ぼくものがたり【第8回】戦時下の「隣組」の真実――助け合い?いや、見張り合いだった
隣組(となりぐみ)という組織が、国によって全国につくられた。
ご近所同士、互いに助け合う――という名目で。
5~10軒で一組として編成された。
国からのお達しや配給は、まず隣組を通す。
生活のほぼ全てをここが仕切った。
ぼくの家も、もちろん隣組に入った。
加入を拒否したら、非国民となってしまうし、
また、生活するためにも入らなければならなかった。
そのころ、米や味噌、着る物も、店ではほとんど買えなかった。
まず兵隊さんに送る決まりだったからだ。
商品が入ったという噂を聞いて買い物に行くと、
どこも大行列で、国民はヘトヘトに疲れていた。
だから国は、
「チケットと交換に、みんなにちゃんと配るよ」
という配給制度を作り、「隣組」に取り仕切らせた。
隣組に入らなければ、配給をもらえなかった。
NHKでは隣組の歌が作られて、国民歌謡として流行ったんだ。
テンポの良い、明るいメロディーだから、僕もよく口ずさんだ。
♬ とんとん とんからりと 隣組
格子(こうし)を開ければ 顔なじみ
まわして頂戴 回覧板
知らせられたり 知らせたり ♬
(※ド、ド、ドリフの大爆笑~♪で歌ってみて)
だけど、この軽快な歌は、隣組の厳しい面を隠して、
国民を自発的に協力させるための演出でもあったんだ。
女の人たち、もちろんお袋も、隣組の活動に参加させられた。
白いかっぽう着に「愛国婦人会」なんて書いたタスキをして、
「ぜいたくは敵だ!」
「欲しがりません勝つまでは!」
と、町を回った。
「銃後(じゅうご)の守り」という言葉も飛び交った。
この「銃後」は、精神的にみんなを縛りつけた。
戦地で兵隊さんが頑張っている。だから、その後ろに立って、戦地に行けない者はしっかり戦争に協力しろ、と。
そうしないやつは非国民だ――
非国民にならように、思われないように、みな必死になっていた。
隣組の中で出兵する人が出たら、「千人針(せんにんばり)」を贈ることも、女の人たちの重要な役割だった。
お袋も布と針を持って、近所をまわった。
大きな布を用意して、赤い糸で一人一針を縫って玉止めをしてもらう。
千人分で弾が当たらないと信じられて、お守りとして贈ったんだ。
近所を回ったり、道を歩いている人にもお願いをするんだ。
「一張りお願いします!」って、駅前に立ってお願いしている人もいた。
今だと信じられないよね。
でも、「必ず生きて帰ってきてほしい」という、家族や近所の人の切実な思いが伝わって、みんな協力してくれたんだ。
防火訓練も、隣組の重要な活動だった。
とにかく、男も女も、老いも若きも総出で、バケツリレー。
「一、二! 一、二!」
と声をそろえて水を運び、油の火には砂をかけた。
火叩き棒(はたきのように縄を棒に括りつけたもの)で、炎をたたき消す訓練もした。
国からは、「逃げるな、消せ」という教えがあって、
消火活動をしないことも非国民とみなされたから、
訓練には力が入っていた。
小学生でも高学年の子どもたちは参加していた。
僕も参加したかったけれど、まだ5、6歳だったから、
応援だけしていた。「がんばれー!」って。
防火用の水がめが、僕の家の前にあった。
1メートル四方はあったから、水遊びにちょうどよく、暑い日にはそこで泳いだりもしていた。
でも、隣組の人に見つかると、
「そこは遊ぶとこじゃないよ!」
なんて、怒られたこともあった。
赤紙(召集令状)をもらった出征兵士の壮行式も、隣組の仕事だった。
誰がいつ出征するかは、すぐに隣組に知らせが入った。
すると婦人会で家々を回ったり、回覧板を回したりしてみんなに知らせた。
隣組で、家だとか、お店など、会場を決めて、式の設営をする。
「祝・出征○○君」なんていうのぼり旗や、日の丸をいっぱい飾った。
そして、なるべくおおぜい集まって、軍歌を歌って、万歳三唱するんだ。
出兵は名誉なことであり、
悲しみを押し殺して、お祝いとして送り出された。
「ご出征、誠におめでとうございます!」とか、
「お国のために頑張ってください」なんて言って。
不安や涙は、見せられなかった。
また、隣組は助け合いと同時に、「見張り合い」の場でもあった。
贅沢は国に対する裏切りとされ、ちょっとでもおしゃれをすると、
「愛国心がないのですか!」と責められた。
戦争に否定的な発言は密告されて、
「国賊(国を滅ぼそうとする裏切者)」として取り調べられた。
訓練や歌や行事はにぎやかだったけれど、
周りの空気は次第にピリピリしていった。

後列中央がお袋と隣組の人たち。 両端は愛国婦人会のタスキ姿。
緊張感が漂う集合写真。
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