大河ドラマ感想記『豊臣兄弟!』竹中半兵衛という男
大河ドラマ感想記「豊臣兄弟!」
第一回:二匹の猿
第二回:願いの鐘
第三回:決戦前夜
第四回:桶狭間!
第五回:嘘から出た実(まこと)
第六回:兄弟の絆(きずな)
第七回:決死の築城作戦
第八回:墨俣一夜城
第九回:竹中半兵衛という男
第十回:信長上洛
はじめに
今回は特に驚きと逆転の展開が盛り沢山だった。すべてを取り上げると膨大な量になってしまうため、とりわけ印象深かった部分に絞って書き記しておきたい。
無理難題の真意
「兄者が次から次へと無理難題を押し付けてくるもんだで、気落ちしてる暇などないわ。」
直が死んでから十日が経過した。
許婚がこの世を去ったのだから、常人なら一週間以上寝込んでも仕方がない。小一郎は、竹中半兵衛調略という信長様の下知に身を投じることで気を紛らわせた。いや、兄の藤吉郎が弟を気遣い、あえて美濃国の山奥への同行を促したのだろう。そう思っていた矢先、藤吉郎が本音を吐露した。
「無理難題を押し付けて、生きる張り合いを与えるのじゃ。」
休ませるのも正解だし、仕事を与えるのも正解である。美濃国の山中にて、藤吉郎なりの優しさが垣間見えた。
戦国時代の主従関係
「竹中半兵衛を殺せ。」
織田信長の侵攻で美濃国が激動に揺れる中、斎藤龍興は安藤守就にこう言い放った。
安藤守就と竹中半兵衛は「舅と娘婿」の関係だ。守就は娘を半兵衛に嫁がせている。いくら殿様の命令とはいえ、娘婿をそう簡単に殺せるものではない。
織田信長の家臣団を見ていると、当時の主従関係を大きく誤解してしまいがちだが、戦国時代において殿様と重臣の関係はほぼ対等であり、下剋上や裏切りが劇中で描かれているように珍しいものではなかった。竹中半兵衛が主君を諌めるために稲葉山城を奪取した騒動も、切腹ものと受け止める者は少なく、横暴だった龍興が悪いという見方と、難攻不落の城を少人数で攻め落とした半兵衛の手腕を称える声が一般的だ。
時代劇の制作陣は、戦国時代の背景を忘れて、つい江戸時代の価値観と混同してしまう。もっとも、徳川幕府の成立以降であれば、主君の城を奪うような騒動を起こせば、改易や切腹は免れない。俗にいう「お家騒動」である。
美濃三人衆の決断
視聴者の視点からすると、斎藤龍興も織田信長も、人使いの荒さや気性の激しさにおいては大きな違いがあるようには見えない。特に安藤守就に関しては、裏切らずに美濃国を守り抜くという選択肢もあったように思える。龍興には描かれていないダメなところが他にも多々あったのだろう。きっと、それらが積もり積もった末の決断だったに違いない。
竹中半兵衛を斬れ。
そんな安藤守就への理不尽な命令こそが、美濃三人衆を織田方へ寝返らせる決定的な引き金となったのである。
脚光を浴びる菩提山城
劇中では奇抜な使われ方をした菩提山城だったが、時を経て「関ヶ原の戦い」では要衝として大きな注目を集めることになった。
竹中半兵衛の嫡子・竹中重門は当初、西軍に属していたが、徳川四天王の一人・井伊直政の仲介を経て東軍へと鞍替えした。彼は居城である菩提山城を徳川家康に提供し、合戦後、伊吹山中に逃亡していた小西行長を捕縛して家康のもとへ送り届けるという手柄を挙げ、所領を安堵された。竹中氏は大名にこそならなかったものの、旗本交代寄合として幕末まで家名を保ち続けたのである。
ちなみに「鳥羽・伏見の戦い」で竹中半兵衛の子孫が歴史の表舞台に立つことになるのだが、話が長くなるので割愛したい。
俺より強い奴に会いに行く
「真に…強いと思える相手とは、お味方になるよりも戦ってみたかった。」
『ドラゴンボール』の主人公・孫悟空も考えていそうな竹中半兵衛の台詞だ。戦国シミュレーションゲーム『信長の野望』で、あえて弱小大名を選ぶプレイヤーがいるが、半兵衛も同じ心境だったのかもしれない。
「桶狭間の戦い」のように、美濃三人衆に見限られた斎藤龍興を勝たせる秘策が、彼の頭の中にはあったのだろう。しかし、龍興は半兵衛を信じることができず、稲葉山城を捨てる道を選んだ。勝つ見込みがゼロとなった以上、半兵衛は藤吉郎と小一郎の誘いに応じるしかなかった。
がっかりした様子の半兵衛だったが、真に強いと思える敵が、今後も続々と豊臣兄弟の前に立ちはだかるはずだ。半兵衛が求める「刺激的な戦い」は、これから続いていくことになるだろう。
直の墓に咲く彼岸花
植物に疎いので間違っていたら申し訳ない。
直の墓の周りに咲いている植物が彼岸花であるならば、それは明らかに意図的な演出だろう。彼岸花には毒性があり、土葬された墓が獣に掘り起こされるのを防ぐため、墓地の周辺によく植えられていた。劇中でお葬式の描写はなく、火葬された可能性もあるので断言はできないが、実用面というより、風習として彼岸花を周囲に植えたことも考えられる。
いずれにせよ、言葉にせず植物一つひとつにまで明確な意味を持たせるあたりは、さすが大河ドラマである。
これで万事円満でござる
絶対に祝言に来ないと言い張っていた直の父・坂井喜左衛門。悲しみに暮れていた小一郎に「銭をよこせ」と、突拍子もないことを言い放つ。
皆の気が済まないと満足しない小一郎。「もし義理の父となる坂井が祝言に来たら話を最後まで聞き、どっちも笑える道を見つけてくれる」と直は父に話していたのだ。
直「争い事はなくならないかもしれないけど、無駄な殺し合いはなくすことができるって。とことん話し合って、考えて考えて考え抜けば必ず道はあるって。」
小一郎の夢に、へそくりの全財産五百文を賭けた直。いわゆる「お花畑」とも言われかねない平和理想論と大きく違うのは、小一郎がそれを実践している点にある。
直が父に語った言葉は、いわば小一郎の公約であり、本作における重要な伏線となるだろう。逆らう者に容赦しない信長と、その手足となって動く兄・藤吉郎。彼らの所業に翻弄されながらも、話し合いの道を探し続ける小一郎の道のりは、まさに「蛇の道」のように険しい。
直はこの世を去ったが、彼女の言葉はこれからも小一郎の心を支え、生きる指標となるに違いない。
むすび
今回は、冒頭から細かな「どんでん返し」の連続で、非常に見応えがあった。竹中半兵衛という知略の天才に触れ、制作側の熱量がさらに高まったのか、演出や脚本の密度が一段と深まったように感じる。
直が亡くなった前回は、キャスティングの裏事情などが頭をよぎり、涙を流すには至らなかった。しかし、小一郎が直の父親と対面したシーンでは、さすがに目頭が熱くなった。愛娘を失った悲しみは、小一郎と同じか、あるいはそれ以上であったはずだ。それでも励ましたのは、小一郎が直の愛した人であったからに他ならない。
次回は信長上洛ということで、派手な戦は一旦お休みとなる。放浪の室町幕府将軍・足利義昭がどのような立ち回りをするのか楽しみにしたい。
追記

『テレビドラマ感想文』『ドラマ感想文』応募作品の中でスキの週間一位を獲得しました。皆様ありがとうございます。感謝!!

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《了》
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