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【寄稿】夜間撮影のススメ(昆虫写真家・EMURA Tetsuya)

本記事は「虫の撮影機材ガイド」の寄稿編です。
子どもを寝かしつけ、家事を終えたあとに訪れる“夜の撮影時間”。闇夜の虫の魅力からライティングまで。昆虫写真家・EMURA Tetsuyaさんが実践する、昼間に行けない環境をプラスに変える──、大逆転の夜間撮影テクニックを惜しみなく語っていただきました。


EMURA Tetsuya

身近な小さな生き物の世界を切り取る昆虫写真家。主なフィールドは自宅周辺で、身近な自然に潜む美しさや不思議を写真で記録している。
本業は建築の構造設計。
X:https://x.com/emuratee
Instagram:https://www.instagram.com/emura_atka/

■主な撮影機材
Olympus OM-D E-M1 Mark 3
Olympus M.Zuiko Digital ED 60mm F2.8 Macro
Olympus M.Zuiko Digital ED 12-40mm F2.8 Pro
 Laowa 25mm F2.8 2.5-5x Ultra Macro



なぜ夜間撮影なのか?

そもそも私が夜の撮影をよくするようになったきっかけの一つは、単純に昼間撮影に出かける時間が確保できなかったから、というものである。平日は仕事があり、仕事が終わっても家庭のあれこれをやらなければならない。休日は家族と過ごす時間であり、たまに自然の多い場所に出かけることがあれば色々と撮れることもあるが、趣味である撮影にでかけられる時間には限りがある。家族に急かされず、じっくりと撮りたいものである。子どもを寝かしつけ、台所の片付けを終え、さらに仕事のメールを何通か返したあと、それが夜撮影の時間である!

このように必要にかられて、という部分もあるのだが、もちろん夜間撮影でなければ得られないメリットも多くある。

例えば:
・夜に活動する虫がいる
・寝静まった虫を狙うことができる
・黒バックというかっこいい写真が撮れる
・夏は強い日差しを避け(比較的)涼しく撮影できる
・誰もいないので周囲の目を気にしなくてよい
などである。

夜に活動する虫たち

上記のかなり消極的な夜間撮影のきっかけとは別のものとして、花に集まるガを撮りたい、というのもあった。特に、晩秋から早春にかけて活動するガ(いわゆる秋キリガや春キリガなど)が、冬に咲く花に集まることが知られているが、基本的には夜しか活動しない。これらの虫たちを撮るために、寒い季節に咲く花を把握しておいて、夜に花を覗き込むとなかなかの成果が得られる。秋に咲くサザンカのあとはツバキ、春に咲くアセビなどが狙い目だ。

冬のサザンカで蜜を吸うスギタニモンキリガ

同じガでも少し趣がちがうものとして、フユシャクというものもいる。フユシャクの仲間は、メスが翅を退化させ移動能力を大きく失うことと引き換えに、天敵の少ない冬のみに活動することで卵を多く産める重い身体を獲得した特殊なガたちである。これらの虫たちは基本的に夜に活動するため、その後交尾シーンを捉えるには夜に出歩くことになる。フユシャクに限らず、ガは夜に交尾をする種が大半である。

気温が0度程の冬の夜に交尾するイチモジフユナミシャク
交尾中のケンモンミドリキリガ

夏の夜に活動する虫たちといえば、樹液に集まるクワガタやカブトムシ、カミキリムシ、ガ(スズメガなど)も定番だ。コナラやクヌギなどから出る樹液が発酵するとお酒のような、なんとも不思議な香りが雑木林に漂う。定番のコクワガタやカブトムシに加え、各種コガネムシ、ケシキスイ、スズメガの仲間なども見つかる(スズメバチがいることもあるので、要注意!)。さまざまな種が入り乱れて同じ釜の飯を食う姿は他にはあまりないシーンで、真夏の夜には撮っておきたい。

樹液に集まるノコギリクワガタ、カブトムシ、アカアシオオアオカミキリなど

それ以外にも、夜の地面を活発に歩き回るオサムシなどゴミムシの仲間、暗くなってから鳴きだすバッタ類、活発に巣から出歩くアリたち、美しい網を張るクモ、狩りにでるムカデやゲジなど、夜限定のシーンを作り出す虫たちは枚挙にいとまがない。このように、昼間の撮影では得られない虫たちの営みが撮れるのであれば、深夜に出かけない理由はないだろう。

夜の地面を徘徊するゴミムシの仲間(オオキベリアオゴミムシ)
湿った朽木の上で獲物であるトビムシを探すウロコアリの仲間
(Canon EOS M5 + Laowa 25mmで撮影)

電灯などの光に集まる虫を見ることができるのも夜だ。残念なことに、最近は街灯のLED化が進み、集まる虫も少なくなってしまっている。いくつか、古い蛍光灯を使った街灯の場所を知っておくと、様々な虫に会えるのでおすすめである。コガネムシ類やガが常連だが、セミやクサカゲロウの仲間など、バリエーションはかなり広い。街灯周りでは、背景が人工物になってしまうことも多いので、絵になるシーンは少ないかもしれない。それでも他では見られない一枚が撮れるかもしれないので、近所の街灯を探してみてはどうだろう。

公園の電灯まわりで暴れまわっていたコフキコガネ

虫は寝ている間を襲え

夜に活動する虫、とは対照的に、夜には寝静まっている虫も多い。特に昼間に活発に飛び回るチョウやトンボたちは大きめの虫であることもあり、寝ているところは意外と目に付く。詳しくは知らないが、視覚情報を頼りにしている虫たちだからか、基本的に夜活動することはないと思われる。

チョウは葉の上や裏で寝ていることが多い。個人的に最も見かけるのはライトの光を黄色や白の翅がよく反射するためか、キタキチョウやモンキチョウ、モンシロチョウなどのシロチョウの仲間だ。それ以外にもシジミチョウの仲間、タテハチョウの仲間なども夜見かけることは頻繁にある。

オオアラセイトウの花につかまり眠るスジグロシロチョウ

これも個人的な経験にしか基づいていないが、トンボは「寝床」があるように思える。あるところでハグロトンボが寝ているのを見つけたら、続けて周辺に3,4匹見つかったことがあったし、ギンヤンマも数匹同じ狭い範囲で寝ていたことがある。

枝にぶら下がり眠るギンヤンマ

チョウやトンボの仲間は、夜は近づいてもほとんど眠ったままなので、撮り放題である。チョウの翅の微細な構造を撮るには、夜の撮影はうってつけである。

寝ているヒメウラナミジャノメの翅のディテール

寝ている姿がなんともおもしろい虫といえば、ハチの仲間だ。どういうメカニズムなのかはわからないが、ハチの仲間にはその大きなアゴで植物にかじりつき、身体を固定して寝る種が多い。

笹の葉をくわえて眠るオオハキリバチ

また、寝ている虫の撮影で面白いのは、夜露だ。湿った温かい日の夜は放射冷却などによって地表付近の温度が下がると、結露が発生してあらゆる場所が水滴で覆われる。虫の体も例外ではない。特に鱗粉に覆われたチョウによくつゆが発生しやすいのか、水滴のついたチョウをみることはかなり多い。シジミチョウなど身体の小さい虫の場合、水滴が相対的に大きく見えるため、なんとも見応えのあるつゆまみれ状態になることもある。まるで名和晃平の鹿のように。

夜露に覆われたヤマトシジミ

黒バックがかっこいい

夜撮影は基本的にストロボを使うのだが、被写体とストロボが近い距離で発光させる。そうすると、光の強さは距離の2乗に反比例して減衰していくため、被写体の背景に届く光は急激に少なくなり、すぐに闇に飲まれてしまう。被写体のすぐ後ろになにも無ければ(抜けていれば)、ほぼ背景は黒になる。いわゆる「黒バック」状態だ。これは被写体が背景から浮かび上がり、なんともかっこいい絵になる。ある程度背景が抜けていても、少し遠くの背景がほんのり浮かび上がることもあるが、これを味と捉えることもできるし、あと編集で黒くしてしまうことも考えられる。

小さなアオシャクの仲間

ただし、これは黒っぽい虫だと身体の輪郭がわかりにくくなるため、明るめの虫のほうがその有効性を発揮できる。黒っぽい虫の場合は、あえて黒い背景に紛れさせるということも考えられるが、すぐ後ろに葉など明るいものがあるところを選ぶことで、輪郭をはっきりさせる方法もある。

特徴的な背中のトゲがある黒いタケウチトゲアワフキ
黒バックのもの(左)と近くの葉を背景に入れたもの(右)
輪郭がよく分かるのは右

夜撮影をするためのテクニック

ここまでなぜ夜撮影が良いのか、何が得られるのか、という話をしたが、ここからは具体的にそれを実現するための手段について説明する。当たり前のことではあるが、これはあくまで(アマチュアである)私個人のやり方をベースにした話であり、何が正解というわけではないし、明らかにより良い別の方法などもあるかもしれない。そのようなものがあれば、ぜひコメントをいただけると跳んで喜ぶのでぜひお願いしたい。

道具:特別なものはライトくらい

昼間の虫撮影でもストロボはほぼ標準的な装備なので、すでに使っている方も多いだろう。言うまでもないが、夜撮影ではストロボは必須である。高輝度LEDなどで撮ることも考えられるが、個人的にはそれは使っていないので特に触れないこととし、ストロボを使うことを前提として話を進める。

それ以外で夜間撮影特有の機材は以下が考えられる
・携帯ライト(懐中電灯)
・ ヘッドライト
・ フォーカスライト

懐中電灯についてはポケットにも簡単に入るコンパクトなものを使っている。ヘッドライトは、両手がフリーになるので使う人も多いが、カメラを構えるうえでおでこあたりにものがあるのが好きではないので使っていない。個人的には、探査には懐中電灯を使い、撮影の際は後述のフォーカスライトを使う。このあたりは選択肢が多いので、自分に合うものを試しながら選定してもらいたい。

私の標準機材

まず話の前提となるとよいため、私が夜の撮影で使っている機材を紹介しておこう。

  • カメラ:Olympus OM-D E-M1 Mark 3

  • レンズ:Olympus M.Zuiko Digital ED 60mm F2.8 Macro, Olympus M.Zuiko Digital ED 12-40mm F2.8 Pro, Laowa 25mm F2.8 2.5-5x Ultra Macro

  • ストロボ:Godox TT350o

  • マクロフィルター:Raynox DCR-250

  • ディフューザー:HAKUBA クリップオンストロボディフューザー Lサイズ

  • フォーカスライト:BLACKUBE キャップライト

機材選択についてはさまざまな意見があるだろうから、特定のメーカーやセンサー規格にこだわる必要はない。個人的には、被写界深度が稼ぎやすく、コンパクトで、防塵防滴性能に定評のあるOlympus(現OM System)のこれらの機材を普段使っている。昆虫写真は片手でカメラを持たないといけないシーンがかなりあるので、できるだけ軽く、かつしっかりとグリップのあるものが好みだ。また水辺の生き物を撮る際は水にあたるかどうかくらいのところにカメラを構えることもあるので、防塵防滴性能も重視したい。

まれに極小の生き物たちを撮影したいときのために高倍率レンズであるLaowaのUltra Macroを使うが、なかなかハンドリングが難しいレンズでもあり、万人にオススメできるものではない。倍率が足りない場合はRaynox(レンズ先端に追加するいわゆるマクロフィルター)を装着することも多いが、これは60mm F2.8との相性もよく、簡単に倍率を1倍→約1.6倍まで上げられ非常に便利だ。特に小さい虫(3mm以下程度)をよく撮る方は、ぜひ試してみてほしい。

ストロボはコストパフォーマンスの良いGodoxの極一般的なクリップオンを使っているが、防滴性能はないため、環境が悪い場合は注意したい。もう少しコンパクトなストロボでも良いのだが、夜間撮影はそれなりの光量と発光回数が必要になるので、あまり出力の小さいものはおすすめしない。ストロボの性能は電池にも依存するので、電池の選定と充電度合いにも注意すべきだ(私はPanasonicのエネループプロを使っている)。また、ストロボが内蔵されたカメラでももちろん撮影は可能であり、私も今の機材を揃える前はEOS M5を使っていたが、これは内蔵ストロボ(ポップアップ式)があり、夜間でも十分にきれいに撮れた。

機材の標準セットアップ
ここに小さなフォーカスライトをつける
フォーカスライトをつけた状態。ディフューザーが内側から照らされているのがわかる。唯一のDIYは、ディフューザーの下部を半円形に切り取り、レンズに輪ゴムで固定しているところ。

フォーカスライトとストロボの当て方

フォーカスライトとは、暗闇の中でファインダー越しに構図やピントを合わせる際に仮で被写体を照らすライトのことである。私は撮影に必要な明かりはフォーカスライトとしてディフューザーに取り付けた小さなLEDランプを使う。フォーカスライトはディフューザーの裏側(ストロボ側)につけるところがポイントである。人によってはヘッドライトですべて済ませてしまう、もしくはカメラに組み込まれた補助光(赤いライト)を使う人もいるようだ。そうではなくフォーカスライトを使う、しかもディフューザーを通して被写体に当てる理由は、単純にそれが実際ストロボを焚いたときのライティングに近くなるからだ。フォーカスライトがついた状態でファインダーを覗けば、おおよその撮れる絵が想像しやすくなる。私はAmazonで買った安い充電式のLEDライトを使っている。どのようなものを使っても良いが、充電式で軽量な本品は気に入っている。

クリップオンストロボの場合、カメラの上側に光源があるので、カメラを横位置にするか、縦位置なら左か右かにするかで、光の当たり方がかわる。トリミングする前提で、あまり構図を気にせずに、ライティングを優先してカメラ位置を決めるのが良い。上から光を当てる場合と横から当てる場合でかなり雰囲気が変わる。

ストロボ位置が上(左)と横(右)の場合の比較
(セアカツノカメムシ)

言うまでもなく、ディフューザーによってライティングはいくらでも変わる。私は、光をある程度拡散しつつも、方向性がある光が好みなので、極端に大きかったりレンズの下部にまでまわりこむディフューザーは使っていない。ただし、主に一部の甲虫類などの光沢の強い被写体、いわゆる「テカテカ系」はこのディフューザーではなかなか難しいものがある。このような被写体の場合、局所的に光の反射がありそれ以外が黒っぽく写ってしまい、本来の美しさがなかなか表現できない。原則として、ディフューザーは大きいほど、そして被写体に近いほど拡散された光になる。このようなテカテカ系の場合、もう一枚の大きめのディフューザーを被写体の直上に被せるように配置して撮ると、輝く範囲が広がり本体の色味がでてくる。

艶のあるその名もツヤコガネ(または近縁種)
HAKUBAのディフューザーのみの場合(左)と
更に被写体直上にディフューザーを挟んだ場合(右) 
追加のディフューザーを被写体直上に置く場合

まだこれから夜間撮影をやってみたいという方には、手軽に買ってそのまま使えるHAKUBAのディフューザーはおすすめである。それ以外に、Kenkoの「影とり」というものも手軽で優秀な製品だが、フォーカスライトが固定しにくいのでストロボ側にライトをつけるなどの工夫が必要である。

露出/ストロボ出力設定

夜は基本的にストロボの光というコントロールしきったものしか使わない(=他に光源がない)ため、露出とストロボ出力の設定をあらかじめ決めておけば便利だ。「カメラのオートを使えば?」と考える方もいるかも知れないが、圧倒的に光をコントロールできるマニュアル設定をおすすめする。ストロボだけはオート(TTL)を使う人もいるようだが、マクロ撮影ではうまくいかないことも多い。夜間のマクロ撮影をすると、手前の小さい虫のみストロボ光があたり、背後は暗闇になることも多い。このようにコントラストが激しい場合、カメラの自動出力を使うと被写体にはオーバー(明るすぎる)となることが多い。これは画角内の輝度の差が大きく、どこに露出を合わせるのかをカメラがうまく判断できないからだろう。

感度はノイズが少ないほうが良いので、低い値で固定する。ストロボ撮影においてシャッタースピード(SS)はあまり意味をなさないので、カメラで設定できる最短で設定、絞りはマクロなのでほしい被写界深度やボケ具合に応じて調整、あとはストロボで光の総量を調整、という具合である。

私の機材の場合は、基本は「SS 1/200、絞りf/8.0、感度ISO200、ストロボ出力:1/8」で設定する。ここから、ほしい被写界深度に合わせて絞りを調整、明るさに応じてストロボ出力を調整するのが基本だ。なお、私はRAWで撮影して必ず現像するのでその際ある程度調整できるものとして、明るさは±1段の中に収まっていれば合格としているので、あまり細かい調整は撮影中にしないことが多い(撮影のスピードを優先)。とりあえず夜間撮影を始めてみたい方は、「1/200、f8、ISO200、ストロボ1/8、1/200、f8…」と唱えながら闇夜にくりだしてみても良いだろう。

ストロボ出力設定で難しいのは、虫の背景が抜けている場合と、虫が面(石、葉など)に乗っているときで必要な出力が大きく異なることである。これは面に乗っている場合、そこに当たった光が反射してディフェンダーとの間で反射を繰り返し光量が増すからである。面の反射率によって必要なストロボ出力は異なるので、何枚か撮りながら調整するしかない。

また、気をつけたいのはストロボ出力を大きくしすぎないことだ。よほどハイグレードのストロボを使わない限り、1/1や1/2といった高出力とするとリサイクルタイム(一度発光して、次発光するための準備をする時間)が長くなり、連続して撮影するのに支障がでる(電池を多く消費することは言うまでもない)。少し感度を上げてでも、ストロボ出力を下げることをおすすめする。

広角撮影

広角を使う目的は、少なくとも虫の撮影においては奥行き方向の広がりを表現するため、とほぼ言える。しかし、夜間の場合は主な光源がカメラに取り付いたストロボで、光は距離とともに急激に減衰するので、近くにある被写体に程よい光を当てると、あまり遠いところにはほぼ光が届かない(多灯撮影という有効な手法もあるが、私が実施していないという理由でここでは触れない)。

これに対処するには大きく2つ方法があると考える。まずは、①背景のモノの配置を、被写体生き物から連続して奥行き方向に配置させる、という方法がある。つまり、被写体の生き物の背後にあるモノが、いきなり遠いところにあるのではなく、少し後ろ、もう少し後ろ、と奥行き方向に徐々に遠ざかっていく、これにより届くストロボの光も徐々に減っていき、そのグラデーションがより空間的な広がりを強調する。

コナラの幼木にとまっていたイチモジフユナミシャクのオス

別の方法として、②ストロボとは関係ないもともとそこにある光を活用する方法がある。街灯や遠くの建物の光などを取り入れることで、自然と人工物の関わりを表現できるので、個人的にはかなり気に入っている方法だ。ただ、技術的には少し工夫が必要だ。前述のようにシャッタースピードは基本的に最短にしておけばよいが、夜のわずかな環境光を取り入れるために、シャッタースピードはかなり長く設定する必要がある。また相対的にストロボの光が強くなりすぎないように出力をさげ、さらに感度を上げる必要もあるかもしれない。当然手ブレには注意しなければならない。

マンションの灯りが見える場所で交尾していたトビモンオオエダシャク
シャッタースピードは1/2sまで長くした

飛翔

飛翔撮影は、日中でも難しい。夜間となればそれに応じたテクニックが必要だ。

暗闇の中で、フォーカスライトのみに頼っているような状況では、オートフォーカスはなんの役にも立たない。そこでいわゆる「置きピン」という手法を使う。置きピンとは、マニュアルフォーカスであらかじめ決まった位置にピントをあわせておいて、カメラ自体を前後する、または被写体の動きによってピント内に入ったところを撮影する、というものである。撮影したい距離を大まかに決めて、近くにある葉っぱや、手のひらにフォーカスを合わせて、試し撮りすることもある。

この方法で撮れるのは、ある程度飛んでいる位置が定まるような虫である。ホバリングで蜜を吸いに来たスズメガ類、闇をフワフワと飛ぶクサカゲロウやウスバカゲロウ類などである。あらかじめ定めたカメラと被写体の距離になるように動き回り、バックモニターでフレームに入るよう確認しながら暗闇の中で連写するのである。より動きがランダムな虫に対しては、バックモニターも見ずに、ただレンズと被写体との距離を合わせるように動き回り連射することもある。傍から見たらさぞかし滑稽な光景であろう。

この方法は当然打率が低い。ピントが合っていないどころか、フレーム内に虫がいないなんていうことは日常茶飯事である。初めてやってまともな写真が撮れることはまず無いだろうから、諦めずに何度も挑戦してもらいたい。

ふわふわと飛ぶクサカゲロウの仲間
街灯の周りを飛び回っていたオオミズアオ

飛翔写真の場合、ストロボ出力はできるだけ下げておきたい。個人的には、1/16~1/32程度を使うことが多い。これには2つの理由がある。1つは前述のとおり高出力だとリサイクルタイムが長くなるからである。飛翔写真の場合、確率を上げるためにできるだけ高速に枚数を撮りたい。2つ目は、1回の閃光時間(発光の継続時間)を短くするためである。使うストロボにもよるが、フル出力は数百秒分の一秒ほどの閃光時間となる(TT350の場合は1/350s)のに対して、弱い出力の場合では数万分の一秒の閃光時間となる(TT350の1/128の場合は1/20000s)。自然光下の撮影でも飛翔写真は数千分の一秒のSSを使っていることを考えると、1/350sの閃光時間では昆虫の翅の動きを止めることはできない。このようにストロボの出力を下げてしまうと光量が足りなくなるので、感度を必要に応じて上げることによって適切な露出を目指す。

編集

デジタル撮影の時代、編集も重要な技術だ。私もそこまで編集ソフトを使いこなしているわけではないので、ここでは夜間に撮影された写真を編集するうえで役立つ簡単なポイントを少し紹介する。

私はすべてRAWのみで撮影して、カメラの無線機能で選んだファイルをiPhoneに読み込み、iOS版のAdobe Lightroomで編集、現像する。Lightroomはクラウドストレージがあるので、そこに保存されたものをあとでPCで編集することも可能だ。基本的には明るさ関係「ライト」と色味「カラー」の編集、あとは適宜トリミングを行う。

夜間撮影は、ストロボ光のみなのでどうしても陰影が強くでてしまうことが多い。「ライト」にて、「ハイライト」を下げ、「シャドウ」を上げるのがまずは基本の操作だ。白く飛んだ部分も、黒く潰れた影の部分も、色が浮かび上がる。臆することなく、思いっきり調整して、目指したい絵に調整してほしい。

ライトの調整例
編集前(左)と編集後(右)露光量-0.20、ハイライト-70、シャドウ+80
(ナガニジゴミムシダマシの仲間)

前述の通り、「面」に乗った虫の写真の場合は、面の色が繰り返し反射によって全体にまわってしまうので、色味の調整が難しい。よくあるパターンは、葉っぱにのった虫が、全体的に緑色になってしまうことだ。残念ながら私も「正解」を知らないのだが、「色被り」をマゼンタ寄りに調整するなどして対応している。

夜間のデメリット・注意事項

危険性

当然まっくらな場所を歩き回るとなると、さまざまな危険がある。足元が見づらいため、木の根っこや石に躓くこともあれば、気づかずにくぼみや水場に足を突っ込んでしまうことなどもある。気を付けて歩くのはもちろんであるが、基本的に(舗装された歩道がある場所など以外の)足元が悪い場所は、昼間に訪問済みでよく知っている場所のみに限定することをおすすめする。

気候と服装

不便なことの一つに夜露がある。雨でなくても、夜に草木に降りる露の量はそれなりに多い。草の多い場所を歩くとすぐにズボンはびしょびしょになるし、ひどいときは靴の中まで水が入り込むこともある。できるだけ撥水性のある、または防水スプレーを施した服や靴を利用したい。

不快な生き物たち

夏の害虫といえば蚊であるが、彼女らも真夏の炎天下ではあまり活動せず、夜間には活発に飛ぶ。しっかりと虫除けを使うことも必要だが、服装でも対策をしたい。個人的には活動範囲で見たことはないが、マダニやヤマビルなどにも注意したい。

あとは、クモの網にも注意したい。昼間は人様のものであった道も、クモたちには関係ない。夜にはそこは大事な狩りの場所である。特にコガネグモ類は夜になると毎日新しい網を張るものもいるようで、普通に通路を歩いていても、顔から網に突っ込むことも度々ある。

他人

当然、夜にひとりストロボを焚いて写真を撮っている人は、傍から見たらただの不審者である。できるだけ人気のないところで撮影はしたい。公園などであっても、近くに民家があるような場所は避けたほうが良いだろう(当然夜間に閉園・閉館しているような施設に入るようなマネは絶対にしないように)。

夜に外をウロウロしていると、警察官から職質を受けることもある。私も2回ほど経験しているが、ある程度は仕方ないかなと諦めている。

夜出かけよう!

ここまで読めば、もうあなたも準備万端。素晴らしき夜の虫の世界を切り取りに行こう!


EMURA Tetsuya

身近な小さな生き物の世界を切り取る昆虫写真家。主なフィールドは自宅周辺で、身近な自然に潜む美しさや不思議を写真で記録している。
本業は建築の構造設計。
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Instagram:https://www.instagram.com/emura_atka/


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