見出し画像

ぼくものがたり【第43話】ギブミーチョコレート――弟と並んだ戦後の道ばた

終戦後、阿佐ヶ谷でも進駐軍(日本を占領統治しに来たアメリカ軍のこと)が姿を現すようになった。
僕たちは進駐軍を「ヤンキー」と呼んでいた。

最初は見るのも恐ろしかったけれど、
そのうち、

「どうやらヤンキーはお菓子をくれるらしい」

という噂が広まった。

僕たちは、
「そんなことあるのかなぁ」と、疑いながら、
駅前にいるヤンキーたちを、遠くからじっと観察していた。

彼らは背が高く、声も大きく、身振り手振りも大きい。
「よくこんなのと戦争してたなぁ」
と、どこかしら不思議な気持ちで見ていた。


まもなく、子どもたちが数人ヤンキーに近寄った。
僕たちは、「捕まるんじゃないか?」と、しばらく様子を見ていた。

すると噂通り、ヤンキーはお菓子を配り始めた。
しかも、笑顔で。

するとまた、他の子どもたちも集まってきた。
その子たちにも笑顔でお菓子を配るヤンキーたち。
子どもを捕まえる気はなさそうだった。

「なんだ。大丈夫そうだ」
「早くもらわないと無くなっちゃうよ」
と、僕たちも急いで走り寄った。

そして、もらったチョコレート。
小学2年生の僕の手のひらほどの大きさだった。

「サンキュー!サンキュー!」とお礼を言って、
さっそく駅前の片隅で封を開けて食べてみた。

それは、ものすごく甘くて、これまで味わったことのないおいしさだった。


僕たちは、ずっと「甘さ」に飢えていたから、本当に嬉しかった。
その甘さに夢中になり、ゆっくり時間をかけて大切に食べた。


ヤンキーたちはジープに乗って青梅街道沿いをよく通っていた。
それ以来、僕たちはジープを見つけると、
「ギブミーチョコレート!」と叫びながら、ジープを追いかけた。

その子どもたちの声でジープは止まってくれて、
チョコレートやガム、キャンディー、クラッカーなど、気前よくくれた。

ちゃんと一人一人に行き渡るように配り終えると、また走り去った。


数ヶ月前までは、「鬼畜米兵、死ねー!」と叫び、
藁人形を作って必死に刺していたけれど、
子どもたちの心の切り替えは早かった。


大人たちは、
「アメリカ兵からは食べ物をもらわないように。
毒が入っているかもしれません」
と言っていた。

でも、実際にお腹を壊した子は一人もいなかった。


ある日、チョコレートを3歳の弟、タケヒロの分までもらおうと、
「二つちょうだい」と言ったら、「ノー」と言われた。

仕方なく、その日は帰って、一つを兄弟で分け合って食べた。


タケヒロが生まれた時には、すでに戦争が始まっていた。
そのため、タケヒロは本物の砂糖を使った甘いものをほとんど食べたことがなかった。

なので、初めて食べたその美味しさに驚き、
目を輝かせながら、一口一口を大事に食べていた。


それからは僕はタケヒロと手をつないで、
一緒に青梅街道で待っていた。

やって来たヤンキーは、小さいタケヒロにも、笑顔でお菓子をくれた。
ぜんぜん鬼畜なんかじゃなかった。むしろ、最高にいい人たちだった。


アメリカ軍が、お菓子で日本の子どもたちを手なずけようとしていたのは、
戦略だったみたいだけど、
食糧難の中で、こんな美味しいものをもらえるなんて、まるで夢のようだった。


また、こんなことがあった。
僕とタケヒロが青梅街道に行くと、1台のジープが停まっていて、
おおぜいの子どもたちが帰るところだった。
みんな手にはお菓子を握っている。


僕とタケヒロが急いで駆け寄ると、ヤンキーは、どうも、
「ごめんよ。お菓子は配り終えて、無くなってしまった」
と言っているようだった。

がっかりして帰ろうとすると、
ジープのヤンキーが、代わりに「これを持っていけ」と紙を差し出した。

それが、これだった――

ヤンキーからもらったお金 軍票B銭券(表)
これは在日米軍でのみ使用され、日本人は使えなかった。
軍票B銭券(裏)

アメリカのお金なんて初めて見たので驚いた。

子どもたちも群がって、羨ましがっていたけれど、
僕はやっぱりお菓子の方がよかった。

親父に聞いたら、これはアメリカ軍人用の金券で、
日本人は使えないとのことだった。

でもこれは記念にずっと取っておいている。
アメリカ軍とのいい思い出として。


進駐軍は、飢えた子どもたちに食料を配ったり、
自由にものが言える社会をつくったりしてくれた。

そして、だんだんと大人たちも変わっていった。
お袋も、

「アメリカさんにはお世話になっているんだから、
ちゃんとお礼を言いなさいよ」

そんなふうに、大人たちの口調も、少しずつ柔らかくなっていった。


―― 続けて読む(下の文字をタップできます) ――
次の話【第44話】
神社とお寺とキリスト教――ぼくらのおやつ道中

連載目次(案内所)はこちら
前の話【第42話】
紙芝居――「買う子が前」と優しいルール


いいなと思ったら応援しよう!