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🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 42〜『キャラメル・ママ』という名の風景画

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


ティン・パン・アレー 『キャラメル・ママ』 (1975年)


キャラメル色の音、始まりはインストから

アミ「マスター、ユキヒロさん。このアルバム“キャラメル・ママ”って、名前からして甘そうですよね。でも最初の曲『キャラメル・ラグ』は歌なしなんですね?」
カズヒコ「うん。あれはインストゥルメンタルで始まるんだ。ピアノのやわらかい音が印象的で、まさにキャラメルをゆっくり溶かしてるみたいな感じ。静かな導入が粋だよな。」
ユキヒロ「あれは松任谷正隆のセンスが光ってるよ。彼のピアノって、空間をやさしく染めるというか、構成も緻密なのに柔らかい。」
アミ「続く『チョッパーズ・ブギ』、いきなり弾けてますね。ファンキーで楽しくて、思わず手が動きそうになります。」
カズヒコ「それは鈴木茂のギターと林立夫のドラムがリードしてるからだな。あの2人のコンビは、70年代の日本のグルーヴを作ったって言っても過言じゃない。」
ユキヒロ「ティン・パン・アレーって、はっぴいえんどを経て再結成された“裏方の名人たち”って感じだけど、このアルバムでは完全に主役に躍り出てる。細野晴臣もベースだけじゃなく、全体の音作りの屋台骨を担ってるんだよね。」
アミ「なるほど、それぞれが個性派。でもバラバラにならず、まとまってるのがすごいですね。」
カズヒコ「『はあどぼいるど町』なんか、まさにそんな“4人の色”が混ざった曲だよな。歌詞の感じも面白いし、ギターとリズムがくすぐるように絡んでくる。」
ユキヒロ「『月にてらされて』もいいよね。夜を感じるリズムとコード進行が素晴らしい。細野さんの低音がじんわり効いてる。」

歌とインストが交差する多彩な世界

アミ「“チュー・チュー・ガタゴト’75”って、曲の名前がユニークですけど、聴いたらホントに列車に乗ってるみたいでした。」
ユキヒロ「音の模写がうまいよね。だけど模写だけじゃなく、ちゃんと歌が乗って、ひとつの“物語”になってるのがさすが。」
カズヒコ「『シー・イズ・ゴーン』はアーバンで哀愁があるんだよな。1975年の東京って、こんな雰囲気だったのかなって想像させる。」
アミ「私、『ソバカスのある少女』も好きでした。なんか絵本みたいなタイトルで、メロディもかわいい。」
ユキヒロ「あれは細野さんの世界観だね。ポップなんだけど、絶妙に“はみ出してる”ところがクセになる。」
カズヒコ「『ジャクソン』はコーラスが楽しいな。複数の声が遊んでる感じで、どこか洋楽のカバーっぽい雰囲気もある。」
アミ「“イエロー・マジック・カーニバル”ってタイトル、なんか先取りしてません?YMOみたいな響き。」
ユキヒロ「それ、鋭い。後のYMOにも通じる、ラテンやエキゾチカのテイストが垣間見えるんだよ。細野晴臣の“音の冒険”が始まってるんだ。」
カズヒコ「そして最後の『バラード・オブ・アヤ』で再びインストに戻る。イントロとエンディングに“歌のない音楽”を持ってくることで、全体が映画のような構成になってるんだ。」
アミ「インストで始まって、インストで終わるって、静かな本みたいですね。読後感ならぬ“聴後感”が心地よいです。」
ユキヒロ「4人のメンバー全員がプロデューサーみたいな意識で作ってるから、曲順や構成にも抜かりがない。この時代の日本音楽における、ひとつの完成形だと思うよ。」
カズヒコ「誰かが突出するんじゃなくて、全員が自分の役割を知ってて、それぞれが輝いてる。その集合体がティン・パン・アレーなんだよ。」


次回作・・・

デヴィッド・ボウイ「ダイアモンドの犬」

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。

※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
 

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