【寄稿】あっ!いたぁ~!の瞬間を写真に、~カメラ1台レンズ1本で挑むスナップ風昆虫写真のすすめ~(写真家・Shomamaru)
本記事は「虫撮り機材ガイド」の寄稿編です。
“カメラ1台×レンズ1本”で楽しむスナップ風昆虫写真を紹介するのは写真家・Shomamaruさん。明日から使える撮影技術と考え方──、被写体との出会いの感動やその場の空気感まで写し込むための工夫を、作例とともに解説いただきました。
Shomamaru

こんにちは。
主にinstagramで生き物や自然の美しさを発信しています、Shomamaruといいます。
今回のテーマである昆虫はもちろん、野鳥や花、風景に星空、自然に関する美しいと感じたものはなんでも撮ります。趣味が高じて某カメラの会社(機材紹介でバレちゃうかな?笑)で営業の仕事をしながら、主に週末に撮影をしています。
▶︎instagram:@shomamaru(メインアカウント)
@shomamaru_portfolio
今回紹介する機材
カメラ:Canon EOS R6markⅡ
レンズ:RF 35mm f1.8 MACRO is stm
フラッシュ:SPEEDLITE 430EX Ⅱ

この3つの機材のみで撮影しています
前書き
この記事に目が留まった、ということは、みなさんは少なからず昆虫、ひいては自然に興味関心があることでしょう。そんなみなさんに質問です。みなさんにとって、自然と触れ合っている時間の中で、最もテンションが上がるのは、どんな瞬間ですか?
僕は迷わず即答します、お目当ての生き物を見つけた瞬間です!本当にレアで何年も探していた憧れの存在に出会った時には、思わず、あっ!いたぁ~!と声をあげてしまいます。みなさんにもそんな経験が少なからずあるんじゃないでしょうか?
僕は「誰かが生き物や自然を好きになるきっかけになる写真」をモットーに撮影をしています。人が何かを好きになる瞬間。そこには、その対象を好きになるのに十分な「感動」があるはずです。その感動を、自分の視点で切り取る。まるで、心が動いた瞬間にシャッターを切る、スナップ写真のように。そんなマインドで、今回は「スナップ風昆虫写真のすすめ」というテーマに沿って、誰でも真似できる、簡単に美しい昆虫写真を撮るための方法を解説していきたいと思います。

子供達とガサガサをして捕まえたコシマゲンゴロウ。
虫かごに入れて側面から撮影。
スナップ風昆虫写真のすすめ
難しいことは考えない、1台1本で撮り切ろう
写真には様々な要素があります。何を、どんな機材で撮るか、どんな設定で撮るか…
カメラ × レンズ × 光 × 設定等々… = 無限の組み合わせ
これこそが、写真の魅力であると同時に、写真を始めた人が直面する最初の沼と言えるでしょう。底無し沼にハマるのもまた一興!と言いたいところですが、経験上それは写真上達の近道ではなさそうです。
そこで、僕がオススメするのが、どんな被写体(今回のテーマである昆虫はもちろん、周囲の風景や一緒に野山を探索する仲間との思い出も含む)もカメラ1台レンズ1本で撮り切ってしまおうという作戦です。この作戦のイイところ、それは、考える要素を減らせる事です。x,y,z 3つの変数がある方程式が出てきたら、その解を見つけるのに相当苦労することでしょう。でも、あらかじめyとzに決まった値が入っていて、xを求めるだけだったら、随分と楽になる気がしませんか?ここで言うyとzこそがカメラとレンズです。
本来、様々な選択肢があるはずのカメラとレンズの組み合わせを一つに固定してしまうのですから、その選ばれし1台1本はなるべくどんな被写体でも、どんな表現でもできる汎用性のあるものがいいと考えるのが人情というもの。
今回紹介する「スナップ風昆虫写真」の機材選びにおいて、汎用性の指標になるのはズバリ、以下の2点です。
人間の視野に近い自然な画角であること。(焦点距離28~40mmくらいがベター)
被写体に寄れること。(最大撮影倍率が重要 0.4倍以上が理想)
その具体例として、今回は、僕が愛用するRF 35mm f1.8 MACRO is stmを挙げました。現状、フルサイズのカメラに対応したオートフォーカスの効くレンズでは、最もこの条件に合った
レンズだと考えています。


接近することで生まれる圧倒的な説得力は望遠レンズにはない魅力。
ここまで読んで、勘の良い人は気づいたかもしれません。
変数y、カメラはどうした?と
そう、僕は今回カメラについてほとんど言及しないつもりです。なぜなら、どんなカメラを使うかはそこまで重要じゃないからです。今回使用機材にEOS R6markⅡというフルサイズセンサーを積んだカメラを挙げていますが、正直、フルサイズのカメラで撮りたい!という自己満足のために選んでいるに過ぎません。ただ、カメラを選ぶ時に注意してほしいポイントも当然あります。特に大事な2点だけ挙げましょう。
センサーサイズによって換算焦点距離は変わるということ。( aps-cセンサーのカメラならレンズの焦点距離は18~25mmくらい、マイクロフォーサーズのカメラなら焦点距離14~20mmくらいのレンズがベター)
ミラーレスカメラであること。
特に、2点目ミラーレスカメラであることは、残る変数xを簡単にする上でとても重要です。
以上、2点にだけ留意していれば、あとはデザインや握り心地、好みのメーカーで決めちゃって大丈夫です!

キヤノンのカメラは殆どの操作を右手人差し指と親指でできるため
撮影中にファインダーから目を離さず設定を変えられる。
相棒は決まりましたか?
カメラとレンズが決まったなら、次は設定の壁を越えましょう!
変数x ~設定の壁を越えよう~
カメラとレンズが揃った今、残る変数はxのみ。そのxとはズバリ、カメラの設定です。
設定と聞くと、シャッター速度、絞り、ISO感度等々、xの中にまた別のx,y,zが潜んでいるような気がしませんか?そこで効いてくるのが、前節の最後に挙げたミラーレスカメラであることです。
ミラーレスカメラの良いところは、カメラの液晶画面や電子ファインダーにリアルタイムかつその時の設定が反映された明るさで映像が表示されることです。極論、設定の意味が分かっていなくても、シャッターを切る直前に表示された映像が自分の思い描いていたイメージと同じであれば、あとはシャッターを切るだけで作品の完成です。
ここまででようやく、x,y,z全てのピースが埋まり、知識やテクニックではなく感性で写真を撮る準備が整いました。ここから先はいくつかの撮影パターンを作例と共に紹介していこうと思います。
さあ、カメラを持って出かけましょう!
パターンその壱~グッと寄って出会いの感動を写し撮ろう~
この記事を読んでいる昆虫好きの皆さんなら、憧れの被写体に出会うことができたら、まずはその昆虫の姿をしっかりと写したいと思うはず!その気持ちをド直球に込めた一枚を撮ってみましょう!

被写界深度も深いため、翅の隅までピントが合う。
羽化して間もない、ピカピカのオオルリシジミが朝日をいっぱいに受けて翅を開きました。蝶が止まっているのは、食草クララの茂みの中。このような状況での撮影は、手前の草が被って上手く撮れないなんてこともしばしば。こんなシチュエーションでこそ、1台1本のシンプルな装備が威力を発揮します。2つの観点から紹介しましょう。
まず1つ目は、なんといっても装備のコンパクトさに由来する機動力の高さです。手前の草が被ってしまうのなら、その草より奥にカメラをねじ込んで撮影してしまいましょう。
2つ目は、焦点距離が短いことによる被写界深度の深さです。細かい理屈は省きますが、同じ撮影条件で一般的に広角になればなるほど被写界深度は深く(ピントの合っている範囲が広い)、望遠になればなるほど被写界深度は浅く(ピントの合っている範囲が狭く)なると言われています。よって、昆虫写真で重宝されている中望遠(焦点距離90~105mm)マクロレンズより
も今回紹介しているRF35mmマクロの方が被写界深度が深いといえます。被写界深度が深いことで、そこまでF値を上げなくても虫全体にピントを合わせることができるため、シャッタースピードやISO感度などの設定に余裕を持たせることができます。
参考までに、グッと寄った撮影でおすすめの設定を紹介しましょう。
シャッタースピード 1/400 絞り F8 ISO 640
この設定で大事なのはF値です。もし、明るすぎる、あるいは暗すぎる時は、F値以外の設定を変えて調整しましょう。そのために、カメラの液晶画面や電子ファインダーにリアルタイムかつその時の設定が反映された明るさで映像が表示されるミラーレスカメラをおすすめしているのですから。

設定は、シャッタースピード 1/640 絞り F8 ISO 500
さあ、思う存分、目の前の被写体の魅力を写せたら、次は視点を変えて撮ってみましょう。
パターンその弐~ありのままの「自分視点」を写そう~
今回紹介する撮影パターンは全て、タイトルにあるように同じカメラ1台レンズ1本で撮ることを前提としています。ですが、その中でも「スナップ風」という今回のテーマに一番合っているのは、この節で紹介する撮影パターンでしょう。パッと撮った一枚に被写体の魅力だけでなく、その時の思いも乗った写真を撮る。その上で大切にしてほしいこと。それは「自分視点」であることです。高性能のマクロレンズは最大撮影倍率が1倍~2倍と人間の眼の能力を遥かに凌駕する性能を備えています。そんなレンズが見せてくれる世界は、ミクロの世界、いわば「虫視点」の世界です。しかし、僕の勧める「スナップ風昆虫写真」は、あくまで被写体に出会い、それを見つめ
る自分の視野を共有することを目的としています。だから、クローズアップ性能は、せいぜい私たちが寄り目で小さな虫を見つめて、ギリギリ焦点が合った瞬間の視野を再現できれば十分です!等倍マクロレンズと比較してクローズアップ性能で劣るハーフマクロレンズ(最大撮影倍率0.5倍)であるRF35mmを勧める意図はここにあると言っても過言ではありません。
前置きが長くなりましたが実際に作例を見ていきましょう。

メインの被写体が惹き立つ写真になる。
彼女とデート(といっても虫を探しに行くわけですが…)の前に立ち寄った道の駅。朝食を済ませて外へ出ると、彼女がコンクリートのスロープの先を指差しました!急いで拾い上げると、菱形の特徴的なアゴ、それはミヤマクワガタのメスでした!6月の中旬、シーズン初のクワガタに夢中でシャッターを切ったときの一枚です。
クローズアップしすぎず、彼女の服を背景に入れることで、ミヤマクワガタを手に乗せている彼女を見る僕の「自分視点」を具現化することができます。つまるところ、「自分視点」の写真と「虫視点」の写真を隔てるポイントは背景情報の量なのです!
もう一枚、作例を見てみましょう。次は、同世代の昆虫写真仲間とライトトラップをしながら飲み明かした、夏の夜の一コマです。ライトを点灯して1時間ほど経過すると、大量の虫が集まってきました。中でも目を惹くのが緑色のスズメガ、ウンモンスズメです。何度も光源に向かって体当たりしていたので、ライトにピントを合わせ、体当たりの瞬間にシャッターを切りました。

フラッシュ無しでも十分美しい写真を撮ることができる。
この場合も、バックに写り込んでいる窓枠や、ピントの合っていない他の虫たち、ライトに電力を供給しているケーブル等々、背景情報がその場の雰囲気を伝える上でのヒントになっています。でも、何を背景に入れたらいい写真になるかわからない…という人も多いと思います。
そこでポイントになる要素は、いつ、どこで、誰と撮ったかがわかる要素です。それは、富士山や東京タワーのような唯一無二のものである必要はありません。ただ、未来の自分が過去を振り返ってその写真を見た時、自分がその時の情景をハッキリと思い出す引き金になり得るもの。そして、他人が自分の撮った写真を見た時、その場の情景をぼんやりと想像することができるものであることが重要です。
是非ただ虫を写すだけでなく、自分がその写真を撮った時どんな気持ちだったか、どんな雰囲気だったかが伝わる写真にもチャレンジしてみてください!

その場の空気感が乗るように感じる。
パターンその参~被写体は小さく、世界は広く、風景的に写そう~
この3つ目のパターンが、今回僕が紹介する最後の撮影パターンです。もうお気づきかもしれませんが、パターンが進むにつれ、主題となる被写体が画面に占める割合は小さくなっていきます。最後は思い切り引いて、ほぼ風景写真のような雰囲気で撮ってみましょう!

トンボの占める面積が小さくてもよく目立つ。
まずはニホンカワトンボを背景の湿地も交えて撮ってみました。開放F値がF1.8と非常に低いRF35mmなら、被写体が小さく写っていても大きなボケ感で浮き立たせてくれます。今回は、トンボの朱色の翅も相まって被写体が小さくてもしっかりと存在感が出るように仕上げることができました。このようなシチュエーションならば簡単ですが、背景に魅せたい印象的な景色があり、絞って撮りたい時やメインの被写体が地味で目立ちにくい時はどうでしょう?

手前の柏の葉っぱの存在感が損なわれないように構図を吟味した。
そんな時大切にして欲しいのが、受け手を信じるということです。今やSNSで大量の画像が消費される時代。興味のない画像や投稿は秒速でスクロールされていきます。その中で、タイムラインを流す手を止められるかどうかは1秒にも満たない表示時間で与えられる印象にかかっています。そして、思わず手を止めてしまう強い印象に不可欠な要素は、被写体が何かよりも、いかに構図が美しいかだと思います。被写体の配置は二の次、手を止めることさえできれば、受け手は被写体がどんなに小さく写っていたとしても画面から探し出すでしょう。だから、風景的に広く写す際は風景としての全体のバランスを最優先にして、そのどこに被写体を配置するかはあまり考え
なくて大丈夫です!
番外編~自由な発想で可能性を拡げよう~
ここまでで紹介したいくつかの作例は、どれもその場の光を利用して撮影したものであり、意図的に光を足すライティングは一切していません。特別なライティングが無くともこれだけしっかり撮れるということをみなさんにお見せしたかったからです。でも、ライティングを加えると写真がさらにグレードアップするということは紛れもない事実です。そこで、番外編として最後に誰でも真似できるお手軽ライティング術についても紹介したいと思います!
ライティングと聞くと写真のクオリティと同時に技術的な難易度も上がるように感じませんか?安心してください!大丈夫です!大事なのはどんな時も柔軟な発想と工夫ですから!
ここでも、難しいことは省いて考えていきましょう。
そもそもライティングは、意図的に光を加える行為であって、その光源がストロボやフラッシュでなくてはいけないというルールはありません。つまり光を足せるのならなんでも良いわけです。じゃあ何を使うのか?夜の生き物観察の必携品、懐中電灯を使ってみましょう!

光が当たっていない部分は自然なビネット効果が期待できる。
夜の雑木林、木の隙間を一つひとつ丁寧に見ていくと、平べったいクワガタたちを見つけることができます。彼らは比較的大きな太い木の穴に隠れていることが多く、フラッシュを使って撮ると背景が樹皮だけになってしまい、何を見せたいのかが分かりづらい写真になりがちです。そんな時、懐中電灯を使って撮ると、光の当たっていない部分は暗く、被写体はスポットライトのように印象的に照らすことができるため、メリハリのある写真に仕上がります。これには、夜の森で懐中電灯を片手に虫を探し、見つけた瞬間の視野を共有する効果も期待できます。
以上をまとめると、
フラッシュは画面全体を均一に照らすのが得意
懐中電灯は画面の一部を照らしてメリハリをつけるのが得意
という特徴の違いがあります。それぞれの得意分野を理解して、使い分けることで、より良い写真が撮れるようになるはずです!
一方で、均一に照らすのが得意なストロボやフラッシュが活躍する場面もたくさんあります。夜の撮影をはじめ、暗い環境で力を発揮することは言うまでもありませんが、実は日中の撮影でもフラッシュの効果はあるんです!

そんな時、フラッシュの威力が発揮される。
例えば、正午過ぎの真上から日光が直射する時間帯。光量は申し分なく、速いシャッターも難なく切れます。でも、蝶の閉じた翅など、上からの光を面で受けられないような条件では、写真がのっぺりした印象になってしまうことが多いです。そんな時、横からの光を追加してあげることで、一気に鮮やかな印象に変化します。
余談ですが、この作例ではF値を限界まで絞って、背景情報をたくさん取り込んでいます。ベンチやそこで休む人々を入れることで、場の混雑具合を伝える意図で撮っています。ここまでで紹介したパターンの応用ですね!ちなみに、上高地で撮影し、帰りのバスは2時間待ちでした…)
終わりに
さて、いかがだったでしょうか?試してみたいと思うような撮影手法はありましたか?最後に全体を総括して、僕が伝えたいことを書きたいと思います。
結局、良い写真を撮る一番簡単な方法は、いっぱい出かけて、いっぱい撮ることにあります。特に、昆虫のような自然写真の分野はフィールドに出ることで、生き物を探す力や観察眼等の経験値が積まれていきます。機材や撮り方で悩む暇があるなら、1秒でも長くフィールドに出る!これに尽きます。
そして、一度フィールドに出たら、思い切りフィールドでの撮影を楽しみましょう!あなたのその楽しさは、きっと写真にも顕れるはずです!みなさんが昆虫写真を楽しむ一助になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました!
Shomamaru

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