ぼくものがたり【第23回】疎開先での地獄のイジメ――子どもだって戦っていた
疎開先は、長野県の鹿教湯(かけゆ)温泉。
ここには杉七の他に、杉一(杉並第一国民学校)も一緒に疎開した。
小さな温泉街には旅館が密集しており、
疎開学童は、全部で12軒の旅館に分かれて泊まっていた。
そのうちの6軒に、杉七の学童が入った。
僕としては、同じクラスの子と同じ部屋になりたかった。
でも2年生は、各部屋に1人か2人というように、
バラバラにさせられたんだ。
上級生と一緒の部屋になって、
上の学年の子が、下の学年の面倒を見ることになっていた。
でも、それが僕の、地獄の始まりだった。
同じ部屋となった6年生の一人が、僕を執拗にイジメてきた。
それからずっと、
イジメから逃れられない、悲惨な毎日が続いた。
上級生たちは、前の年の8月から、すでに10か月、疎開生活をしていた。
親元を離れた、軍隊みたいな生活の中で、ストレスが溜まっていた。
憂さ晴らしに、下級生や弱い子をイジメるやつが出てきた。
6年生のそいつは、僕を見るとイジメてきた。
仲間外れにして口をきかないのは、まだいい方で、
いきなり叩かれたり、つねられたり、
食べ物を取られたり、殴られたり、蹴られたりした。
僕のような大人しい子は、格好のえじきだった。
中でも、食べ物を巡るイジメが、いちばん辛かった。
そのころにはもう、田舎の鹿教湯温泉でも、食糧事情は悪かった。
畑で作った作物のほとんどは、軍や国にもっていかれた。
強制的に国が買い上げていたんだ。
ただでさえ食べ物の少ない小さな温泉街に、
さらに疎開児童が増えた。
食糧事情は、ますます悪くなっていた。
疎開先での食事は、明らかに下級生は少なかった。
上級生、とくに6年生は、疎開から帰れば、
「すぐに戦争に役立つ、即戦力」として、大切にされた。
「将来の労働力や兵力となる上級生には、
栄養をつけておくように」
そんな国の方針があったから、
先生たちは、上級生の体力を落とすなと、国から繰り返し言われていた。
そのため、食事は、まず上級生が優先された。
当時は「学徒勤労動員」といって、
小学生でも高学年は、軍事工場や畑仕事、
駅や郵便局の手伝いなどに、強制的に参加させられていた。
働ける大人たちは、みんな戦地に行ってしまった。
だから、小学生までが労働力にされたんだ。
僕たち低学年も、畑仕事や薪集めなどをさせられたけれど、
動きも遅いし、重たいものは持てないし、
あまり労働力にはならなかった。
だから、
6年生は食べたいだけ食べさせてもらい、
5年生は、その少し下、
4年生は、さらに少なく、
1~3年生は、ほんの少ししかご飯をもらえなかった。
お袋は「たくさん食べられるように」と、
大きなお茶碗を持たせてくれた。
でも、それは使わせてもらえず、
僕らは、湯のみ茶碗のような、小さな器を使わされた。
2年生の僕たちのご飯は、
その湯のみのような器に、ほんのちょっぴり。
大さじ山盛り2杯分ほどだった。
ご飯といっても、柔らかいお粥に、
芋の根っこや、菜っ葉、大豆、雑穀がまざっていた。
でも、6年生たちの器を見ると、違っていた。
お粥がお椀いっぱいに入っていた。
横から見ても、入っているのが分かる。
僕のお茶碗には、底にちょこんとあるだけだから、
横から見ても、中のお粥は、まったく見えなかった。
上級生のお粥の量が、
うらやましくて仕方なかった。
それなのに、僕をイジメていた6年生は、
「お前、お粥の大豆、食うんじゃねぇぞ!
全部、俺に持ってこい!」
と、毎日、命令した。
僕は、その6年生が怖くて怖くて、
お粥の大豆を全部残し、
ポケットに入れて、部屋に持ち帰って差し出した。
すると、
「少ねえぞ! テメェ、食ったろ!」
と、ぶん殴られて、蹴っ飛ばされて。
「食ってない!」
と、いくら言っても、ぶん殴られた。
また、僕らは上級生に、
「トイレに行った回数」を報告する決まりがあった。
トイレの回数が多いと、
「腹を壊している」と見なされ、
さらに食事量を減らされた。
「減らされた」と言っても、それはもうひどいものだった。
お粥というより、白湯のようなものしか、もらえなかった。
それなのに、6年生のそいつが、また聞いてくる。
「お前、今日、何回便所行った?」
「3回」
「ウソだ!」
そう言って、殴られた。
「4回」
「ウソだ!」
また、殴られた。
これを何度も繰り返されて、
26回まで殴られた。
そんなふうに、朝も昼も夜も。
たまに出るおやつも、
食べ物のほとんどを、その上級生に取られてしまう毎日だった。
だから僕は、
どんどん痩せていってしまった。
でも、地獄の日々は、
まだ始まったばかりだった。
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