詳しくはそちらに問い合わせを。」
アクセスしてくれた方に対して、事務的で冷たい印象を与えてしまう。仮に任せるとしても、そのつなぎ方やフォローは丁寧に行う必要がある。
14 観光と移住で押し付け合い
「交流人口は観光課、関係人口は移住課。」
役所内では、ときに仕事の割り振りで揉めがち。多いのは商工・住民・企画課など。でも、関係人口には縦割りでは捉えきれない要素もある。関連する部署間での連携ができると理想的。
15 財政担当とのバトルに勝てない
「事業の目的が不明。予算なし。」
その対象をふわっと捉えているから、予算要求で説明できず、続かない。感覚的なものでなく、その事業の必要性や成果をしっかり見据えたうえで挑むべき。
第四部 現場疲弊編
―人との向き合い方を間違えるー
16 ファンクラブの退会フォームがない
「ファンクラブの登録変更については直接連絡を。」
登録したら逃がさない、数が減っては困ってしまう。だからなのか、ボタン一つで退会する仕組みをつくらない。また、非アクティブ会員もそのまま放置しがち。結果として、ファンクラブの熱量は薄まっていく。
17 未来の関係人口にはやさしい
「ゼミ合宿を受け入れて、地域活性化の提案をしてもらおう。」
高校生の企画、大学生の合宿、これらはなぜか理解されやすい。でも、ほんとうに地域に必要なのは、いまの関係人口だ。
18 過剰サービスで疲弊
「名物の料理を、いつものあの人にお願いして。」
来てくれた人に厚いおもてなし。喜んでくれるけれど、心の距離は縮まらなくて、再訪には至らない。ちょっと疲れてしまった、次は断ろうか。そう、受け入れ側が無理すると長続きしない。何でもセルフでやってもらうくらいがいい。
19 地元キーマンに光を当てない
「あの人頑張ってるらしいけど、ひとりでやってるから。」
地域でがんばっている人、知りながらも特に何もせず放置。ほんとうは、それらのキーマンと外の人が積極的につながってほしいのに。
20 関係人口が静かに去っていく
「LINE登録お願いします、アンケートです、イベント参加募集中、農業手伝いやりませんか。」
一方的なコミュニケーションだけでは、ひとは離れていく。関わり方や役割などをしっかりと設計することが大事。

第五部 まとめ
―関係人口との向き合い方―
ここまで、20の失敗例(のようなもの)を並べてきました。関係人口には必ずしも正解のパターンがあるわけではありません。しかし、これらの事例を通して、大切にしたいポイントは見えてくるかと思います。
・住民票の有無にとらわれない
まちとの関わり方は移住だけではありません。住んでいなくても、応援したり、一緒に活動したりすることはできます。外から関わる人も、まちづくりの大切な仲間です。また逆に、住んでいる人へのアプローチを強化することも考えられます。
・数よりも関係の深さを意識する
関係人口の登録者数やイベントの参加者数だけでなく、「どれだけ彼らと継続的な関係が築けているか」という視点を持つことが重要です。
・誰に関わってほしいのか明確にする
地域にとっての理想の関係人口像はあるでしょうか。どんな人に、どのような形で関わってほしいのかを考え、その人に合わせたアプローチを検討していきましょう。
・関わるきっかけを丁寧につくる
一方的な発信ではなく、対話の場や交流の機会など、人と人がつながる仕掛けを積み重ねていくことが大切です。ひとつひとつのコミュニケーションの質を上げていくこともポイントかもしれません。
・続けられる仕組みをつくる
単発のイベントで終わらせず、継続的な関わりにつながる仕組みを用意しましょう。また、一人ひとりが自分らしく関われる役割や、活動の入り口を分かりやすく示すことも重要です。無理なくまちの仲間として巻き込んでいきましょう。
・事業の目的をしっかり説明する
なぜやるのか、誰を対象にしているのか、どんな効果を目指しているのか。関係人口の取り組みは特に、その目的や成果を分かりやすく伝えることが求められます。
・行政全体の視点で考える
関係人口は特定の担当課だけの仕事ではありません。観光、産業振興、移住、地域づくりなど、さまざまな分野とつながるテーマとして捉えることが大事です。また、そこには戦略性も求められます。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
関係人口の分かりづらさの中には、地域らしいやり方を探す余白があると感じています。人口減少が進む中にあっても、さまざまな工夫によって人との関わりを深め、新たな力を生み出していく。そうした挑戦に前向きに取り組む仲間が、少しでも増えていったらうれしく思います。
もしかしたら、難しい舵取りかもしれません。それでも、本質的なところを少し突き詰めていけば、理想に近づくことはできるでしょう。
さあ、日々の「あるある」を爽やかに飛び越えて、よりよいまちづくりを目指していきましょう。
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