ぼくものがたり【第17回】僕が見た特攻――“すごい”と思ったあの日
1月のある晴れた日。
その日も空襲警報は鳴り響いていた。
はるか上空をB29が編隊を組んで、10機ほど飛んできた。
そうしたら、日本の小さな戦闘機が飛んできて、
真正面から、胴体ごとB29に突っ込んでいったのが見えた。
まさに奇襲攻撃だった。
この光景は明るい昼間で、多くの人が見ていた。
この頃になると、空襲警報は当たり前になっていて、
避難せずに、そのまま作業を続ける人も多かった。
だから、体当たりの瞬間は、「おー」っと、一斉に拍手が起きた。
その小さな機体は砕け散って、
B29と一緒にクルクルと旋回しながら落ちていった。
空には色んな破片や部品がはらはらと舞い、
B29からは脱出用のパラシュートも落ちてきた。
それらは阿佐ヶ谷から歩いて10分ほどの成宗のあたりに墜落した。
墜落したところへも、大勢が見に行った。
でも僕は見に行けなかったんだ。
お袋が「危ないから」って。
見に行った人から話を聞いたら、
「すげぇや。ボンボン燃えてた」なんて言っていた。
僕も学校で、B29だ、ロッキードだ、グラマンだと、
敵機の見分け方を習っていたから、
小さな戦闘機が大きなB29を落としたのを見て、うれしくなった。
B29は、日本の戦闘機に比べてとても大きかった。
B29は全長30m、幅は43mもあるんだから。
それに比べて、
飛燕やゼロ戦といった日本の戦闘機は、長さ9m、幅12mくらいだった。
大人と赤ん坊のような大きさだった。
その小さな機体が、巨大な敵を撃墜した。
「すごいなぁ」と、思った。
けれどそのとき、亡くなった兵隊さんのことを哀れんだり、
悲しんだりする気持ちはなかった。
「よくやった!」って、思っていた。
パラシュートのアメリカ兵は、助かって手当を受けたそうだ。
日本軍では「特攻」といって、
飛行機ごと敵に体当たりする作戦が取られていた。
「生きて帰れないこと」を前提とした作戦。
だけど実際には、突っ込む前に撃ち落とされることも多かった。
また、パラシュートで脱出しようとしたけれど、
パラシュートが開かないで、落ちてゆく……
そんなやるせない光景もあった。
戦争が進むにつれ、日本にはもう攻撃に使える爆弾も弾もなくなっていて、
あるのは兵隊たちの“捨て身の勇気”だけだった。
特攻作戦はB29が姿を現すようになってから、
さらに激しくなっていった。
軍人の健作おじさんが、特攻は難しいんだと話していた。
1万mの上空を飛ぶ敵を落とすために、
機体をとことん軽くしなければならず、
帰還のための燃料も、脱出するための器具も、酸素ボンベもない。
暖房もない。
兵士たちは、寒さや暑さ、気圧と、重圧と、
死の恐怖と、すべてと戦わなくてはならない。
ふつうの人なら途中で失神してしまうと。
だから、特攻に選ばれた若者たちは、
精神的にも肉体的にも、飛びぬけて優秀で、
その未来あるはずの、優秀な若者たちを失うことは、
国家の大きな損失だと、もらしていた。
それは、言えないけれど、国民の誰しもが思っていたことなんだ。
でも国は特攻を、
「最後の切り札」として美化し、
国民に犠牲を強いるように伝えたんだ。
紙芝居でも、
「我が神風特攻隊!」と勇ましく描かれて、美談とされていた。
白いマフラーをなびかせて、笑顔で戦闘機に乗って、
「お国のために行ってきます」と、敵に向かって行く。
僕たちにとってはこの上ないヒーローだった。
「特攻ごっご(体当たりごっこ)」も流行っていた。
子どもたちは、「死ぬ」の深い意味が、まだ解らなかったからね。
国はそうして、「特攻隊、希望者を募る」という形で、
多くの若者の命を、死へと送り出したんだ。
僕のまわりにも、特攻に志願した人がいたらしかった。
けれど、親父もお袋も、そのことを決して話さなかった。
将来、僕が志願してしまわないように、
という思いがあったのかもしれない。
もし僕が15歳で志願しても、
親がそれを止めることは許されなかった。
「国のために死ぬのは、まさに理想」
そんな世の中だ。
♪ 勝ってくるぞと勇ましく
誓って国を出たからは
手柄立てずに死なりょうか ♪
こんな歌を、みんなで歌ってたんだから。
友だちのいとこが、15歳で特攻に志願して、戦死した。
そのあと、国から「菊の御紋」の形をした小さな落雁(らくがん)が届き、
みんなで分けて食べたそうだ。
当時、砂糖は本当に貴重だった。
でも、そんなものより、
「いとこのお兄さんには、生きていてほしかったんじゃないかな」って、
今の僕は思う。
その写真は一枚しかなくて、
親せき中で分けられるように、複製してまわしたって。
みんな、
「国のため」「家族のため」「勝って平和に暮らすため」――
そう信じて、死んでいったんだ。
僕らが生きている今は、
彼らが命を懸けて守ろうとした
「当たり前の日常」なんだよ。
―― 続けて読む ――
▶ 次の話【第18話】
祖父・鍬太郎の死――戦局とともに弱った命
▶ 連載目次(案内所)はこちら
▶ 前の話【第16話】
近くで落ちた爆弾
