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ぼくものがたり【第46話】追跡、自転車ドロボー――ぼくらが見たもの

僕の家の前には、八百屋さんがあった。
当時はスーパーなんてないから、
みんなその八百屋さんへ、毎日のように買い物に来た。

アイスやジュース、ガムなどのお菓子も売っていたので、
大人も子供も集まっていた。

ある時、その八百屋のおじさん、久吉さんの自転車を盗んだ男がいた。
店の前に置いていた自転車を、
お客も子供たちも大勢いる前で、パーっと盗んでいった。

すると子供たちが、
「ドロボー! 自転車ドロボーだー!」
って怒鳴って、ずーっと追いかけた。

それに気づいた久吉さんやお客さんも追いかけて、
子供たちと大勢で、
「ドロボー! 待てー!」
って叫びながら、駅近くのドブ川まで走ったんだ。

今でも寿々木園という釣り堀がある、あの通りだ。

そうしたら、ちょうど反対からくる人がいて、
「そいつ泥棒だ! 捕まえてくれー!」
って言ったら、

その男の人も、
「こいつですかー!?」
と叫びながら聞いてきたから、

みんなが、
「そいつだ! そいつだー!」
と叫んだ。

そうしたら、その男性は、猛スピードで走っている自転車に
バーンと体当たりしたんだ。

泥棒は吹っ飛んで、横に流れていたドブ川に落っこちた。

もう逃げられないと観念して、泥水でずぶ濡れになって、
「すいません、すいません!」
と必死に謝っている。

とにかく、泥棒をドブ川から出してやった。
泥棒はずーっと、
「すいません、すいません……」
と謝っている。

それを見た久吉さんは、優しい人だったから、
「ドブに落ちたんじゃ仕方ない。
お前もあれだろ、金に困って、食うものがなくて、仕方なくやったんだろ?」
って言った。

久吉さんはもともと警察官だった人だから、
他の人が、
「交番まで連れていきましょうかね」
と言ったけれど、

久吉さんは、
「いいや、いいや。自転車は戻ったんだから、いいや」
って言って。

そしたら泥棒は、何回も、何回も謝ってお辞儀して、
久吉さんが見えなくなるまで、
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
と謝っていた。

僕たちも最後まで見てたんだけど、
「まぁ、あんだけ謝ったんだから、許しても仕方がないかな」
なんて言って。

おじさんも、
「鍵をかけないで置いておいた俺も悪かったんだ」
って言ってた。

そして僕たちは、その自転車ドロボーが、
汚れた顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、
とぼとぼ帰っていく後ろ姿を見送った。


自転車泥棒も流行っていた。
自分が乗るためじゃなくて、売ってお金を儲けるため。

「自転車泥棒」っていう映画にもなったんだ。

とにかく、置いておくと無くなっちゃってた。
今、自転車なんてどこに置いたって、盗む人なんかいないけど。


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